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慶應SDMとアシックス、高精度測位のスポーツ活用でセミナー開催 [後編]

2017年04月03日

慶應義塾大学大学院SDM研究所スポーツシステムデザイン・マネジメント(スポーツSDM)ラボと株式会社アシックスが、3月17日に慶應義塾大学日吉キャンパス(横浜市港北区)で開催した「GPSからMulti-GNSSへ:高精度衛星測位のスポーツ活用に関するセミナー」を紹介する2回目です。デモンストレーションの終了後に始まった、後半の講演から紹介します。

後半は橋口、太田、永野の三氏が講演

慶應SDMの橋口氏

慶應SDMの橋口氏

後半の最初は慶應義塾大学大学院SDM研究科 特任講師の橋口寛氏が、スポーツアナリティクスやチームマネジメント、eスポーツなどをテーマとしたカンファレンスイベント「MIT Sloan Sports Analytics Conference 2017」の参加報告をしました。2007年にスタートした同イベントにはさまざまなスポーツ関係者が参加し、データを使ったワークショップやポスターセッション、スタートアップ企業によるデモ、スポーツとテクノロジーに関する講演などを行いました。

ラグビー日本代表S&Cコーチの太田氏

ラグビー日本代表S&Cコーチの太田氏

続いてラグビー日本代表S&Cコーチ/慶應義塾大学体育会蹴球部S&Cディレクターの太田千尋氏が「ラグビーでのGPSを含むスポーツデータ活用の現状と課題」と題した講演を行いました。太田氏は、GNSSによる位置情報を、試合中における移動距離や速度、加速度などを計測するために活用しており、例えば一つ一つのプレイの速度を上げるためにGNSSで計測した選手の加速度のデータを利用したり、ディフェンスの状況を確認するためにドローンで空撮した画像と各選手のGNSSデータを組み合わせて分析したりと、GNSSのさまざまな活用法を紹介しました。

慶應SDMの永野氏

慶應SDMの永野氏

慶應義塾大学大学院SDM研究所スポーツSDMラボ研究員の永野智久氏は「国内外におけるスポーツトラッキング動向」と題した講演を行いました。永野氏は、視線の軌跡を記録する「アイトラッキング」の取り組みを紹介すると共に、「スポーツトラッキング」の事例として、上空から撮影してプレイ中のデータを取得するトラッキングシステムや、ボールをトラッキングする「HAWK-EYE」、ボールの速度などをモニタリングする「TRACKMAN」などさまざまなシステムを紹介しました。

今後の可能性を探るパネルディスカッション

最後に「スポーツ分野における衛星測位活用の現状と課題、今後の可能性」と題したパネルディスカッションが行われました。
慶應SDMの神武准教授がモデレーターを務め、パネリストにはラグビー日本代表S&Cコーチの太田氏、東京海洋大学の久保准教授、アシックスの坂本氏、日本スポーツ振興センター パフォーマンス分析スタッフ/日本スポーツアナリスト協会理事の千葉洋平氏の5名が参加し、以下のように活発に意見を交わしました。

左から千葉氏、坂本氏、久保氏、太田氏、神武氏

左から千葉氏、坂本氏、久保氏、太田氏、神武氏

「ここ最近でGNSSのデータは精度も高くなり、より細かいデータを取得できるようになりましたが、複数の選手のデータを取得した時に欠けてしまう場合もあり、スポーツの現場におけるデータの信頼性はもっと向上させる必要があると思います」(ラグビー日本代表S&Cコーチ・太田氏)

「スポーツの現場でGNSSを活用する場合、コンタクトのあるスポーツの場合は耐衝撃性が求められるし、マラソンの場合は雨や汗に備えて防水性も高くする必要があります。また、サンプリングレートも重要で、スポーツのジャンルによっては1秒間に10回測位できる受信機が必要となります。また、GNSSデータの活用法が分からない人に対して、すでに活用している人やメーカーなどが効果的な使い方を示していくことも必要だと思います」(アシックス・坂本氏)

「テクノロジーの発展は著しく、選手たちもスマホ世代になってきつつあるので、データの活用や共有には理解があります。ただ、データを活用する上で何が自分の課題かを磨いていく必要があります。測定するというのは、それをコントロールするということなので、課題として何をコントロールしたいのかを精査しないと、ただ測定して何に使っていいのか分からないという状況に陥ってしまいます」(日本スポーツ振興センター・千葉氏)

「今後、測位衛星の数が増えるので日本の企業もGNSSに積極的に取り組むようになると思いますし、コンシューマー(消費者)向け製品も、小型化や低消費電力化に向けて頑張っている状況です」(東京海洋大学・久保准教授)

パネルディスカッションの様子

慶應SDMの神武准教授は締めくくりとして、「今回のセミナーは最初は関係者10人ぐらいで議論する予定だったのが、一緒に議論に加えてほしいという話をいただき、大学のウェブサイトで急きょ募集したところ、たった2日間で希望者が50名を越え、可能な範囲で定員を増やしました。この分野に興味を持つ人がかなり多いことが分かりましたので、今後も継続して皆さんと一緒にスポーツとテクノロジーを議論していきたいと思います」と語りました。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)
 

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