コンテンツです

マゼランシステムズジャパンが農業へのCLAS活用で意見交換会

2022年04月18日
意見交換会の会場

マゼランシステムズジャパン株式会社は2022年3月25日、本社のある尼崎リサーチ・インキュベーションセンター(兵庫県尼崎市)で、みちびきのCLAS(センチメータ級測位補強サービス)の農業分野への活用に関する意見交換会を開催しました。みちびきの高精度測位を農業に活用する研究や開発を行っている識者が集まり情報交換を行う会合で、今回が4回目となります。当日は農機メーカーや研究機関、行政機関の関係者が参加しました。

岸本氏

マゼランシステムズジャパンの岸本氏

会合に先立ち、マゼランシステムズジャパンの岸本信弘・代表取締役が挨拶し、今後発売予定のCLAS対応マルチGNSS受信機「Regulus」を紹介しました。同社の第3世代となるCLAS対応受信機で、精度や受信感度などのパフォーマンスを向上させた上で大幅な小型化(3cm×4cm)を実現しました。このモジュールを搭載した受信機・アンテナの一体型デバイス「スマートアンテナ」も今後の発売を予定しています。

デモの様子を見つめる参加者

CLAS対応受信機を搭載した小型車両によるデモ走行

続いてCLAS対応受信機を搭載したUGV(=Unmanned Ground Vehicle、自動走行小型車両)によるデモ走行も行いました。みちびきのCLASとRTK測位の両方に対応した受信機を2つ搭載し、片方の受信機でCLASによる測位を行い、これを移動する基準局とみなして、もう片方の受信機を“スレーブRTK移動局”としてRTKで測位します。こうして2つの受信機で得られた位置情報をもとに姿勢角を計測し、UGVを自動制御する仕組みです。2021年度のみちびきを利用した実証事業に採択された成果であり、デモではUGVがパイロンの間を通り抜けながら、設定された8の字のコースを正確に走行しました。

CLAS対応受信機を搭載した小型車両

走行中の小型車両

<識者によるCLAS活用事例の発表>

▽基調講演「準天頂衛星CLASの利活用」

野口教授

北海道大学の野口教授

意見交換会では、北海道大学大学院農学研究院の野口伸教授(副研究院長)が座長を務めました。野口教授は、自身が取り組む「電動ロボットによるスマートぶどう栽培システムの開発」の実証事業を紹介しました。これは、ゴルフに使われる電動カートを改造したロボットが農薬散布や運搬、剪定、収穫などを行うもので、CLAS受信機を取り付けたEVロボットにモニターを搭載してロボットの作業を監視します。複雑な起伏を含む地形や防風林・雑木林などマルチパスが起こりやすい環境でもCLASにより高い精度が得られ、脆弱なネットワーク環境においてもFIX率が高いという結果が得られました。CLASによる自動走行でも、RTK測位と比べて精度低下が見られないと確認できました。実証では、札幌から700km離れた能登のロボット農機を動かす遠隔監視システムの試験なども行いました。

野口教授による講演の様子

講演中の野口教授

▽みちびきに関する最近の動向

齊田技術参与

内閣府の齊田技術参与

内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室の齊田優一技術参与は、会合前日の2022年3月24日に初号機後継機の運用が正式に開始されたことを報告し、7機体制に向けた取り組みを紹介しました。7機体制ではみちびきだけを使った持続測位が可能となる見込みで、そのために最適な衛星配置を選定し、衛星間の測距機能を付加して測位精度も向上させます。また、2020年にCLASの補強対象衛星数を最大11機から17機へと拡大したことの効果や、海外向け高精度測位補強サービス(MADOCA-PPP)の整備スケジュールも報告しました。MADOCA-PPPは今年(2022年)9月から試行運用を行い、2024年度から本運用を開始する予定です。農業分野のみちびき活用事例として、カワサキ機工株式会社のクローラ型自立走行車両や、東光鉄工株式会社のCLAS対応農薬散布用ドローンの実証も紹介しました。

