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SLAS対応のHonda新型「レジェンド」が自動運転レベル3を実現

2021年05月17日

本田技研工業株式会社(Honda)は今年3月、世界で初めてレベル3の自動運転技術を搭載した量産車となる新型「レジェンド」を発売しました。

新型「レジェンド」

新型「レジェンド」

搭載されている先進安全技術「Honda SENSING Elite(ホンダセンシングエリート)」は数多くの先進技術によって支えられており、中でも重要な役割を果たしているのがみちびきのサブメータ級測位補強サービス(SLAS)です。開発責任者である株式会社本田技術研究所 先進技術研究所の杉本洋一氏(知能化領域 兼 AD/ADAS研究開発室 エグゼクティブチーフエンジニア)、とオートモービルセンターの母里佳裕氏(AD/ADAS研究開発室 第2ブロック チーフエンジニア)、本田技研工業株式会社 四輪事業本部ものづくりセンター 電子制御開発統括部の杉山顕司氏(電子プラットフォーム開発部 電子制御ユニット開発課 チーフエンジニア)の三氏に取材しました。

取材した3人の画像

左から杉本氏、母里氏、杉山氏

量産車として世界で初めてレベル3の認定を取得

米国自動車技術者協会(SAE=Society of Automotive Engineers)の定義によると、自動運転の技術水準は、レベル0(自動運転機能なし)、レベル1(運転支援)、レベル2(部分自動化)、レベル3(条件付き自動化)、レベル4(高度自動化)、レベル5(完全自動)の6段階に分けられています。ドライバーの運転操作を支援する先進運転支援システム(ADAS=Advanced driver-assistance systems)を搭載した量産車は、これまでレベル2までしか市販されていませんでしたが、新型レジェンドは量産車としては世界で初めて、国土交通省より自動運転レベル3の型式認定を取得して発売されました。

自動運転システムのレベル定義

自動運転システムのレベル定義(©本田技研工業株式会社)

自動運転の6つの技術レベルのうち、レベル2までは運転操作の主体が運転者(ドライバー)であるのに対して、レベル3以上では主体がシステムとなり、ここに大きな壁がありました。運転の主体がシステムになると、人(ドライバー)はカーナビの画面でテレビや動画を視聴したりできます。ただし、限定された条件から外れる場合、システムから要求されたらドライバーはいつでも運転を代われるように待機しておく必要があります。

車線変更支援機能や渋滞時運転機能を提供

車線変更支援機能や渋滞時運転機能を提供(©本田技研工業株式会社)

新型レジェンドに搭載された先進安全技術「Honda SENSING Elite」では、渋滞時、特定の条件下に限って「トラフィック・ジャム・パイロット(TJP=Traffic Jam Pilot)」というレベル3の自動運転機能が利用できます。これはシステムがドライバーに代わってアクセルやステアリング、ブレーキを操作する機能で、ドライバーは周囲の監視義務からも解放されます。
また、レベル2の機能になりますが、ハンズオフ(ハンドルから手を離した状態)での車線維持機能や車線変更機能も搭載されているほか、車速の遅い先行車を検知した際に、ドライバーに告知した上でハンズオフでの追い越しや車線復帰を支援する「高度車線変更支援機能」も世界で初めて搭載されました。
「高齢者でも運転不安から解放され、誰もが自由に移動できるモビリティを提供したい、というHondaのビジョンに従い、交通事故原因の大きな要素となっているヒューマンエラーを大幅に削減できる可能性を持つ自動運転技術を開発しました。それにより、レベル3の領域に新たな一歩を踏み出したのです」(杉本氏)

車線位置を特定できる測位精度をSLASで実現

LiDAR、カメラ、ステッカーの画像

車体の前後左右に配置されたLiDAR(左)、フロントウインドウ上部に搭載されたカメラ(中央)、レベル3の自動運転車であることを示すステッカー(右)

Honda SENSING Eliteは、カメラやミリ波レーダー、LiDAR(レーザーレーダー)などのセンサー、そしてブレーキや電動パワーステアリング(EPS=Electric Power Steering)など車両制御装置の冗長化など、数多くの先進技術で構成されています。その中の一つとして、みちびきのSLAS、及びSBAS(衛星航法補強システム)に対応したマルチGNSSアンテナと、同じくSLAS/SBASに対応したGNSS受信機を内蔵する地図ECU(Engine Control Unit)が搭載されています。
地図ECUでは、SLAS/SBASによって得られた位置情報(緯度・経度)を、車両周辺の高精度3次元地図と共にメインECU(制御ECU)に送ります。メインECUはその位置情報をもとに、加速度センサーや角速度(ジャイロ)センサーの情報を加味して、カメラに映る映像と高精度3次元地図を重ね合わせて照合することで、車線を判別できるレベルの詳細な自車位置を最終的に割り出します。

