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測位航法学会・全国大会を東京海洋大で開催

2017年05月18日

2017年度測位航法学会全国大会が、5月9~11日の3日間、東京海洋大学 越中島キャンパス(東京・江東区)で開催されました。最終日の11日には研究発表会が行われ、最新のGNSS技術や利用の事例が紹介されました。ここでは当日発表された中から3テーマを選び、紹介します。

デジタル簡易無線による位置通報システムを検討

── 静岡大学・鈴木康之氏

静岡大学の鈴木教授

国立大学法人静岡大学の鈴木康之氏(大学院工学研究科事業開発マネジメント専攻、工学部次世代ものづくり人材育成センター教授、地域連携部門長)は、「多端末測位データの集約と即時可視化システム構築に関する検討」と題した発表を行いました。

鈴木氏はアマチュア無線局が位置情報を知らせ合うAPRS(Automatic Packet Reporting System)に着目し、2016年4月の熊本地震の発災翌日、複数のアマチュア移動局の移動経路を地図上にプロットすることで、輸送ルートの被災状況を推定できた事例を紹介。「平時ならスマホでも同じことはできるが、浜松エリアで想定される津波災害では、基地局が被災し測位や通信ができなくなる事態も考え得る」として、免許不要のデジタル簡易無線を使った位置通報システムの検討結果を報告しました。

静岡大学・鈴木教授の発表

静岡大学・鈴木教授の発表

GPSで位置を特定し、海底でのサンプル採取に成功

── 富山高等専門学校・千葉 元氏

富山高等専門学校の千葉氏

独立行政法人国立高等専門学校機構富山高等専門学校の千葉元氏(商船学科教授)は、「船上からのGPS測位と魚群探知機によるメタンハイドレート探査」と題した発表を行いました。

2013年8月に富山湾で行われた、津波シミュレーションのための海底地形探査の際、魚群探知機(38kHz)の観測データに、水深約560mの地点から湧き上がり、途中で消失する「何か」を発見しました。GPSによりピンポイントで位置を特定したことで、その後2年間にわたって複数回の観測を行い、次世代のエネルギー源として注目されているメタンハイドレート(=高圧下で水分子に取り込まれ液状化したメタン)のプルーム(=湧き上がる泡)ではないかと確証を得て、海底のサンプル採取に挑戦し成功。メタンハイドレートと確認できたことを報告しました。

富山高専・千葉教授の発表

富山高専・千葉教授の発表

代掻き作業の効率が衛星測位で大幅に向上

── 岩城農場・岩城善広氏

岩城農場の岩城氏

栃木県大田原市で農業を営む元・無線通信エンジニアの岩城善広氏は、「低コストRTK環境と農業利用」と題した発表を行いました。

稲の生育のためには、代掻き(しろかき)という田植え前に水田を掘り返してかき混ぜる作業が必要です。しかしこの作業には、泥で水が濁ってしまい「どこまでやったか、やれていないかが分からなくなってしまう」という厄介なところがありました。岩城氏は東京海洋大学の久保信明准教授の協力を得て、低価格RTK-GNSSシステム(約10万円)を試験的に導入。十分な測位精度が得られ、代掻き作業の効率が大幅にアップし、衛星測位が「わが家の代掻きになくてはならないものとなった」と報告しました。実験の中で起きた、測位結果が大きく平行移動してしまう事例なども報告し、参加した測位技術の専門家との間で活発な論議が交わされました。

岩城農場・岩城氏の発表

岩城農場・岩城氏の発表

(取材/文:喜多充成・科学技術ライター)

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