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ビズステーション矢口氏が語る、新発売のCLAS対応受信機

2022年12月26日

長野県松本市を拠点にシステム開発やGNSS関連製品の開発・販売を手がけるビズステーション株式会社は、みちびきのCLAS(センチメータ級測位補強サービス)及びMADOCA-PPP(高精度測位補強サービス)に対応したGNSS受信機「RWS.DC」と受信機・アンテナの一体型モデル「RWX.DC」の2モデルを2022年10月に、2つのアンテナ接続端子を内蔵した「RWS.DCM」を2022年12月に発売しました。いずれもu-blox製のGNSS受信モジュール「ZED-F9P」及びL6バンド受信モジュール「NEO-D9C」を搭載しており、両モジュールを組み合わせることによりCLASによる高精度測位を実現します。ビズステーションの矢口尚・代表取締役社長に開発の経緯を聞きました。

矢口氏

矢口氏

u-bloxモジュールを搭載したCLAS対応受信機

RWS.DC

RWS.DC

RWX.DC

RWX.DC

RWS.DCM

RWS.DCM

矢口氏は1994年、販売管理や財務会計ソフトウェアの開発・販売、システムコンサルティングなどを行う会社として、ビズステーション株式会社を設立しました。2017年にはモータースポーツでラップタイム計測に使うデータロガーをコンシューマー向けに発売し、GNSS関連機器の開発をスタートしました。さらに測量分野に向けて、u-bloxのRTK(リアルタイムキネマティック)対応モジュールZED-F9Pを搭載した受信機「DG-PRO1RWS」を製品化しました。

その後、u-bloxが発売したL6信号のデコード用モジュールNEO-D9Cを入手して内部のソフトウェアを自社で独自に開発し、「VRSC(仮想基準局 [VRS] by CLAS)」という製品を発売しました。これは、NEO-D9Cで受信したL6信号をデコードしてCLAS及びMADOCA-PPPに対応したSSR(状態空間表現、個別誤差)データを独自ソフトウェアでOSR(観測空間表現、自己位置における総合誤差)データに変換してRTCMフォーマットで出力する機能を搭載しています。ZED-F9Pを搭載する受信機「DG-PRO1RWS」とWi-Fiで連携し、PPP-RTKによるセンチメータ級の測位を実現しています。

VRSC

VRSC

その後、u-bloxがSSRからOSRに変換する機能をZED-F9Pに実装し、NEO-D9CとZED-F9Pを直結させれば、NEO-D9CでデコードしたCLASの補正データをZED-F9Pに直接送れるようになったのを受けて、同社はNEO-D9C及びZED-F9Pを内蔵するCLAS対応受信機として、新たにRWS.DC、RWX.DC、RWS.DCMの3モデルを発売しました。矢口社長は、開発の理由を次のように説明します。
「ネットワーク回線が不要で、衛星からの電波だけで誤差数cmの測位ができるというのは、誰もが夢見ることです。弊社はすでにVRSCで実現しており、そのノウハウを活かしてより手軽に低コストで利用できるようにしました。CLASの特性を活かし受信機トータルでの価値を高めるようにしました」

スタンダードモデルの「RWS.DC」

RWS.DC

RWS.DC

3モデルのうちスタンダードモデルの「RWS.DC」は、DG-PRO1RWSにNEO-D9Cを追加し、さらにmicroSDカードスロットも追加して観測ログを保存することができます。加速度・ジャイロ・磁気センサー(各3軸)を内蔵する9軸デジタルモーションプロセッサーを搭載すると共に、防水・防塵仕様となっているのも特長です。
「受信機の回路の部分は、VRSCで得たノウハウがあり開発に特に苦労しませんでしたが、microSDカードスロットの防水には苦労しました。この防水・防塵技術は、自動車のECU(電子制御ユニット)などにも使われており、専用の樹脂で封止することで静電気対策と振動対策も兼ねて、電気的に理想の状態となります。また、モジュールとSDカードにより内部メッセージが増大しました。これを効率よく転送できるメッセージルーティングファームウェアを新規に構築しました」(矢口社長)

アンテナとバッテリーを搭載した「RWX.DC」

RWX.DC

RWX.DC

RWX.DC

大容量リチウムバッテリー搭載(RWX.DC)

このRWS.DCにアンテナとバッテリーを搭載して一体化させたモデルが「RWX.DC」です。バッテリーを搭載することで約18時間の連続使用が可能となりました。
「測量関係のお客様から『ケーブルやバッテリーがぶら下がっていると使いづらい』という声をいただき、受信機とアンテナ、電源が一体となった製品を作りました」(矢口社長)

