コンテンツです

日本大学の佐田教授がCLAS論文で応用測量論文奨励賞を受賞

2026年05月12日

公益社団法人日本測量協会では毎年、GNSS測量をはじめ様々な応用測量分野に関する研究成果や事例報告を募集して、応用測量論文集を刊行すると共に、技術研究発表会を開催しています。そして、応用測量論文集に掲載された論文のうち、特に優秀と認められたものには応用測量論文奨励賞が授与されます。
この度、日本大学理工学部の佐田達典教授(交通システム工学科 空間情報研究室)と元日本大学大学院の飯塚洸貴氏、元日本大学の志村悠斗氏の3名による論文「VRSの測位解点検方法との比較によるCLASの測位解点検方法の提案」が、応用測量論文集の第36巻(2025年8月刊行)に掲載され、第36回応用測量論文奨励賞に選ばれました。この論文の概要と自身の研究室での取り組みについて佐田教授に伺いました。

取材写真-1

佐田教授

みちびきのCLAS(センチメータ級測位補強サービス)は、測位解の精度を保証する有効な点検方法が存在しないため、公共測量での利用が認められていません。そこで今回の論文では、公共測量で使用可能なVRS方式(複数の基準局データを利用して、利用者の位置に応じた仮想基準点を生成する方式)のネットワーク型RTK(リアルタイムキネマティック)の点検に準じた方法にて、CLASおよびVRSの点検を実施して比較し、その結果をまとめました。

実験は、日本大学の船橋キャンパス(千葉県船橋市)に設置した基準点で実施しました。この基準点は周囲に建物等がないオープンスカイの環境にあります。Fix解(厳密解)を取得した時刻から1秒間隔で300秒以上の測位データを取得後に、受信機からアンテナケーブルを外して受信を中断し、再びアンテナケーブルを受信機に接続して観測を行う作業を、VRS対応受信機とCLAS対応受信機でそれぞれ約200回実施しました。受信機は、VRSの測位実験では「NetR 9」(Trimble)、CLASの測位実験では「AQLOC-Light」(三菱電機)を使用し、アンテナはいずれも「GrAnt-G5T」(JAVAD)を使用しました。

実験写真-1

CLASの測位実験

実験写真-2

VRSの測位実験

VRSの測位実験では、2024年7月の4日間にいったん受信を止めて再び測位をやり直す再初期化を繰り返す静止測位実験を計197回行ったところ、すべてFix解となったセットを98件取得できました。CLASの測位実験では、2024年4月と5月の4日間で静止測位実験を計200回行ったところ、すべてFix解となったセットを174件取得できました。夏の暑い時期に日陰がない場所で実験を行ったため、作業した学生は大変でしたが、佐田教授は「実際に測ってみるのが一番分かりやすいし、説得力がある」と考えてこの方法を採用しました。

取得した観測値について、Fix解の取得開始時刻からの経過時間1秒ごとに、基準点の座標に基づく較差(測定値と基準点とのずれ)の分布を“箱ひげ図”で表現して分析しました。箱ひげ図とは、データの分布(ばらつき)を“箱”と“ひげ”を使って視覚的に表した統計グラフで、データの最小値、第一四分位数(四分位数は、データを4等分する区切りとなる値)、中央値(第二四分位数)、第三四分位数、最大値の5つを可視化するものです。この時、第一四分位数、および第三四分位数から四分位範囲の1.5倍以上離れた値は外れ値とみなします。今回の実験では、Fix解の取得開始時刻から1秒ごとの較差の箱ひげ図をそれぞれ作成しました。一つの箱ひげ図のサンプル数はVRSで98、CLASで174です。この図を300秒分並べてVRSとCLASを比較しました。

国土交通省が定める公共測量の「作業規定の準則」では、較差の許容範囲は平面直角座標9系(日本国内を地域ごとに分けて定めた座標系の一つ)の場合、X座標およびY座標が±20mm、標高は±30mmとなっています。VRSとCLASで箱ひげ図の時間変動を比較したところ、VRSはX座標とY座標、標高の時間変動は安定し、X座標とY座標がほぼ許容値の範囲に収まっているのに対して、CLASでは時間変動が多いことが分かりました。

