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松本コンサルタントによるCLASを活用した効率的な地籍調査

2026年08月03日

公益社団法人日本測量協会では毎年、GNSS測量をはじめとする様々な応用測量分野に関する研究成果や事例報告を募集して、応用測量論文集を刊行すると共に、技術研究発表会を開催しています。そして、応用測量論文集に掲載された論文のうち、特に優秀と認められたものには応用測量論文奨励賞が授与されます。
徳島市を本社として測量や建設コンサルタント業務などを行う株式会社松本コンサルタントは、2025年8月刊行の「応用測量論文集」第36巻に論文「CLASを利用した地籍調査の新手法に向けて:農耕地・樹園地における精度検証と実務適用評価」が掲載され、第36回応用測量論文奨励賞にも選ばれました。論文の概要と同社の取り組みについて、松本コンサルタントの猪木幹雄顧問、国土調査3課の尾﨑弘課長補佐、菅野雄一課長補佐、今本佳歩主任に伺いました。

取材写真

左から今本氏、菅野氏、猪木氏、尾﨑氏

今回の受賞論文は、2023年度に同社がみちびきを利用した実証事業「地籍調査にCLASを用いるための精度検証及びマニュアル作成」に取り組んだ成果を猪木氏と尾﨑氏、菅野氏が共同で論文としてまとめたものです。
地籍調査とは、土地の境界や面積を明確にするために、国土調査法に基づいて市町村などが行う調査のことで、一筆ごとに土地の所有者、地番、地目、境界の位置を調査・測量して、その結果を地籍図と地籍簿にまとめます。管理は登記所が行い、様々な行政手続や土地取引に活用されています。ただ、国土交通省の発表によると、2024年度末時点で地籍調査の進捗率は全国の53%にとどまっており、中でも林地(47%)や人口集中地区(27%)の進捗率が低く、早急な調査の実施が求められています。
そこで同社は、効率的に地籍調査を行うためにCLAS(センチメータ級測位補強サービス)を使った一筆地測量(筆界点の測量)の精度検証を実施しました。具体的には、国土調査法施行令(別表第四)を精度評価の基準として、精度検証点におけるCLAS観測値(2セットの平均値)と地籍成果値の比較により精度の検証を行いました。そして、計測する際のセット数やセット間較差などを決めた実証用のマニュアル案を作成し、国土交通省に提案しました。

猪木氏は、地籍調査にみちびきのCLASを活用した理由を次のように説明します。
「(会社が本拠を置く)四国地方は急峻で人工林が多く、基準点を設置して人数をかけて測量を行う手法が効率的ではありません。加えて、地籍測量では民間企業が提供する基準点の補正情報を使えない規定があります。そのため、公的な補正情報を利用した高精度測位技術であるCLASの活用を考えました」

地籍調査では、土地の利用状況に応じて測量の精度区分(甲一~三・乙一~三)が定められています。一般に建物や道路などが多く土地利用の密度が高い区域は「甲」、農用地や山林など比較的広がりのある区域は「乙」とされ、それぞれ求められる精度に応じて3段階に分けられています。なお、農地でも圃場整備などにより区画が整えられた区域は「整形された農用地区域」として甲三に該当する場合があります。今回の検証では、圃場整備後の農地を甲三地区、山間部の谷間を乙一地区として、それぞれの基準に照らしてCLASを利用した一筆地測量の精度を確認しました。

現場での一筆地測量における検証の結果、圃場整備後の農地(千葉県長生村)ではRMS誤差が3.5cm(甲三の基準は15cm以下)で最大誤差が7.0cm(甲三の基準は45cm以下)、山間部の谷間(徳島県三好市)ではRMS誤差は4.0cm(乙一の基準は25cm以下)で最大誤差22.1cm(乙一の基準は75cm以下)といずれも基準値を満たす精度となりました。これは、上空視界を確保できる環境なら、CLASを使って必要な精度を満たせるという結果です。

精度検証-01

精度検証の様子(千葉県の甲三地区)

精度検証-02

(徳島県の乙一地区)

地籍調査にCLASを活用する取り組みは、近年継続して進んでおり、今年6月に国土交通省が発表した効率的・効果的な地籍調査を進めるための「3ヶ年加速化施策パッケージ」にも、農山村部における課題と対応の方向性として、準天頂衛星「みちびき」を活用した地籍調査(技術実証)など、技術進展を踏まえた新たな調査手法の検証を進めることが盛り込まれました。

授賞式写真

応用測量論文奨励賞の授賞式(前列左から2人目が猪木氏、提供:公益社団法人日本測量協会)

