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衛星測位で海洋の発展をめざす「Sea Japan 2018」

2018年05月02日

2018年4月11~13日、国内最大の国際海事展Sea Japan 2018が東京ビッグサイト(東京・有明)で開催されました。過去最多となる28の国と地域から580社の出展企業が参加し、来場者数は3日間で2万人以上となりました。
GNSSを活用した位置情報と海洋はもともと関連の深い分野ですが、「自動運航船」と呼ばれる位置情報を利用した自律型の操船システムや、衛星通信と位置情報を使った陸上からの操船サポート技術などが世界的に開発されつつあります。当日の展示ブースからGNSSと関わりの深い技術を紹介します。

展示会場

来場者でにぎわう会場の様子

1)国土交通省

国土交通省によると、自動運航船とはGNSSによる位置情報に加え、セキュアかつ高速の衛星通信や船舶のサブシステムに搭載された各種センサーを利用し、陸上と船舶をつないで状態を監視し、操船や機関制御、貨物管理・荷役、離着桟など船舶の運航とそれに伴う業務を自律化し、遠隔制御可能な船舶や運航システムです。これを使えば、たとえば機関室をセンサーで監視し、故障を予見して海難事故を防ぎ、航行を自律化するといったことも可能となります。

パネル

自動運航船の解説パネル

国土交通省が2025年頃の実現を目指す「自律型海上輸送システム」に備え、日本海事協会では自動運航、自律運航の機能要件を定めたガイドラインを作成しており、まもなく発表される予定です。

2)古野電気

海図といえば大判の紙製海図が歴史を通じて長く使われてきましたが、昨今はデジタル化が本格的に進みつつあります。古野電気株式会社が初出展した電子海図システムは、55インチの4Kディスプレイに縮尺自由自在の海図が表示されます。55インチのサイズはちょうど紙の海図をテーブルに拡げた大きさに近く、操作感が向上しました。

電子海図システム

55インチ4Kディスプレイによる電子海図システム

GNSSアンテナで取得した位置情報を電子海図情報表示装置(ECDIS:Electronic Chart Display and Information System)に取り込んで、航海計画や船位確認と突き合わせ、航路の確認や修正ができるようになります。電子海図システムは、2020年頃までに実用化される予定です。

ちょうど紙の海図を拡げた大きさ

ちょうど紙の海図を拡げた大きさ

展示されたECDIS(FMD-3300)

展示されたECDIS(FMD-3300)

同社は他にも、衛星位置情報を使ったAR(Augmented Reality=拡張現実)操船システムAR-Navigationを参考出展しています。船舶に搭載されたカメラの映像と位置情報、AIS(Automatic Identification System=船舶自動識別装置)による航行中の船舶の情報を組み合わせ、ARで航路や目視圏内の船舶の情報を表示します。北米へ運行する商船ですでに実証試験を行っており、航路の表示が好評を得ています。

衛星位置情報を使った操船システムAR-Navigation

AR-Navigation

AR-Navigation

展示品

3)日本無線

日本無線株式会社も電子海図システムを出展しています。こちらはすでに郵船クルーズの客船「飛鳥II」に搭載されて実際に使用されています。テーブル状の電子海図は、縦型ディスプレイのタイプに比べてクルーが囲んで航海前のミーティングを行いやすく、コミュニケーションが取りやすいというメリットがあります。

J-Marine NeCST

J-Marine NeCST

JLR-8600

参考出品されたGPS航法装置JLR-8600

同社のJ-Marine NeCSTは、電子海図システムの中に船舶で起きる火災などのインシデント対応システムが組み込まれています。船上と陸側が連動しており、手順書に沿って事故対応を行い、情報を入力すると衛星通信などを通じて陸側にも情報が共有される仕組みです。陸上では航行中の船舶の状況をいち早く知ることができるだけでなく、インシデント対応の支援も行えます。

4)海上保安庁

海上保安庁ブースでは、西之島測量の際の映像や持ち帰った溶岩が展示されました。

展示ブース

ブースには西之島の溶岩を展示

海底地形図

GNSS測量で作成された海底地形図

2013年11月からの噴火によって島が大きく拡大した西之島に2016年10月、海上保安庁の測量船「昭洋」のチームが上陸。一等三角点と三等三角点を設置しGNSS測量を行っています。測量の結果、西之島の拡大により、日本の領海と排他的経済水域(EEZ)が拡大したことが分かりました。

5)JAMSTEC

Sea Japan 2018には、海中を自律的に航行する「海のドローン」も多数展示されました。中でも国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)は、北極海の海氷下を観測する自律走行ヴィークルMOVを展示して注目を集めました。

MOVの展示

自律走行ヴィークルMOV

MOVは1ミッションで1週間ほど自律的に航行し、海水温など北極海の環境を観測できます。海中には測位衛星の信号は届きませんが、浮上してGNSSによる位置情報を取得し、観測地点の記録を行うという形で衛星測位を利用します。

先端部分のアップ

MOVの先端部分

モニタ表示

観測現場の様子

「よこすか」全景

深海潜水調査船支援母船「よこすか」

展示された「しんかい6500」

有人潜水調査船「しんかい6500」

Sea Japan 2018最終日の4月13日には、展示会場に近い有明西ふ頭にJAMSTECの大深度潜水調査船「しんかい6500」と支援母船「よこすか」を一般公開し、多数の来場者が間近に見る深海の調査船に熱心に見入っていました。

(取材/文:秋山文野・フリーランスライター)

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