図版-1

箱ひげ図(データのばらつきを視覚的に示した統計グラフ)の概要

図版-2

再初期化しFix解取得後の経過時間に対するCLAS測位解の変動

図版-3

再初期化しFix解取得後の経過時間に対するVRS測位解の変動

この結果について佐田教授は、「CLASの値はかなりばらついているが、X座標とY座標については中央値では系統誤差が小さく偏りがないので、(点検などを)上手く行えば使えるのではないか」と解説します。

次に、今回の実験で取得したデータを使って測位解の点検方法も検証しました。公共測量の「作業規定の準則」で示されている「ネットワーク型RTK法による単点観測法」の点検方法に準じて、測位実験ですべてFix解となったVRSの98件と、CLASの174件のデータを対象として、まずFix解の取得開始時刻から300秒までのデータを対象に、1秒~10秒、51秒~60秒、111秒~120秒、171秒~180秒、231秒~240秒、291秒~300秒の6つの時間帯について10エポック(10秒間の観測データ)の平均値を算出しました。

さらにX座標とY座標、標高のそれぞれについて、例えば111秒~120秒の10エポック平均値であれば、次のセットの111秒~120秒の10エポック平均値との差(セット間較差)を求めるといったように、すべての時間帯において順次、セット間較差を計算しました。つまり、VRSでは98件のデータについて、6つの時間帯の10エポック平均値の較差をそれぞれ97回ずつ求めて、CLASでは174件のデータについてそれぞれ173回ずつ求めました。

セット間較差の許容範囲は公共測量の「作業規定の準則」に準じて、X座標とY座標は基準点の座標との較差の絶対値が20mm以内、標高については30mm以内として、許容範囲内に収まった場合に1セット目の10エポック平均値を解として採用しました。そして解として採用された10エポック平均値が、実際に基準点の座標と比較して許容範囲内に収まった割合を“点検正解率”として求めて、この値をもとに点検方法の信頼性を評価しました。

このようにして算出した点検正解率を、VRSとCLASでX・Y座標と標高それぞれに算出したところ、VRSではX座標とY座標は92%以上、標高は86%以上となり、いずれも高い信頼性が得られました。一方、CLASでは、X座標は231秒~240秒の10エポック平均値が85%ともっとも大きく、Y座標はすべての10エポック平均値が90%を超えたため、X座標とY座標については231秒~240秒の10エポック平均値で点検することがもっとも信頼性が高い結果となりました。なお、標高は点検正解率が最大で66%と低く、点検によって採用した解であっても基準点の座標からの較差が許容値を超えてしまう解が34~50%占めるという結果となり、有効な点検方法とは言えないことが分かりました。

図版-4

点検正解率

以上の結果から、佐田教授はCLAS測位解の点検方法として、「作業規定の準則」に示された「ネットワーク型RTK法による単点観測法」の点検方法に準じた方法を提案しています。ただし、これは平面座標(X座標とY座標)のみに適用すると共に、点検方法の信頼性を最大にするにはFix解取得開始後の231秒~240秒の10エポック平均値を2セット用意する必要があるとのことです。2セット取得するには8分程度を要する計算となります。この結果について佐田教授は、「測量」は「測位」と似ているが、考え方が全く異なると説明します。

「測位は瞬間的なもので後に残りませんが、測量は位置出しをした後、その点をもとに別の位置を求めて地図を作るなど、後に残る作業となります。そのため点検が必要であり、品質管理を行わないと怖くて使えません。測量にも様々なものがあり、現時点では精密な測量においてCLASを使うのは難しいですが、例えばモバイル通信の電波が届きにくい山林における境界の測量など、多少の誤差が許容できる場合なら、補正情報を衛星から直に受け取れるCLASのメリットを活かせます。用途に応じてニーズに合った使い方を選ぶことが大事だと思います」(佐田教授)