センターコンソール

大型ディスプレイが搭載されたセンターコンソール

「高速道路の車線形状やその他の地物が正確にデータ化された3次元地図と、衛星測位で得られる位置情報の双方が高精度であって初めて、このシステムにおける有効な位置推定が可能となります。車線の位置を特定できる精度を実現可能なみちびきのSLASを採用したのはそのためです」(杉山氏)
「(メインECUが自車位置を推定する)基準となる位置情報に衛星測位を使うので、その精度が揺らぐとTJP(トラフィック・ジャム・パイロット)や高度車線変更支援機能などの機能が制限される場面が増え、『昨日はTJPが使えたけれど、今日は同じ道でもレベル2の運転支援機能しか使えない』といった具合に不安定になってしまいます」(母里氏)

メーターパネル、ハンドル右側のボタンやレバー

走行中の情報を示すメーターパネル(左)、ハンドルの右側には車速設定や車線変更を行うためのボタンやレバーが配置されている(右)

衛星測位で得られる位置情報は、自動運転システム全体の土台として使われており、特に絶対位置の推定には必要不可欠であるため、みちびきによる測位が高精度化・安定化することは大きなメリットとなります。Hondaでは、日本全国の高速道路上において、トンネルなどを除く95%のエリアでSLASの精度を確保できることを設計時の目標に定めているといいます。
「高速道路の中にはビル群や山の陰になって測位環境が悪いエリアもあり、高仰角のみちびきに対応した受信機を使えば、車両位置の割り出しをより安定して行うことができます。なお、通常時はSLASによる位置情報を優先的に利用していますが、トンネルを抜けた直後などは、衛星電波を受信してからSLASが利用可能になるまで多少の時間を要しますので、その間はSBASの補強信号を利用して一定の精度を確保し、その後、SLASの測位結果に置き換えるなど、状況に応じた使い分けを行っています」(杉山氏)

Honda SENSING Eliteのシステム構成

Honda SENSING Eliteのシステム構成(©本田技研工業株式会社)

シャークフィンアンテナの中にマルチGNSSアンテナを搭載

SLAS/SBASの測位を実現するL1S/L1Sb信号に対応したマルチGNSSアンテナは、車両のルーフ(天井)後部にある流線型のシャークフィンアンテナの中に格納されています。
「オーディオ用ラジオアンテナも同梱するため、普通のGNSSアンテナよりサイズがひと回り大きいSLAS対応アンテナは、当初シャークフィンアンテナに収まらず、初期のテストでは別の大きいアンテナを使用していました。けれど、それでは美観を損ねますので、GNSSアンテナとラジオアンテナ双方の性能改善も図って何とかサイズ調整して、他のレジェンドと同じ形状のシャークフィンに収めることができました」(杉山氏)

シャークフィンアンテナ

アンテナが格納されたシャークフィンアンテナ

地図ECUに搭載された高精度3次元地図でも、開発にはさまざまな苦労があったそうです。
「地図ECUに搭載する高精度3次元地図の製作も車両の開発と並行して同時期に進められました。最初はデータが整っている路線が少なく、高度な運転支援機能のテスト自体が難しかったのですが、高精度地図の整備路線が増えた後も、地域によっていろいろな特殊な地点があり、それに一つ一つ対応していくのが大変でした」(杉山氏)
高速道路なのに信号機がある十字型交差点として知られる美女木(びじょぎ)ジャンクション(埼玉・戸田市)や、T字路になっているところなどは、レベル3の自動運転を利用可能なエリアから除外する必要があったといいます。
高精度3次元地図は、ダイナミックマップ基盤株式会社(DMP)の地図データをベースに、株式会社ゼンリンが独自収集したデータを追加したものを使用しています。テレマティクス制御ユニット(TCU=Telematics Control Unit)の通信機能で適宜、最新データにアップデートされ、新規開通路線などの道路変化や、国土地理院の補正データをもとにした地殻変動による位置変化なども反映されます。

レベル3到達には、みちびきが重要な役割

杉本氏は、みちびきのSLASなど数多くの先進技術を活用することで今回、レベル3の自動運転という新たな扉を開いた点を次のように位置付けます。
「レベル3の自動運転は、定められた条件の中でシステムが事故を起こさないよう担保しなければならず、レベル2(あくまで運転支援)とは技術レベルが大きく違います。いったん量産車で実現すれば、そこから先が開け、かつレベル2の技術引き上げにもつながるということで、われわれはレベル3にチャレンジしました。レベル3は、本当に多くの技術の集合体であり、そのうちどれか一つ欠けても実現できません。中でも、測位の安定性や補強情報といったみちびきの特長は、このシステムを世に送り出すことができた重要な要因の一つです」(杉本氏)

地図ECUの開発に関わった杉山氏も、みちびきの今後に大きく期待しています。
「Honda SENSING Eliteは、SLASによる高精度測位で成り立っているシステムであり、それを活用して世に送り出すことができたのは非常に喜ばしいことです。今後はCLASによる高精度化などに期待していますが、そもそも使える衛星が少ないと測位精度が不安定になるので、自動運転技術の活用にはさらに多くの測位衛星が必要と考えています。そういう意味でもみちびきの7機体制に期待しており、安定した測位が可能になると考えています」(杉山氏)

杉本氏、杉山氏、母里氏と新型「レジェンド」

左から杉本氏、杉山氏、母里氏

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

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※ヘッダ画像及び本文中の図版提供:本田技研工業株式会社