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アイレス電子工業がみちびき活用した避難誘導装置を開発

2021年11月22日

大規模な地震や津波が発生した際に、みちびきから配信される災害・危機管理通報サービス(災危通報)を活用していち早く住民の避難誘導につなげる小型装置を、和歌山県海南市にあるアイレス電子工業株式会社が開発し、今月から販売を開始しました。装置を開発した背景や機器の概要、利用シーンなどを同社取締役の諏訪剛氏に聞きました。

諏訪氏画像

アイレス電子工業の諏訪氏

警告音やアナウンスで避難を誘導

避難誘導装置「WASL(ワスル)」は、みちびきの災危通報で伝えられる緊急地震速報や大津波警報を受信するとフラッシュライトが点滅し、警報音(NHK緊急地震速報チャイム音)と多国語音声アナウンス(最大で日・英・中の3カ国語)で避難誘導を促す、本体約1.8kgの小型装置です。商用電源がダウンしても機能するよう、太陽電池パネルや二次電池(蓄電池や充電池)などの独立電源に対応しています。

避難誘導装置「WASL」とみちびきロゴマーク

避難誘導装置「WASL」

アイレス電子工業は、準天頂衛星システムサービス株式会社とライセンス契約(無償)を締結しており、本体前面にみちびき対応製品だと示す「みちびきロゴ」表示しています。センチメータ級の測位を可能としたみちびきに未来への可能性を感じ、「みちびきのおかげで信頼性の高い情報を利用できるという特徴をWASLでもアピールしたい」と考えて契約を交わしたそうです。

同社の避難誘導装置では2世代目

同社の諏訪氏は、開発の背景を次のように説明します。
「WASLは当社の避難誘導装置としては2世代目に当たるもので、前身となったのは大型の報知装置“イナムラ・ツナミ・タワー”です。高さ6mの鋼管柱に、太陽電池や小型の風力発電装置、バッテリー、スピーカーなどを取り付けた装置で、震度5強以上の揺れで動作します。このシステムは2005年に和歌山県主催のイベントでグランプリ(「現代版・稲むらの火」事業・最優秀賞作品賞)を受賞して以降、県内外に50基以上を設置しました。ただ、一式で約350kgと大掛かりで、もともと小型機器やソフトウェアを手掛けてきた当社としては苦労も多く、サポートが困難な遠隔地への設置にも二の足を踏む状態で、製品としての次の展開を見通せなくなっていました」

イナムラ・ツナミ・タワー

災害時避難誘導灯 イナムラ・ツナミ・タワー

みちびきは、報知につながる“確実なトリガー”

諏訪氏は「みちびきを知ることで、次の展開が開けた」と続けます。
「串本町へのスペースポート(宇宙港)誘致など、和歌山では宇宙技術を活用した産業振興で盛り上がっています。2016年に始まった県主催の勉強会に参加した際、みちびきの災危通報について知りました。実は“ツナミ・タワー”でも、揺れを感じる感震センサの精度や設定にたいへん苦労していました。間違いなく避難情報報知につながる“確実なトリガー”を探し求めており、みちびきの災危通報を使えば小型で安価なシステムが実現するに違いないと思ったのです」
同社は早速、和歌山大学システム工学部、株式会社宮崎エンジニアリングと共に、地元の産業技術育成を支援する補助事業に応募し、採択されました。そこで行われた共同研究の成果をもとに最終的な製品として仕上げられたのがWASLだった訳です。

WASLではu-blox社のGNSS受信モジュールを使用しています。みちびきから送られる災危通報の「気象庁 防災気象情報」のうち、緊急地震速報や津波の情報をトリガーに避難誘導の報知動作を開始します。ごくシンプルな仕組みですが、前身の“ツナミ・タワー”運用で得られた知見も反映されています。
「独立電源の機器でウィークポイントになるのが、バッテリーの寿命です。電圧が既定値を満たせばOKという単純なものではなく、正しく見極めるにはノウハウが必要です。WASLではそのノウハウを踏まえつつ、遠隔モニタで機器の健康チェックを行う仕組みを加えました」(諏訪氏)

WASL本体、太陽光発電装置、スピーカー

WASL本体と太陽光発電装置(左)、開口部20cmのスピーカー(右)

さらに諏訪氏は、他の報知手段との補完関係や意義についても話してくれました。
「大規模災害の発生を伝える手段としては、自治体の防災無線、テレビやラジオなどの放送メディア、あるいは個人が持つスマホや携帯電話などが考えられ、それぞれにカバーするエリアやメッシュの細かさが違います。東日本大震災から4カ月後の2011年7月5日、和歌山県北部で最大震度5強の地震が起こりました。その際、昭和東南海地震(1944年)を思い出してパニックになった方もいたようですが、“ツナミ・タワー“の報知を聞き、我に返って避難を始めた方もいたといいます。防災無線や放送メディアがカバーしきれない隙間を埋め、その時、たまたまスマホや携帯が手許になかった人にも情報を伝えるという意味で、“情報経路を多重化し拠点を増やすことが重要だ”と改めて思いを強くしています」

(取材・文/喜多充成・科学技術ライター)

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※記事中の画像提供:アイレス電子工業株式会社

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