佐田教授は、もともとは大手ゼネコンに勤務していた技術者でした。1990年頃からGNSS受信機を活用したシステムの研究を開始し、1993年にRTKによる現場測量用のナビゲーションシステムを開発しました。これは、ノートPCの画面に映し出した現場地図の上に測量者の現在位置と目標位置を表示して誘導するシステムで、一定間隔で高さを測ることにより切土や盛土の土量を測定したり、道路のセンター位置を割り出したりすることができました。当時は宅地造成やゴルフ場開発が盛んな時期だったため、頻繁に現場で測量を行ったそうです。

このシステムが完成する前は、角度を測る「セオドライト(トランシット)」や高さを測る「レベル」などの測量機器を使っており、作業に時間がかかっていましたが、ナビゲーションシステムによってGNSSアンテナだけを持って簡便に測量できるようになったため、飛躍的に効率化が進みました。2000年頃からレーザースキャナーによる点群データの測量も始まり、さらに効率化が進みました。

こうして建設現場でDXを推し進めて、測量やGNSSに関する多くの論文を執筆した後、2007年に日本大学理工学部の社会交通工学科(現・交通システム工学科)の教授に就任しました。研究者となってからはGNSSやMMS(モービルマッピングシステム)など測量関連の基礎研究に取り組み、2010年のみちびき初号機打上げ前後には、実験用信号の「LEX(L-band experiment)」を利用したPPP(単独搬送波位相測位)によるセンチメートル級の精密測位のシミュレーションや検証なども行いました。

みちびきが4機体制となった2018年前後からはCLASの精度検証を開始し、以降もCLASに関する論文を毎年多数執筆しています。船橋キャンパス内には、同じ学部で非常勤講師を務めていた元株式会社パスコの三島研二氏と佐田教授が2人で作った基準点が設置されており、今回の実験もこの基準点を活用して行いました。

佐田教授は、交通システム工学科の2年生を対象にした「測量実習」の授業を受け持っており、学生は測量機器の基本的な使い方を学ぶほか、GNSS測量の実習も受講します。GNSSスタティック法(複数の受信機を長時間固定して高精度な測位を行う方法)による測量を行って、巻き尺で測定した距離を比較し、建物の傍で測位すると位置がずれてしまうことなども実地で体験できます。

実験写真-3

スタティック測量の様子

この測量実習の授業をきっかけに測量やGNSSに興味を持ち、ゼミで佐田教授の空間情報研究室を志望する学生も増えてきました。毎年15人ほどのゼミ生が佐田研究室に入り、GNSS測量をはじめ、点群データやドローン、地中レーダーなど様々なテーマで研究を行っています。ゼミ生のうち毎年4~5人はGNSS測量をテーマに選び、みちびきのCLASについても学んで卒業していきます。卒業論文のテーマにCLASを選ぶ学生もいて、「建物の傍と樹木の傍でCLASの測位精度はどう違うか」「CLASでは高さの測位精度は最大どれくらいずれるか」といった研究を行っています。

実験写真-4

研究室で行っている測量の練習

「自らデータを取得して、よく観察するように」が、佐田教授の指導方針です。学生はゼミに入ると、実際にデータを取るところから始めます。GNSSアンテナを持って校内を歩きながら測位データを取得し、Fix解とFloat解はどう違うのか、どこからFix解に変わるのかを確認することで、まずは測位という仕組みを体感で理解します。理論を教わるのは、その後です。
「他人が取ったデータを使って研究しても、あまり面白くありません。自分で苦労して取ったデータを使えば、本気でやる気になります」(佐田教授)

早くからみちびきの高精度測位に着目して長年研究を続けてきた佐田教授に、今後の研究方針とみちびきへの期待を聞きました。
「今は測位衛星の数がものすごく増えて“生存競争”の時代に入りつつあり、今後は信号強度の低い衛星は使わないようにするなど、衛星を選択する時代になっていくと思います。どの衛星を使ってどの衛星を使わないようにするか、その評価を客観的に行っていく必要があります。その中では、みちびきの良さをもっとアピールする必要があり、一方で、みちびきだけですべてを測れないので、他国の衛星と上手く協調しながら運用していくことが大事です。みちびきには今後も“選ばれる衛星”として残ってほしいですね」(佐田教授)

取材写真-2

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

関連記事