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CLAS対応予定のGNSS受信機についてセプテントリオ社に聞く

2019年11月11日

センチメータ級の高精度な衛星測位を普及させるには、低価格で小型、そして消費電力の少ない対応受信機の開発が必要となります。ベルギーのセプテントリオ(Septentrio)社はこのほど、より安く、小さな受信機を目指して、将来L6信号を利用したみちびきのCLAS(センチメータ級測位補強サービス)にも対応可能なマルチGNSS受信機「mosaic」を提供開始すると発表しました。
同社の日本法人でカントリーマネージャーを務めるヤン・デターク(Jan De Turck)氏と、本社セールスディレクターを務めるコーエン・ガツコーベン(Koen Gutscoven)氏に話を聞きました。

ヤン・デターク氏(左)とコーエン・ガツコーベン氏(右)

ヤン・デターク氏(左)とコーエン・ガツコーベン氏(右)

相場価格から「ゼロを一つ取る」コストダウン

マルチバンド対応のGNSS受信機「mosaic」は、主要な衛星測位システムであるGPS、GLONASS、BeiDou、Galileo、NAVICに加えて、みちびきのL1C/A、L1C、L2C、L5信号に対応しています。また、固定点の補正データを移動局に送信してリアルタイムで高精度に位置を測定するRTK(Realtime Kinematic)方式にも対応しています。全ての受信衛星を使って測位演算する「オールインビュー方式」や、干渉のモニタリングと低減を可能にする独自システム「AIM+」を採用しており、高精度な測位が可能です。

ガツコーベン氏(本社セールスディレクター)は、“mosaic”という製品名について、「それ自体がソリューションになるのでなく、あくまでも大きなソリューションの1ピースであるという意味を込めて名付けた」と言います。

mosaic(画像提供:セプテントリオ株式会社)

mosaic(画像提供:セプテントリオ株式会社)

そのmosaicについてデターク氏(日本法人カントリーマネージャー)は、「現在は高精度GNSS受信機の需要が限られていますが、いずれはショベルカーなどの建設機械に全機搭載する時代が来ます。一つの建機メーカーだけで年に数万台の規模になり、全てに高精度なGNSS受信機を搭載するにはコストダウンが必要です。受託製造であるOEMボード1台当たり、今は50万円以上の価格が相場ですが、ここからゼロを一つ取る必要があり、そのために開発したのがmosaicです」と説明します。

同社はこれまで提供してきたOEMボードの機能を活かして、RF(Radio Frequency、高周波)の回路をASIC(Application Specific Integrated Circuit、特定用途に向けた集積回路)化することにより、大幅なコストダウンを達成するとともに、サイズも従来の名刺サイズから約3cm四方(31×31×4mm)に小型化し、低消費電力化も実現しました。

mosaicは、現段階ではL6信号の周波数帯に対応するのみですが、株式会社コアと協業して、みちびきのCLASに対応したOEMボード「AsteRx 4」シリーズを来年(2020年)1月から提供開始する予定です。

「まずはOEMボードをリリースし、顧客の評判が良ければ、2020年夏頃を目処にそのボードを筐体に組み込んだ単体の受信機の発売する予定です。さらにはmosaicのチップそのものにCLASの補強機能を搭載し、チップだけでセンチメータ級測位を行えるものを検討しています」(デターク氏)

OEMボード

OEMボード(画像提供:セプテントリオ株式会社)

優れたマルチパス処理と遅延時間の短縮でシェアを拡大

セプテントリオ社は、ベルギーの半導体研究機関である「IMEC」と、Galileoを運営する欧州宇宙機関(ESA)と協力しながらGNSS受信機を展開する企業で、ベルギーのほか、米国、中国、日本にオフィスを構えています。

同社のビジョンは「測位信号の受信が難しい環境に向けて、高精度のGNSS受信機を供給すること」であり、マシンオートメーションと呼ばれる、建設・採掘現場などにある自動化された作業機器の分野では、世界で2割程のシェアを占めておりますが、中でも、地震研究などの科学用途やGNSS基準局向けなどの分野ではも5割以上のシェアを占めており、Galileoの受信に使われるテスト受信機については、すべてセプテントリオ社が供給しているとのことです。さらに、最近では測量用ドローンに搭載するGNSSにおいても高いシェアを獲得しています。

このマシンオートメーションの分野でセプテントリオ社が強い理由として、デターク氏
は、優れたマルチパスの処理能力と遅延時間の短縮を挙げます。

「ショベルカーやトラクターなどは金属部分が多く、金属からの反射波と実際の信号が混ざり合って正確な受信が難しいですが、当社の受信機はマルチパス処理が非常に優れています。また、正確にマシンをコントロールするには遅延時間をできるだけ短くする必要があります。他社が数十ミリ秒の遅延時間であるのに対し、当社は5ミリ秒と大幅に短い性能を実現しています」(デターク氏)

同社のGNSS受信機は、振動や粉じんなどの厳しい環境においても使えるように設計されているほか、電離層を補正するアルゴリズムや、電波干渉を緩和・除外する機能にも優れているため、ドローンなどの小さな機器でも高精度な測位が可能だといいます。

衛星信号だけでセンチメータ級の精度を出せるのが魅力

デターク氏によると、同社がこれほど低コストのチップを出すのは、mosaicが初めてとのことです。低価格化を実現できたのは、RF回路をASIC化しただけでなく、従来よりも多くの出荷数を想定して価格設定したことも理由の一つです。

「この価格だと、以前と同じ出荷数ではビジネスになりません。自動運転などの新分野へ展開するとともに、従来扱ってきた建機などの分野でも全機搭載を目指すことで、出荷数を大幅に増やし、コストを抑えられるとの前提で値付けしています。CLASは衛星の信号だけでセンチメータ級の精度を出せるのが魅力的であり、農機やドローンなど、さまざまな分野での利用が期待されます」(デターク氏)

同社の製品を取り扱う販売代理店の一つ、丸文株式会社の米川知希氏(システム営業第1本部 営業第2部 測位タイミング課 課長)は、mosaicについて、近日中に発売予定の開発キットを関心のある顧客に展開していきたいとして、「自動車や建機、鉄道などニーズのある市場はすべてトライしていきます」との期待を語ります。丸文はGNSS機器を紹介するセミナーなども開催し、今後に向けて受信機(mosaicなど)とみちびきのサービス(CLAS)の両面から認知度を高めていく方針です。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

※ヘッダ画像提供:セプテントリオ株式会社

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