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国土地理院、GNSSによる標高決定に向けた「航空重力測量」を開始へ

2019年07月08日

国土地理院は、GNSSを使った正確な標高決定に不可欠となる「精密重力ジオイド・モデル」構築のため、航空機に搭載した重力計で上空から重力値を計測する「航空重力測量」をまもなく開始します。地上計測では重力計の輸送・設置に制約が生じますが、航空機ならば山岳部や沿岸・湿地帯などの条件を問わず、広いエリアの重力データを面的に取得することが可能です。一方で、精密な計測装置を航空機に搭載するため、さまざまな誤差要因への対策が必要となります。その際にGNSSによる高精度測位が、大変重要な役割を果たします。

GNSSの高精度測位で初めて可能になった手法

東京都調布市にある調布飛行場では、7月中の初フライトを目指し準備作業が進められています。格納庫内の航空機にはGNSSアンテナ、重力計、IMU(Inertial Measurement Unit、慣性計測装置)などの装置が搭載され、それらの3次元的な位置関係を求めるため、距離と角度を同時に測定できる測量機器「トータルステーション(TS)」を使った計測作業が行われていました。

駐機場に設けられた「飛行場重力点」

今回のプロジェクトのリーダーを務める国土地理院測地部の矢萩智裕(としひろ)測地技術調整官が上の写真で示すのは、駐機場に設けられた「飛行場重力点」です。地上測量用の相対重力計を、飛行場の運用時間外となる夜間に持ち込んで計測を行いました。フライト前には毎回、この標識の真上に計測機器が来るよう機体を静置してキャリブレーション(較正作業)を行います。今後、このような飛行場重力点を全国10か所の空港に展開する予定です。

機内の機体重心近くの「航空重力計」

機内の機体重心近くに「航空重力計」が設置されています(赤いパネルの下)。振動や傾斜をできるだけ伝えないよう、心臓部はジンバル機構で水平に保たれ、エアダンパーなどで空中に保持されています。また内部はヒーターで加熱され、重力値を計測するバネの状態が変わらないよう一定温度に維持されています。

上の写真の右側の黄色いユニットは航空重力計の、左の赤白の棒に取り付けられているのがIMUの、位置を計測するためのTS用のターゲットです。TSからのレーザー光を再帰反射するプリズムを内蔵しています。また、航空機上面のGNSSアンテナの正確な位置も計測します。

目標精度は「1mGal(ミリガル)」

GNSSで得られる位置情報は、機体上面に取り付けられたGNSSアンテナの位相中心を示すことになります。最終的な重力データの解析にはセンサー中心の位置が必要となるため、あらかじめ相互の位置関係を把握しておかなければなりません。

「そもそも航空重力測量は、GNSSによる高精度測位の実現で初めて可能になった手法です。GNSSで得られる高頻度の正確な位置情報と、そこから求められる速度、飛行方向などの情報が、機上で取得された重力データの補正に欠かせません」(国土地理院・矢萩氏)

今後4年間かけて行われる航空重力測量は、4つのプレートに挟まれた複雑な地下構造の上に浮かぶ日本列島の相貌を1mGal(ミリガル)、すなわち地上の重力加速度(約980Gal)の100万分の1オーダーの精密画として描き出そうという意欲的なチャレンジです。

広いエリアを航空機で一気に計測

物体どうしの引力は距離の二乗に反比例します。上空を飛べば、地球重心と重力計との距離が離れてしまいます。データ利用の際には重力値を基準面に合わせる補正が必要で、そのためには重力計の正確な「高さ」の情報が必要となります。

今回の航空重力測量では、搭載したGNSS受信機で測位衛星のデータを20Hzで記録し、約2週間後に公表されるIGS最終暦(International GNSS Serviceによる測位衛星の正確な軌道情報)を使って、電子基準点との間で基線解析を行い、航空機の20分の1秒ごとの正確な位置情報を求めます。

また、計測点の「水平位置(緯度・経度)」による補正も必要です。地球上で計測される重力には、地球の引力に加え、自転に伴う遠心力の成分も含まれています。低緯度ほど自転の回転半径は大きく、遠心力も大きくなるため、計測される重力値は小さくなり、補正が必要となります。

さらに「飛行速度や飛行の向き」も問題となります。地球の自転と同じ東向きに飛べば、見かけ上の自転速度が増すため、航空機にかかる遠心力は大きくなり、計測される重力値は小さくなります。西向きに飛べば、逆に重力値は大きくなります。「エトベス効果」と呼ばれる見かけ上の重力値の変化もキャンセルしなければならず、こうした補正に、GNSSによる20Hzの位置データと、そこから得られる飛行速度・方向の精密なデータが不可欠となる訳です。

「GNSSによる正確な位置情報が得られるようになったからこそ、ノイズまみれの計測値から意味のあるデータを取り出す技術が確立され、航空重力測量が実用に供されるようになったとも言えます」(国土地理院・矢萩氏)

加えて、飛行に伴う機体の姿勢計測のため、高精度のIMUも搭載されており、これらのデータを統合し補正を加えることで、目標精度の1mGalの達成を目指します。ちなみに1mGalとは、建物の1フロア(約3m)分の高度差で生じる重力値の差といいます。

ジオイド・モデルをGNSS並みに高精度化したい

今回の航空重力測量により得られた重力データは、国土地理院が公開しているジオイド・モデルの高精度化を通じ、GNSSによる新たな標高決定手法の導入に役立てられます。

「日本のジオイド2011」(Ver.2.1)(出典:国土地理院)

「日本のジオイド2011」(Ver.2.1)(出典:国土地理院)

標高決定にはこれまで、水準測量と呼ばれる手法が使われてきました。明治以来行われてきた水準測量は、最大80m間隔で立てられた標尺間の高低差を「水準儀」と呼ばれる機器で計測し、その比高を積算するものです。この手法を、電柱を建て個宅まで電話線を敷設してようやく開通する固定電話に例えるなら、GNSSによる新たな標高決定手法は、電波が通じさえすれば通話可能な携帯電話に例えられます。そして基地局設備に相当するインフラが、GNSSでありジオイド・モデルとなります。

「技術革新によりGNSSの測位精度は大きく向上しました。一方、従来の地上や衛星の重力データで得られたジオイド・モデルには、約10cm程度の誤差がありました。ジオイド・モデルの精度を上げることができれば、ジオイド・モデルとGNSSを両輪とした新たな標高決定の手法が確立します。これが今回の航空重力測量を実施する最大の理由です」(国土地理院・矢萩氏)

新手法の実現により、スピーディーで機動的な標高決定が可能となり、災害復旧の迅速化などへの貢献も期待できます。

(取材・文/喜多充成・科学技術ライター)

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