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日本航海学会でみちびきに関する4つの講演

2018年06月21日

航海に関する学術的な考究を目的とする日本航海学会は2018年6月8、9日の2日間、都内の東京海洋大学越中島キャンパスにおいて第138回講演会、及び創立70周年記念講演会を開催しました。その中からみちびきに関連した4つの講演の概要を紹介します。

講演風景

─ 内閣府・滝澤参事官

滝澤参事官

準天頂衛星システム戦略室長を務める内閣府宇宙開発戦略推進事務局の滝澤豪参事官は、基調講演として宇宙開発利用に関する政府の体制を紹介し、みちびきの政策的な位置付けを説明しました。みちびきに関する政府方針は「未来投資戦略」や「地理空間情報活用推進基本計画」などの様々な政府関連文書において、2018年度に4機体制を構築することと、2023年度を目途として7機体制構築に向けて取り組みを進める方針が示されています。
また、みちびきのGPS補完機能や測位補強サービス、メッセージサービスなどの機能を紹介し、みちびきは「位置」と「時間」のセンサー情報を誰でも容易かつ効率的に利用できる社会インフラとして大いに役立つと語りました。測位精度の向上によって新たなサービスの登場が期待されるとして、「世の中に存在しないサービスをぜひ皆さんに考えていただきたい」と呼びかけると共に、農機や乗用車、除雪車、ドローン、カーナビ、スポーツ、福祉機器など様々な分野における高精度測位の活用法を具体的に紹介しました。

─ 日本電気航空宇宙システム・大和田氏

大和田氏

日本電気航空宇宙システム株式会社の大和田諭氏(防衛航空システム事業部 第一技術部 主任)は、みちびきのSLAS(サブメータ級測位補強サービス)の測位精度評価の過程において調査したGPS/QZSS間の“擬似距離ISB(Inter System Bias)”について報告しました。擬似距離ISBとは、主に受信機内の各衛星系回路間の遅延差に起因して発生するバイアスを意味します。擬似距離ISBは受信機ごとに異なるため、異機種の受信機を使って観測したデータの統合処理を行う場合はISB補正をする必要があります。
大和田氏の実験では、異なるメーカーの受信機4機についてみちびき初号機と2号機のISB推定値を測定しました。その結果、受信機のハードウェア構成や処理系統の違いによって衛星システム間の擬似距離ISBが発生する可能性があり、その場合はISBの補正が必要であることが分かりました。大和田氏は今後、みちびき3、4号機でも同様の実験を続けていく予定です。

─ 日本電気・神藤氏

神藤氏

みちびきの利活用推進に携わる日本電気株式会社の神藤英俊氏(宇宙システム事業部 準天頂衛星利用推進グループ エグゼクティブエキスパート)は、みちびきのシステムや軌道、サービスなどの概要と「GPSと同じ周波数の信号を配信することで1つの衛星群として扱うことが可能になる」というみちびきのメリットを紹介しました。
具体的な利活用推進の取り組みとして、農業用トラクターの大手3社と北海道大学が参加して行った実証実験や、みちびき対応のSLASに対応したGNSS/3Gトラッカーを用いたジェネクスト社の交通安全分析サービスの事業化事例の紹介、海技大学校の練習船により瀬戸内海で行ったSLASの測位実証実験の報告などを行いました。
また、自動運航船の国際ルール策定に向けて議論が始まったIMO(国際海事機関)第99回海上安全委員会への参加報告と、みちびきの全世界無線航行システム(WWRNS:World-Wide Radio Navigation System)認証取得までの推進案についても説明しました。

─ 日本電気・中川氏

中川氏

みちびきの開発整備に携わる日本電気株式会社の中川貴雄氏(宇宙システム事業部 第四宇宙システムグループ エキスパートエンジニア)は、みちびきが提供する信号の種類と周波数、カバレッジなどのサービス概要や、初号機~4号機の打上げ日や運用移管日などの衛星システムの概要、主管制局・副管制局・追跡管制局からなる地上システムの概要について説明しました。みちびきの運用状況に関わる情報は「NAQU(Notice Advisory to QZSS Users)」として、みちびきウェブサイトやTwitterアカウント“@QZSS_Status”(https://twitter.com/QZSS_Status)で提供していることも紹介しました。
中川氏は、15年という長期間にわたり安定してサービスを提供できる基盤としてみちびきの総合システムを整備してきたと述べ、現在実施中の試験サービスにおいて総合システムの仕様を満たすことを確認した上で、2018年11月1日からみちびきの本サービスを開始すると報告しました。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター、喜多充成・科学技術ライター)

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