2つのアンテナ接続端子を備えた「RWS.DCM」

RWS.DCM

アンテナ接続ポートを2つ搭載(RWS.DCM)

2022年12月には、これらに加えて2つのアンテナ接続端子を備えた製品「RWS.DCM」も発売しました。2つのアンテナを使うことでアンテナの相対位置をリアルタイムに出力し、方位を測定できる「Moving Base」という仕組みを利用できます。
「GNSS受信機1台では静止状態において方向がまったく分からず、ジャイロも使う前に一度動かして校正する必要があります。磁気のコンパスでは周囲の磁場の環境に影響され、正確な方位がなかなか得られません。唯一、絶対方位を静止状態で得られるのは2つのGNSS受信機とアンテナを使うMoving Baseの方式であり、校正不要で絶対方位が得られるのは大きなメリットと言えます」(矢口社長)

2台のアンテナを船の船首と船尾に設置すれば、船の向きを把握できます。船が静止していても計測可能で、自動車や農業用トラクター、重機、ドローンなどでも正確に方向を測定できます。

今期と元期を相互変換する地殻変動補正が可能

3製品ともBluetooth通信機能を搭載しており、Android、Windows、Linux、MacOSなどのOSで受信可能です。また、Android向け専用アプリ「Drogger-GPS」をインストールすることで、Googleマップやその他のGPSアプリで利用するためのモックプロバイダーサービスを提供します。このサービスを有効にすれば、他のAndroidアプリはスマートフォン内蔵GPSの代わりにRWS.DCやRWX.DCの位置情報を受け取って動作します。Drogger-GPSではこのほか、衛星受信状況の表示や受信データのロギング、受信機の各種設定、NMEAメッセージの出力、ファームウェアの更新なども行えます。

さらにリアルタイムに地殻変動補正を行うこともできます。観測を行った時点の座標(今期座標)と、地殻変動の影響を考慮しない「測地成果2011」の基準日の座標(元期座標)を相互にリアルタイムに変換する機能も搭載しており、RTK測位とCLAS測位が混在する場合などに便利です。

拡張モジュールでシリアルケーブルで出力可

拡張モジュールでシリアルケーブルで出力可

Drogger-GPSとは別に「Drogger PPM (PPP Positioning by MADOCA)」というAndroidアプリも用意しており、これを使うことでRWS.DC/RWX.DC/RWS.DCMにおいてMADOCA-PPPによる測位も可能となります。
なお、位置情報の出力はBluetoothのほか、Wi-Fi経由で出力したり、別売の拡張モジュールを取り付ければ、RS232Cシリアルケーブルによる有線出力も可能となります。

CLASは誰が使っても高精度位置情報を取得可

RWS.DCのベースモデルであるRTK対応受信機のRWSにアンテナやRFレシーバーをセットにした「RWP」と、RWX.DCのベースモデルである「RWX」は、いずれも国土地理院の1級GNSS測量機として測量機種登録台帳に登録されており、国土地理院の基本測量を行える機器として高い信頼性を誇ります。
RWS.DCとRWX.DCは、いずれもベースモデルの機能はそのままにCLASによる受信機能を追加したもので、発売以来、順調に売上を伸ばしています。
「現在、CLAS対応受信機とRTKに対応したベースモデルの売れ行きは、ほぼ半々です。利用者にとっては、RWSやRWXに少し価格を足せばCLASによる測位が可能となれば便利ですから、そちらを選ぶ人もいると思います。CLAS対応受信機にはmicroSDカードスロットが付いていますから、そこに魅力を感じる方もいます」(矢口社長)

RWS.DCやRWX.DCを購入した人の感想をSNSなどで読むと、「電源を入れただけでFIXして正確な位置が得られる」といった記載があり好評です。
「CLASはネットワーク不要で使用でき、扱いが簡単で、誰が使っても絶対位置として誤差数cmの高精度な位置情報が得られる点が魅力です。一方で、通常のRTKに比べて受信環境の影響を受けやすいという課題もあるので、さらなる対応衛星数の増強や配信シグナルの見直しに期待します」(矢口社長)

同社は今後、今回発売した3モデルにアンテナやオプションなどを加えたパッケージを検討するほか、受信機をいろいろな用途で使えるようにDrogger-GPSのインターフェース改良にも取り組んでいく方針です。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

画像提供:ビズステーション株式会社

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