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日精とフェイバライツ、みちびき4周波に対応したアンテナ開発へ

2020年03月02日

みちびきの高精度測位に対応した機器が普及するには、受信機の小型軽量化が欠かせません。現在、GNSS受信機メーカー各社がより小型で軽量な受信機の開発に取り組んでいますが、その一方で、電波の入口となるアンテナについてもさまざまな研究開発が始まっています。その一つが、日精株式会社と株式会社フェイバライツが共同で開発中の「みちびき L1・L2・L5・L6対応アンテナ」です。

昨年暮れ、4周波数帯に対応するパターンアンテナの開発を発表

日精とフェイバライツはこれまで、人の手を介さず機械から機械へ自動的にデータを通信する手法を使ったM2M(Machine to Machine:機器間通信)機器向けのLTE用アンテナやGNSSアンテナなどを提供してきました。その両社が昨年(2019年)12月、みちびきの4周波数帯に対応するパターンアンテナ(基板上に配線して形成するアンテナ)の開発を発表しました。一般に市販されている板厚0.3mmの両面基板上で、パターンのみで複数の周波数に対応できるアンテナであり、金属板を用いるパッチアンテナ(マイクロストリップアンテナ)に比べて受信機を小型化・軽量化することができます。

現在発売中のGNSSアンテナ

現在発売中のGNSSアンテナ

日精の金子氏

日精の金子氏

日精の金子勉氏(商品営業本部 ITビジネスグループ)は、小型軽量なパターンアンテナをみちびきの4周波数帯に対応させることの意味について、次のように説明します。
「測位衛星から受信した電波だけでセンチメータの測位精度が出せるみちびきのインフラが整えば、後はコンピューターの処理能力向上と受信機用アンテナの小型化、そして受信性能が要求されるようになります。受信機そのものやアンテナの小型化を追究することで、ひと昔前の電卓がたどったような小型化・低価格化が進むと考えています」

金子氏は、アンテナによってL6対応受信機の小型化が進めば、ドローンなど小型・軽量が求められる機器での活用が期待できるとして、みちびき対応アンテナの開発を始めました。

「私どもはダイポールアンテナをベースとした渦巻き状のアンテナ素子や、円偏波に対応する要素技術の開発を5年くらい前から行っていて、関連技術の特許を2社共同でいくつか保有しています」(金子氏)

この技術を活用して長野工業高等専門学校の柄澤孝一教授(電気電子工学科)がみちびきの複数周波数に対応したアンテナの試作品を作ったところ、昨年10月に大阪で開かれた国際会議、IEEE GCCE 2019(2019 IEEE 8th Global Conference on Consumer Electronics)において銅賞の評価を得たため、両社は製品化に向けた開発開始を決めました。

保有する特許技術でアンテナ間の干渉を克服

複数の周波数に対応したアンテナをパターンだけで小さな面積で実現しようとすると、周波数ごとに対応したアンテナ素子が複数本必要になり寸法が大きくなってしまします。そこで小型化するためにアンテナ素子を渦巻き状にしましたが、今度は利得が小さくなってしまいます。

これらを解決するために日精とフェイバライツは、保有する複数の特許技術を組み合わせて使うことで、基板上に渦巻き状のマルチバンド対応で利得の大きいアンテナを作成しました。また、このマルチバンド対応で利得の大きいアンテナを2つ並べて設置する時に互いのアンテナ間の位相を180度ずらすことによりアンテナ間の相互干渉を防ぐことを可能にしました。

柄澤教授による試作品は、両社が持つこうした技術を応用して開発が行われました。最初の試作品はL1とL6の2周波に対応したアンテナと、L2とL5の2周波に対応したアンテナの2枚に分けたものでしたが、両社はこれをさらに発展させ、現在、1枚でL1・L2・L5・L6の4周波に対応するアンテナを開発しています。

柄澤教授が試作したみちびき対応アンテナ

柄澤教授が試作したみちびき対応アンテナ(画像提供:日精株式会社)

「現在、円偏波アンテナの主流はパッチアンテナですが、同等のことがパターンアンテナにおいても技術的に可能かどうかを実験によって確認している最中です」(金子氏)

具体的には、周波数ごとの右旋アンテナと左旋アンテナを基板上で組み合わせて、両アンテナの違いや相互干渉などのデータを取得しています。また、4周波対応アンテナの試作品が完成したら、今後は(直接届く電波と、ビルや山などに反射して届く電波が混ざって受信される)マルチパス対策の実験にも取り組む予定といいます。

「左旋アンテナを右旋アンテナの前後に設置することで、マルチパスを吸収・排除できるかを実験します。これが難しい場合は電波吸収体を用いて対策するという手もあります」(金子氏)

金子氏は、「同じ周波数帯の電波を使うアンテナを2個並べて置いても、アンテナ間で干渉を起こさず、アイソレーションをとれる」という他社にない技術の強みを生かして、マルチパスを解決できるとの自信を示します。

みちびき4周波対応アンテナの形状イメージ(開発計画時)

みちびき4周波対応アンテナの形状イメージ(開発計画時)(画像提供:日精株式会社)

将来に向けては、携帯電話の5Gサービス開始に期待を寄せています。両社の主力製品は、広帯域に対応するアンテナと、アンテナ間のアイソレーションをとる技術を応用したMIMO(Multiple-Input and Multiple-Output、複数のアンテナを使用しデータの高速送受信を行う無線通信技術)用アンテナで、携帯電話回線に接続して使うIoT/M2Mデバイスに使われています。

「5Gでは高速伝送と低遅延を実現するため、送信側(基地局)と受信側(端末)にアンテナを4本ずつ使う4×4 MIMOになると聞いています。この4×4 MIMOとセンチメータ級高精度測位のアンテナを小さな装置内に並べて混在させ、アンテナ間のアイソレーションをとる技術と、小型でセンチメータ級の高精度測位を実現する技術を使って、新たな市場を開発したいと考えています」(金子氏)

両社は4月に東京ビッグサイトで開催される「IoT&5Gソリューション展(春)」に4周波対応アンテナの試作品を出展する予定で、今年秋ごろまでに評価用サンプルの出荷を目指しています。

フェイバライツの唐鎌隆久氏(左)と日精の金子氏(右)

フェイバライツの唐鎌隆久氏(左)と日精の金子氏(右)

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

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