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ジオセンスがCLAS対応のGNSS受信ボードを発売

2022年11月24日

昨年(2021年)から今年にかけてみちびきのCLAS(センチメータ級測位補強サービス)に対応した安価な受信モジュールが各社から発売されています。ジオセンスが開発したGNSS受信ボード「D9CX1」もその一つで、L6信号を受信するu-bloxの受信モジュールNEO-D9Cを搭載し、同じくu-bloxの受信モジュールZED-F9Pを搭載する同社のGNSS受信ボード「F9PX1」と組み合わせることで、CLASによる高精度測位を実現します。
今回は、D9CX1を開発した株式会社ジオセンスの小林一英 代表取締役社長と、同製品を使った受信機セットを販売する IGコラボレーションの玉置三紀夫氏に話を聞きました。

小林社長

小林社長

玉置氏

玉置氏

ZED-F9Pと組み合わせてCLAS測位を実現

F9PX1

F9PX1

ジオセンスは、兵庫県三木市を拠点として、GIS(地理情報システム)を始めとするシステム開発や電子機器製品の輸出入などを行っており、2019年に独自開発のハードウェアとしては初となるGNSS受信ボード「F9PX1」を発売しました。
以前は地図会社に勤務し、当時から衛星測位に興味があったという小林一英社長は、ジオセンス設立後にu-bloxがZED-F9Pを発売したのを知り、その性能に魅力を感じてF9PX1を開発したそうです。
「ZED-F9Pは、試してすぐに素晴らしい製品だと分かりました。これを簡単に使えるようにして普及させたいと思い、M5Stack社製の小型マイコンボードに装着できるGNSS受信ボードとしてF9PX1を設計し、制御ソフトウェアを自作して発売しました」(小林社長)

このF9PX1に続いて今年(2022年)3月末に発売したのが、CLASに対応したGNSS受信ボード「D9CX1」です。このボードはL6信号を受信可能で、受信したデータを直接ZED-F9Pに転送すればCLASによる高精度測位を行えます。また、タブレットと接続することでMADOCA-PPP(高精度測位補強サービス)による測位も可能となります。

D9CX1

D9CX1

開発に当たって工夫した点を、小林社長は次のように説明します。
「みちびきの信号を1つのアンテナで受信する場合、L6はNEO-D9Cに、L1・L2はZED-F9Pへと信号を分けて送る必要があり、L6とL1・L2に分けるためのスプリッターが必要となります。それをボードに組み込むことで、スプリッターを別途用意しなくても使えるようにしました」

(M5Stackなどの)汎用のマイコンボードと組み合わせやすいようにGroveコネクタ(4端子の汎用コネクタ)を搭載したほか、USBで給電でき、DC/DCコンバーターにより1.8~5Vの範囲で使えるようにして、マイコンなどから給電する際、電圧が異なる場合でも調整できるように工夫しました。

購入後すぐに使えるCLAS受信セット

TakionCM-001

TakionCM-001

D9CX1は、同社の直販サイト「ジオセンス ヤフー店」で単体で販売しているほか、F9PX1とD9CX1を接続し、L6対応アンテナと組み合わせた受信機セット「TakionCM-001」が、ECサイト「玉置商事」から販売されています。
玉置商事を運営するIGコラボレーションの玉置三紀夫氏は、このL6対応アンテナについて「これまで販売したTakionCM-001の利用者から、良好に受信でき、大きなアンテナと比較してもそれほど差がないとの感想もいただいている」とコメントしています。

中国製アンテナ

セットには安価な中国製アンテナを使用

TakionCM-001は、購入したその日にすぐCLAS測位を行える安価な受信セットとして税込78,100円で販売されており、D9CX1単体であれば税込18,700円で購入できます。ECサイトから通信販売で手軽に購入できるTakionCM-001とD9CX1は、大学の研究者や自動車メーカー、ドローンメーカーなど幅広い分野で利用されているそうです。
「センチメータ級測位の素晴らしさを多くの人にぜひ味わってもらいたいと思い、いかに安くするかを追求しました」(小林社長)

ジオセンスは今後、より利便性を追求し、TakionCM-001を筐体に入れた単体の受信機や、マイコンボードM5Stackに装着可能なモデルの発売も検討しています。また、現在はF9PX1とD9CX1の2枚重ねの状態で販売していますが、ZED-F9PとNEO-D9Cを1枚のボードに実装した製品も開発中で、より小型・軽量かつ安価なCLAS対応受信機の開発を目指しています。

ノートPCとの接続(左)、車に取り付けたアンテナ(右)

ノートPCにTakionCM-001を接続(左)、アンテナはマグネットで車に取り付け可能(右)

複数アンテナによる高精度測位で方向検知

盲人用ナビシステム

アンテナを2個使用した盲人用ナビシステム

ジオセンスは、受信機以外にも高精度測位を活用したさまざまなソリューションの研究開発を行っています。その一つが、帽子に2台のアンテナを装着し、それぞれRTK(リアルタイムキネマティック)測位対応のGNSS受信機を接続することで、アンテナの相対位置をもとにその人がどの方向を向いているかを高精度に検知する盲人用ナビゲーションシステムです。

正しく目標の方向を向いている場合は無音で、左右にずれている場合は警告音が鳴る仕組みで、目をつぶって警告音を聞きながら向きを変えて歩く実験を行ったところ、真っ直ぐ歩くことに成功したそうです。この盲人用ナビゲーションでも、実用化に際してはCLAS測位を採用する予定とのことです。
「CLASであれば、携帯電話が圏外のエリアであっても、日本中どこにいても利用できます。2つのアンテナを使って方向を検知するシステムなので、歩行者だけでなく自動車や車椅子などでも利用できます」(小林社長)

今期・元期を変換するウェブツールも提供

TakionCM-001の測位結果

TakionCM-001の測位結果

小林社長は、TakionCM-001を使ったCLASの測位実験を自社のウェブサイトに公開しています。自動車で街中を走行しながらTakionCM-001で測位した軌跡データを地図上に可視化すると、道路に沿ってずれのない正確な軌跡が記録されていることが分かります。
「軌跡を細かく見ていくと、歩道橋の下を通る時だけ測位がFIXしていません。このように位置と画像がしっかり合うというのは、長年、衛星測位を研究している者から見ると、とてもすごいことだと思います」(小林社長)

小林社長は、みちびきの測位の素晴らしさを実感しており、より多くの人にみちびきを利用してもらうため、自社のサイトに測位の検証結果など技術的な情報を掲載しています。CLASに関する質問などがあれば、製品購入者以外からでも積極的に回答するようにしているといいます。

CLASとRTK測位が混在する環境でのニーズを満たすために、今期座標(実際に測位を行った時点の座標)を元期座標(地殻変動に伴う経年のひずみを反映しない座標)に変換するウェブツール「kon2gen」を今月(2022年11月)発表し、このkon2genを使って、オープンソースのマッピングソフト「QGIS」により測位データをマッピングする方法もサイトに公開しました。

同社は、CLASの普及に向けて受信機の開発にとどまらず、今後もさまざまな取り組みを続けていく方針です。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※本文中の画像提供:株式会社ジオセンス、玉置商事

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