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各地でGPSを使って農作物の鳥獣被害を軽減

2016年01月06日

農林水産省の「鳥獣被害対策の現状と課題」(2015年10月)によれば、野生鳥獣による農作物被害のうち7割がシカ、イノシシ、サルによるもので、特にシカ、イノシシの被害の増加が目立っているそうです。被害額は近年、年間200億円前後で推移しているものの、こうした鳥獣による被害は営農意欲の減退や耕作放棄地の増加などをもたらし、数字に現れる以上に農山漁村に深刻なダメージとなっていると分析されています。そうした状況を食い止める一助にと、GPS機器を使った野生生物の行動把握への取り組みが各地で始まっています。

「農作物被害額の推移」グラフ

農作物被害額の推移。年次は「平成」(農林水産省「鳥獣被害対策の現状と課題」より)

▽ニホンジカにGPS付首輪を装着(長野県)

長野県では2016年度から、ニホンジカにGPS機能付の首輪を装着して生息域を調べる取り組みを県内全域で始めます。シカは主に群れで移動するため、捕獲した1頭に首輪を付けて群れに戻せば、その群れの移動パターンを把握することができます。把握した行動パターンをもとにセンサー付きのカメラを設置すれば、その群れの個体数や生態などさらに詳細な情報が得られ、捕獲や駆除も効率的に行えます。

▽GPSによるニホンザルの行動把握(山口県)

山口県では、2005年には約1,500頭だったニホンザルの推定生息数が現在では2~4千頭となっており、農作物の被害も深刻となっています。自治会や猟友会による見回り活動や、ロケット花火を使った追い払い方法の研修会を実施するなど努力は続けていますが、住民の高齢化で困難に直面しており、GPSを利用した行動把握の取り組みを2015年度からスタートさせました。
捕獲したサルにGPS発信機付きの首輪を装着して、再び群れに戻す計画です。首輪は群れの中心になりそうなメスを選んで装着します。首輪から2時間に1回のペースで位置情報が発信されるため、サルの行動パターンを把握することができます。そうして得られた行動パターンを踏まえ、被害の予想される地域に先回りして追い払い活動を繰り返すことで、サルに寄り付かせないようにする計画です。

衛星測位技術の活用に大きな期待

背景には、平地の周辺部から山間部に至る中山間地域の過疎化により、鳥獣の行動範囲が広がったという事情がありますが、一方で「鳥獣被害軽減のための画期的な新技術開発は世界的にも事例がほとんどどない状況にあるが、我が国においては効果的・ 効率的な大量捕獲方法や侵入防止柵等が開発」(農水省)され実績を上げています。ICTの活用、とりわけGPSを始めとする衛星測位技術の活用に大きな期待が寄せられており、同種の試みは全国に広がっています。

参照サイト

※ヘッダ画像は、人家脇の畑に現れたカモシカ(石川県白山市にて2015年撮影)

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