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宇宙科学技術連合講演会で、みちびき関連セッション

2017年11月22日

10月25~27日、新潟市で第61回宇宙科学技術連合講演会が開催されました。日本航空宇宙学会が主催するこの講演会は、3日間の会期中、12会場で600件以上の講演が行われる大規模な学会です。みちびき関連セッションとして26・27日に多くの講演が行われました。今年はみちびき初号機の内閣府移管に続き、6~10月の2・3・4号機打ち上げで4機体制が整ったこともあり、実観測データなどを踏まえた活発な意見交換が行われました。

みちびき初号機の運用報告

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の村上滋希氏は、2010年9月11日の打ち上げから2017年2月28日の内閣府移管まで約6年5カ月間のみちびき初号機の衛星運用結果を報告しました。JAXAでの当該技術実証運用期間において、アベイラビリティは約99%、またSIS-URE(衛星起因の測距誤差指標)は約74cm(2RMS)を達成したことを報告しました。また、技術実証運用期間中に発生した事象について分析し、結果を報告しました。

JAXAの村上氏

JAXAの村上氏

他にJAXAから瀧口博士氏(複数GNSS対応高精度軌道時刻推定システムの高精度化に向けた取り組み)、三好翔氏(複数GNSS対応高精度軌道時刻推定ツールプロダクトの安定的供給における課題と対策)、山田英輝氏(複数GNSS対応単独搬送波位相測位技術の利用実証 ─ 昨年度までの成果と課題 ─)、五十嵐祐貴氏(複数GNSS 対応高精度軌道時刻推定ツールにおけるGalileoの軌道時刻精度向上)の4氏が講演を行いました。

(左から)JAXAの瀧口氏、三好氏、山田氏、五十嵐氏

(左から)JAXAの瀧口氏、三好氏、山田氏、五十嵐氏

みちびき2号機の軌道上チェックアウト

三菱電機株式会社の工藤雅人氏は、6月に打ち上げられたみちびき2号機の軌道上におけるチェックアウト(初期機能確認)を報告しました。JAXA臼田局や三菱電機の鎌倉製作所内に設けたL帯信号受信設備による受信結果、軌道上の位置関係から太陽が地球に隠され発生電力がゼロになる「食」状態での発生電力と充電電流・放電電流の推移のグラフ、2号機から適用している擬似ヨーステアリングの姿勢プロファイルなどを紹介、「すべての衛星動作に問題はなかった」としました。また、3号機のチェックアウトも正常に完了し、4号機も同様に実施中だと報告しました。

三菱電機の工藤氏

三菱電機の工藤氏

みちびきが提供するサービスの概要

日本電気株式会社の石橋諒馬氏は、衛星測位サービスの概要と仕様を説明し、アベイラビリティ向上の目的で整備されているエフェメリス生成の冗長システムの概要などを紹介しました。
同じく日本電気の松本大樹氏は、サブメータ級測位補強サービスの目的や仕様、信号のメッセージ構造、電子基準点を使用した測位精度評価結果などを紹介しました。今後の予定として「4号機の打ち上げ後軌道上試験・測位性能検証を経て、2018年度の運用開始に向けて総合システム検証を進めていく」と報告しました。

日本電気の石橋氏

日本電気の石橋氏

日本電気の松本氏

日本電気の松本氏

三菱電機株式会社の太田晃司氏は、センチメータ級測位補強サービスの概要を報告しました。全国約1300点の電子基準点のうち、常時300点を使用して補強信号を生成するプロセスや、センチメータ級測位補強サービスを利用する安全運転支援、IT農業などの利用イメージを紹介。「来年以降は、アジア太平洋地域へのプロモーションを行っていく」としました。

日本電気株式会社の友寄千勇氏は、災害・危機管理通報サービス「災危通報」の概要と試験サービスの状況を報告しました。災危通報のメッセージはL1S信号で4秒に1回配信され、メッセージタイプには「43:気象庁防災情報」と「44:任意情報」の2種類があると説明。「災危関連情報をより多くの利用者に配信するためには配信インフラの多重化が重要で、衛星から配信される災危通報がその重要な役割を果たすことができる」と解説しました。また、重要度の高いメッセージを優先的に配信するための優先順位付与による配信の仕組みも紹介しました。

