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M・S・Kのライフジャケット、SLAS測位の位置情報で遭難救出を支援

2019年08月19日

四方を海に囲まれた日本では近年、海洋レジャーの広がりと共にプレジャーボートなどの小型船舶を楽しむ人が増えています。しかし一方で、そのような船舶からの海中転落によって命を落とす人は少なくありません。その対策として2018年2月、国土交通省が関係法令を改正し、全ての小型船舶の乗船者にライフジャケット(救命胴衣)の着用が義務付けられました。そして、このような課題を衛星測位によって解決しようとする取り組みも始められています。

海水を検知して自動的に位置情報を発信

埼玉県所沢市の株式会社M・S・Kは2019年6月、独自開発のGNSS端末を搭載したライフジャケットを使った実証実験を、長崎県や同県中央釣船業協同組合、地元ダイバーなどと協力して行いました。実験の現場には、海上保安庁の職員も視察に来ました。この端末には、海水の塩分濃度を感知する塩分センサーが搭載されており、これを身に付けた人が海中に転落すると、センサーが海水を検知して海中に転落したことを認識し、自動的に位置情報を発信します。

ライフジャケット

ライフジャケットの肩の部分にGNSS端末を装着(画像提供:M・S・K株式会社)

GNSS受信機はみちびきのL1S信号に対応しており、サブメータ級測位補強サービス(SLAS)を利用した高精度な測位が可能です。また、船舶には、少ない消費電力で広いエリアをカバーするLPWA(Low Power, Wide Area)の一種である、920MHz帯のLoRa(Long Range)のゲートウェイが設置されています。取得した位置情報は一定時間ごとに船舶に設置されたゲートウェイを経由してクラウドに送信される仕組みとなっています。送信された位置情報は、ウェブブラウザ上に表示されたマップ上で可視化することが可能で、海中に転落した人が今どこにいるかをすぐに把握できます。

GNSS端末

GNSS端末

作動中であることを知らせるランプも搭載

作動中であることを知らせるランプも搭載

海中転落をいち早く知らせて迅速に救援

実証実験の結果、遭難した人から位置情報が半径5km圏内の漁船に届くことが確認されました。位置情報の平均誤差は約3mで、視察に訪れた海上保安庁の職員からは、この程度の誤差であれば十分に役立つというコメントが寄せられました。株式会社M・S・Kの代表取締役を務める水野尚淑(なおよし)氏は、このシステムを活用して、海上保安庁や付近の船舶に海中転落が発生したことがすばやく伝わり、迅速に救援に迎える体制を構築することを目指しています。

一定時間ごとに位置情報を送信

一定時間ごとに位置情報を送信(画像提供:M・S・K株式会社)

マップ上に現在地を表示

マップ上に現在地を表示(画像提供:M・S・K株式会社)

今後はGNSS端末にBluetooth通信機能を搭載し、海中転落によってスマートデバイスとの通信が途絶えた場合にブザーで乗組員に知らせる機能や、携帯通信網に対応し、LPWAによる通信機能とは別に、モバイルインターネット通信を使って位置情報を送信できる機能などを追加する予定です。また、救援者側が遭難信号を受け取った後に、捜索活動を開始したことが遭難者が分かるように、端末に小型ディスプレイを搭載し、ショートメッセージを表示する機能を追加することも検討しています。

このほか、LPWA通信については、今年9月にサービス開始が予定されているソニーの無線通信規格「ELTRES」に対応する予定です。バッテリー持続時間は、20分間に1度の頻度で位置情報を送信し続けて72時間使用できる容量のバッテリーを搭載した上で、実証実験で使った端末よりも約半分の大きさにサイズダウンを図ると共に、防水・防塵・耐低温性能の向上も目指しています。

肉牛にGNSS端末を装着して行動を記録

M・S・Kが衛星測位を活用した取り組みを行うのは、今回が初めてではありません。同社は2018年、北海道で「測位衛星と地球観測衛星を用いた高付加価値畜産経営のための実証事業」を実施し、経済産業省の2018年度「衛星データ統合活用事業」に採択されました。

この実証事業では、肉牛の首輪に、みちびきの補完機能に対応したGNSSトラッカーを装着し、1頭1頭の行動を記録すると共に、地球観測衛星から得られた衛星データによって牧草の生育状況を把握し、双方のデータを組み合わせて解析しました。これにより、肉牛の適正な運動量の確保とストレス減少による肉質の向上が期待できると同時に、牧草の更新時期や施肥の量を最適化し、牧草の品質の管理につなげることもできます。

水野氏

M・S・Kの水野代表取締役

M・S・Kの水野氏は、衛星測位を活用した位置情報のトラッキングに関する2件の実証実験の経験を踏まえて、みちびきへの期待を次のように語ります。
「海上では霧で視界が悪い時もあり、高精度な衛星測位が求められます。現在開発中の新しいライフジャケット装着用GNSS端末も、引き続きサブメータ級測位補強サービス対応の製品にします。また、肉牛に取り付ける端末も同様にサブメータ級の測位に対応する予定で、位置情報の高精度化で疑似交尾のタイミングを把握できるなど、さまざまな効果が期待できます」

ライフジャケットに装着する端末は、2019年末に提供を開始する予定。同社では、牛の放牧や海難事故に加えて、今後は山岳遭難に対応したGNSSトラッカーの開発も検討しているとのことです。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

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