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GPS反射波で台風を観測する小型衛星「CYGNSS」の現況報告

2017年08月14日

名古屋大学宇宙地球環境研究所で7月7・8日の2日間、小型衛星に関する研究集会「小型飛翔体による海象観測(その2)/超小型衛星『群』プラットフォームによる高頻度即時観測とその将来」が開催されました。
その初日(7日)に、GPS反射波を利用して台風観測を行うNASA(米国航空宇宙局)の小型衛星ミッション「CYGNSS(Cyclone GNSS、サイクロン航行測位衛星システム)」の現況が報告されましたので、概要をお知らせします。

会場となった名古屋大学の東山キャンパス

会場となった名古屋大学の東山キャンパス

研究集会の様子

研究集会の様子

電波強度により、反射点での風波の強さを推定

CYGNSSは、昨年(2016年)12月15日に打ち上げられた小型衛星8機からなる、NASAによる台風など海洋風の観測プロジェクトです。衛星の機能をGPS受信に絞り込み、1機28.9kgと非常に軽量な衛星となっています。

CYGNSS衛星(画像提供:NASA)

CYGNSS衛星(画像提供:NASA)

九州大学の市川准教授

九州大学の市川准教授

ミッションの運用は米国のミシガン大学が担当していますが、そこに日本からも文部科学省宇宙科学研究拠点形成プログラムの支援を得た「GNSS反射信号を用いた全地球常時観測が拓く新しい宇宙海洋科学」研究チームが参加しており、研究代表者で、同ミッションに参加する国立大学法人九州大学応用力学研究所の市川 香准教授が現状を報告しました。

衛星には2台のGPS受信機が搭載されており、衛星上面の受信機でGPS衛星の直接波を、下面(地球面)の受信機で海面で反射したGPS衛星の電波を受信してその強度を計測し、反射点における風波の強さを推定します。
1機のCYGNSS衛星は、複数のGPS衛星の中から受信状態のよい4機を選択。8機の衛星が編隊飛行することで、軌道の真下あたりでは約10分間隔と従来手法に比べ圧倒的に高頻度のデータ取得が可能です。そしてほぼ12時間で全球(北緯35度~南緯35度の範囲内)のデータが取得できます。

講演の様子

講演の様子

市川准教授によれば、サイエンスデータの取得は今年3月31日から始まり、衛星の状態は現在も良好で、今後データ解析が進めば電波強度から風速を求めるアルゴリズムも順次改訂されるとのことです。

観測データは、和歌山大学の12mアンテナで受信

衛星からの観測データ受信には国立大学法人和歌山大学の12mアンテナが利用されています。チリ、ハワイ、オーストラリアに続く追加局として参加しており、日本の研究者からの観測提案も歓迎されるとして、積極的な参加を呼びかけました。

和歌山大学の12mパラボラアンテナと運用施設

和歌山大学の12mパラボラアンテナと運用施設(画像提供:和歌山大学宇宙教育研究所)

また、質疑応答の中で市川准教授は、これまで専用の大型衛星が必要とされていた海面高度の観測にも、こうした手法(GPS反射波の時間差)の活用が期待できるとコメントしました。
2日間にわたる研究集会には宇宙工学、地球科学、海洋学、気象学などの研究者やエンジニアが集まり、小型衛星を使った新たな取り組みやビジネスの最新動向を共有する貴重な機会となりました。

(取材/文:喜多充成・科学技術ライター)

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