三菱電機の太田氏

三菱電機の太田氏

日本電気の友寄氏

日本電気の友寄氏

みちびきの利用拡大活動

日本電気株式会社の市ノ瀬大樹氏は、みちびきの利用拡大活動として、ウェブサイトやイベント出展による情報発信、実証実験の推進状況を報告しました。加えて宇宙にあまり関わりを持たない一般の人たち、次代を担う子どもたち向けのプロモーション活動として、特設ウェブサイト「みんなのみちびき」や、2・3号機打ち上げで行った「みんなのカウントダウン」の取り組みも紹介。「みんなのカウントダウン」では2機合わせて1万人以上が参加し、「(みちびきを)夏休みの自由研究の題材にしました、宇宙に興味を持つきっかけとなったようです、など生徒や先生からお手紙をいただいた」と波及効果の一例を紹介。「みちびきに関わった多くの方々が誇りに思えるような、重要インフラとして定着させたい」と締めくくりました。

日本電気の市ノ瀬氏

日本電気の市ノ瀬氏

次世代SBASの開発状況などを報告

電子航法研究所の伊藤憲氏は、みちびきを7機体制とする場合に考えられるコンステレーション(衛星配置)を、8の字軌道を追加する場合や、静止軌道を増やす場合など複数パターンにおいてシミュレーションと評価を行いました。電子航法研究所からは他にも、北村光教氏が、日本が世界に先駆けて実証実験を開始している次世代SBAS(衛星航法補強システム)のプロトタイプ開発状況を報告したほか、麻生貴広氏(次世代SBASのプロトタイプを用いた初期的評価)と坂井丈泰氏(次世代SBASの規格化動向)が講演しました。

(左から)電子航法研究所の伊藤氏、北村氏、麻生氏、坂井氏

(左から)電子航法研究所の伊藤氏、北村氏、麻生氏、坂井氏

みちびきに関連した研究活動など

警察庁科学警察研究所の原田豊氏は、地元の知恵や知識を簡易なツールで地図にひも付ける手法『聞き書きマップ』を紹介しました。小学生による実施事例や、これを採用したモデル校が国土交通大臣賞を受賞した事例、海外での受賞事例(GNSS.asia Challenge 2017 第2位)も報告しました。また、横浜国立大学の高橋冨士信氏は、2011年から継続しているスマートフォンを使ったGNSS/QZSSの定点観測を報告し、観測を支えてきた歴代の機種や、自宅と研究室に構築した観測システム、さらには観測情報を掲示する自身のブログ「南十字星からQZSS/地球を眺める」(http://blog.goo.ne.jp/qzss)などを紹介しました。

科学警察研究所の原田氏

科学警察研究所の原田氏

横浜国立大学の高橋氏

横浜国立大学の高橋氏

東京大学の大平亘氏は、GNSSやQZSSへの関心をアジア各国において高めつつ、研究者や技術者を増やすため、自由に利用できるBase Stationを各国の大学に設置し共同運用する取り組み「Asian Base-Station Network(ABN)」を紹介しました。同じく東京大学の宮澤聡氏は、測位信号のスプーフィング(偽装)対策となる「GPS測位信号認証技術」のコンセプトを紹介しました。
このほか、東京海洋大学の細見巧氏と神明奈氏も講演し、細見氏は、無人機UAV、無人船USV、無人陸上機UGVなどの移動機械を「自律式小型作業機」と位置付け、GNSSを利活用するメリットや課題を報告しました。神氏は、3D都市データを用いたみちびきの効果シミュレーションの結果を発表しました。

(左から)東京大学の大平氏、宮澤氏、東京海洋大学の細見氏、神氏

(左から)東京大学の大平氏、宮澤氏、東京海洋大学の細見氏、神氏

セッションオーガナイザーを務めた日本電気株式会社の村井善幸氏は最後に、たいへん実り多い講演会であったことを報告し、関係者への謝辞と共に「来年は、使ってみたらこうだったという報告が聞けるのではないかと、さらに楽しみです」と挨拶しました。

日本電気の村井氏

日本電気の村井氏

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