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みちびきを活用し、東京オリンピックのセーリング競技運営を支援

2021年07月27日

2020年東京オリンピック競技大会・セーリング競技の運営支援に、みちびきのサブメータ級測位補強サービス(SLAS)を活用したトラッキング/可視化システムが使われています。本記事では今月中旬、大会に先立つ公式練習期間中に実施された実証実験の模様をレポートします。なお、本実証実験は準天頂衛星システムサービス株式会社と一般財団法人日本情報経済社会推進協会により実施されました。

セーリング競技は7月25日~8月4日に開催

2020年東京オリンピック競技大会・セーリング競技は7月25日~8月4日、世界65の国と地域から350人のアスリートが参加して、10クラスのヨット/ウインドサーフィン競技が行われます。拠点となる神奈川・藤沢市の江ノ島ヨットハーバーには、その東南側の海上にFoP(Field of Play=競技海面)が設定され、この海域にアスリートが操るヨット/ウインドサーフィン250艇に加え、同数のコーチボート、及び審判、医師、メディアの乗る船や警戒艇などの運営艇(最大143艇)が展開します。

FoPを示した地図

FoP(競技海面)を示した地図

NSTLがSLAS対応端末400台を用意

安全な競技運営のため大会組織委員会が行う監視業務を支援するのは、水上スポーツのトラッキング/可視化システム「HAWKCAST」で実績を重ねてきたN-Sports tracking Lab合同会社(NSTL)です。今回の大会に向け、みちびきのSLASに対応した端末400台を用意しました。また、日本国内での操船ライセンスを有しない外国艇は、大会期間中は特例でFoP内に限り操船が認められていますが、その監視や注意喚起も大会運営上、重要です。そのため各艇のトラッキング記録提供もNSTLの支援項目となっています。

横井氏

システム運用に当たるNSTL代表の横井愼也氏

NSTLは、リアルタイムの位置情報を大会組織委員会に提供することで「出着艇の一元的な管理」「安全な帰港の確認」や「大津波や突然の防風・高波等、万一の異常事態における各艇位置や帰着状況の確認」「未帰着艇の捜索発動の意思決定、及び捜索活動」などを支援します。可視化サーバー側のプログラムも横井氏自身がコーディングしており、「前日の運用状況を踏まえプログラムを手直しし、組織委の要望に先んじて新機能を実装する場合もありました」(横井氏)といいます。

モニター画面

コントロールルームに設置されたリアルタイム位置情報のモニター画面。白が各国のコーチボート、ピンクが警戒艇、赤がメディカル、オレンジがメディア船などと色分けされ、FoPに展開する運営艇を総覧できる。漁船やレジャー船などが接近すると、無線で最寄りの警戒艇にエスコートを指示する

漁船を先導する警戒艇

漁船を先導する警戒艇

出港前にトラッキング端末をピックアップ

コーチボートや運営艇は、各艇とひも付けられたトラッキング端末を出港前にピックアップし、帰着後に返却することが義務付けられています。今大会では端末のチェックアウト/インが公式な帰着報告と位置づけられました。最大400艇を対象とした出着艇管理等の一元的監視は、セーリング競技では過去最大規模であり、サブメータ級の精度を持つ位置情報の把握も始めてのことです。

端末の貸し出し風景

最大400台管理するトラッキング端末。貸し出し前に充電し(左)、受付で貸し出す(中・右)。GNSSの受信状況をリアルタイムで把握しており、不具合端末の早期発見が可能

帰港したコーチボート

帰港したコーチボート

事故を未然に防ぐ支援システムの存在は、心強い

大会組織委員会メンバーとして大会運営に関わる大庭秀夫氏(公益財団法人日本セーリング連盟 レースマネジメント委員会 委員長)は、NSTL社のトラッキング/可視化システムについてこうコメントします。
「大会運営者として一番気がかりなのは、安全です。携帯電話を肩から提げていた頃の昔話ですが、日没を過ぎても帰港できなかった艇があり、大会関係者が全員ハーバーに一泊して翌朝夜明けから捜索した経験もあります。その艇は貨物船に救助されて無事でしたが、そうした万一の事故を未然に防げる支援システムの存在は、心強いかぎりです。これだけ大規模で、かつしっかり機能している点は大会組織委員会も高く評価しており、世界に向けたアピールになっていると思います」

大庭氏(左)とParrish氏(右)

大会組織委員会の大庭氏(左)とParrish氏(右)

また、世界のセーリングスポーツを統括するワールドセーリング(World Sailing、旧称:国際セーリング連盟)から大会組織委員会に加わったJohn Parrish氏も次のように話します。
「リアルタイムのトラッキング情報だけでなく、NSTLの横井氏からは1時間ごとのトラッキング情報のレポートも受け取っています。FoPの境界線に接近した艇を強調表示するレポートは、参加チームなどに注意を促す材料として活用します。また、各艇の位置情報が高い精度で得られることは別の面でも役立ちます。競技を報道するため、ブイを取り囲むように10m幅のレーンを複数設定し、最前列はOBS(Olympic Broadcasting Services=オリンピック放送機構)のメディア艇、その後列に各国のメディア艇と、取材エリアを指定しています。高い精度で位置を把握できれば、各艇が指定されたレーンに正しく留まっているかを監視する業務にも役立てられます」

会場俯瞰

江ノ島ヨットハーバーは57年前の東京大会で整備された会場です。この敷地に、今大会のためにブリッジ建屋やヨットハウス、津波避難タワーなど新たなインフラが整備されました。みちびきもそうしたインフラに加わり、安全でスムーズな大会実現のために役割を果たします。

(取材・文/喜多充成・科学技術ライター)

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