猪木氏は、地籍調査へのCLAS活用を関係機関に認めてもらうには、実証事業の成果を公的組織において学術論文として発表し、周知を図る必要があると話します。そして、日本測量協会に論文を評価してもらうことで、多くの測量技術者にアピールし、新技術・新手法の採用にあまり積極的でない技術者にもCLASに目を向けるきっかけになってくれればよいと期待しています。

「受賞は予想外でしたが、とてもうれしかったですね。創業から半世紀以上も地籍調査に関わってきて、やっと自分たちの効率化への思いが実りつつあるという感慨がありました。奨励賞をいただいて、常日頃から『何か新しい手法はないか』と考えながら取り組む大切さを改めて思いましたし、現在、(測量業界において)若手社員の採用が難しい状況の中で、技術だけでなく、こうした“思い”を継承していくことが大事だと感じました」(猪木氏)

「これまで猪木顧問と共に険しい道を拓きながら、何とかここまで新技術の検証を行ってきました。この成果で終わりにするのではなく、これからも効率的な運用に向けてCLASやLiDAR SLAMを使って様々な検証に邁進し、論文も発表していきたいと思います」(尾﨑氏)

「実証事業では猪木顧問が先頭を走って検証を進めて、私はその後ろをついていった形でした。今後は自分自身が経験やアイディア、マインドを受け継ぐと共に、さらに次の若い世代に継承していきます」(菅野氏)

「山間部などでは測量機器の重さが負担となります。CLASやLiDAR SLAMなどの新技術が普及することで測量作業の負担軽減や効率化がさらに進み、誰でも場所を問わずに測量できるようになっていけたらと思います。新技術の活用で、女性や若者をはじめとする幅広い人材が活躍しやすい環境になっていくことを期待しています」(今本氏)

同社は今後も新技術の研究開発と実証を続ける方針で、特にレーザースキャナーで対象物をスキャンして自己位置と周囲の点群データを同時に計測する「LiDAR SLAM」に注目しています。GNSS電波が入りにくい樹木の下などの環境において、CLASによる計測で設置した標定点を基準にして、LiDAR SLAMで地籍測量を行う技術の実証や今後に向けた提案用のマニュアル案の作成などを進めています。

松本コンサルタントは、1971年に松本測量有限会社として設立されました。当時は四国地方に地籍測量を専門に行う測量会社が少なく、その後、松本測量設計株式会社に名称変更し、道路や橋梁など土木関連の設計業務にも事業を広げました。さらに土木や測量関連のGIS(地理情報システム)を活用した空間情報コンサルティング事業にも拡大して、2006年に現在の名称となりました。

現在、行政や民間企業向けのGISのシステム開発を手がけていますが、きっかけは1984年に地籍調査の手法が、平板測量(距離と方向を測定して図面上で位置を決定する)から数値測量(GNSSやトータルステーションを使って筆界点の座標を決定する)に変わったことでした。数値測量のための測量システム開発がGISの自社開発へとつながり、現在では森林資源管理や水道管理、現地調査、農地管理、道路台帳管理、自治体の全庁型GISなど様々なシステム開発へと広がりました。地籍測量のシステムは他社に販売しているほか、自社の業務効率化にも役立てています。

新しい技術や製品の導入にも積極的で、1993年にGPS測量機、2011年にMMS(モービルマッピングシステム:車載写真レーザ測量による3次元点群データを用いた高精度測量技術)、2015年に3次元レーザースキャナー、2016年にUAV(ドローンなどの無人航空機)を導入するなど、各時代の最新機器をいち早く導入しています。「測量機器は値段が高い時に買う」を持論とする猪木氏は、購入当時は日本に数台しかなかったMMSを早期に購入したことで防災対策に活用できたり、大手企業から高速道路の高精度3次元地図を作るためのMMS計測の委託を受けたりと、早期導入を積極的な事業展開に活用してきました。この姿勢が同社の企業文化として根づき、技術者のモチベーションの高さにもつながっているといえます。

同社は、測量技術の基本を重視した社員教育を心がけており、入社後1~2年時には、GIS部門や営業部門、研究開発部門の人材であっても現場で測量作業を体験します。また、年次の教育計画に沿って測量士や測量士補をはじめ、技術士やIT関連、ドローン関連、インフラ関連、防災関連、農業関連など社員が様々な資格を取得するためのサポートを行っています。2026年4月現在、214名在籍する社員のうち測量士は77名、測量士補は67名と多数が測量の国家資格を保有しています。
猪木氏は、みちびきの衛星が今後7機、11機へと増え、CLASの補強対象衛星も増えることで上部視界が狭い場所でも計測しやすくなることに期待しており、「みちびきという日本の技術で、我々が自信を持って測量できる環境を作っていただけるよう願っています」と話して、取材を終えました。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※画像提供:株式会社松本コンサルタント、公益社団法人日本測量協会

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