講演中の齊田技術参与

7機体制に向けた内閣府の取り組みを説明

▽農業分野における衛星利用の取り組み

森田氏

農林水産省の森田氏

農林水産省の森田健太郎氏(大臣官房 政策課 技術政策室 情報化推進班 課長補佐)は、衛星測位を活用した高精度なロボットトラクターなどを生産現場に導入する「スマート農業実証プロジェクト」を2019年度から開始し、その中でみちびきのCLASに対応した自動運転トラクターも利用していると報告しました。コストを下げるため、ドローンやロボットトラクターのシェア・レンタルなどの支援サービスを活用して新技術を使いやすくする取り組みも進めており、今後はスマート農業の人材育成を行い、生産現場におけるデジタル技術の実装拡大や、技術の開発・改良、研究開発人材の確保にも取り組んでいく方針だと説明しました。

▽GPASの高精度測位補正情報配信サービス

丹野氏

グローバル測位サービスの丹野部長

2020年度から商用配信を開始した「GPAS高精度測位補正情報配信サービス」について、配信元のグローバル測位サービス株式会社 丹野貴之氏(総務・営業部 部長)が説明しました。MADOCAの技術を利用して生成した測位補正情報をインターネットで世界中に配信するサービスで、2024年度から自動車や農業、建設、海洋、ドローンなどさまざまな分野において本格配信を開始する予定です。携帯電子機器における利用及びソリューションサービス事業の展開も予定しています。あらかじめ測位ユーザーの近く(約30~60km程度)で電離層と対流圏の遅延量を求めて補正情報としてユーザーに提供する「ローカル補正技術」を開発中で、これにより収束時間を1~10分程度に短縮できる見込みです。監視局網の追加などサービス安定性の向上や補強対象衛星の拡張にも取り組んでいく方針です。

▽CLAS対応アンテナを利用したスマート農業実験

岩城氏

岩城農場の岩城代表

栃木県大田原市にある岩城善広氏の岩城農場では、トラクターの運転を支援する無料Androidアプリ「AgriBus-NAVI」をガイダンスに使用して、耕起や播種、代かき、肥料散布、薬剤散布を行うなどスマート農業に積極的に取り組んでいます。自宅に基準局を設置し、RTKの高精度測位を利用していますが、設定が複雑でさまざまなトラブルが発生したため、現在は、構成がシンプルで設定がしやすいCLAS受信機の普及価格帯の製品登場に期待しているといいます。マゼランシステムズジャパンが開発中のCLAS対応スマートアンテナについては、試作品の使用感として、バッテリー駆動でき、トラクターにマグネット固定すればすぐに使えるため、1台のスマートアンテナを複数のトラクターで簡単に使い回せる点をメリットに挙げました。

▽中山間地域の圃場におけるみちびき測位精度

飯田教授

京都大学の飯田教授

京都大学大学院の飯田訓久教授(農学研究科 地域環境化学専攻 フィールドロボティクス研究室)は、中山間地域におけるみちびきの測位精度を検証しました。マゼランシステムズジャパンのCLAS対応受信機とクボタのRTK-GNSS受信機の2つをロボットトラクターに搭載し、実際に農作業をしている時の位置情報を記録しました。GPSやGalileoなど複数のGNSSに対応した1周波マルチGNSS受信機によるRTK測位と、2周波マルチGNSS受信機を使ったRTK測位、CLASによる測位の3方式を比較した結果、2周波マルチGNSS受信機によるRTK測位がもっとも安定して高精度でしたが、中山間地域では補強データを受信する携帯電話ネットワークが通信圏外になり、単独測位となって精度が低下することがありました。一方、CLASは補強対象衛星数が11機・17機時の2度にわたって実験し、17機時には測位精度がかなり改善され、また3方式の中でもっとも高精度測位ができる地点が多く、中山間地ではCLASが有効であるとの結果になりました。

参加者一同

当日の会合参加者一同(撮影時のみマスクを外しています)

会合には農機メーカー各社も参加し、取り組み紹介や質疑応答などを行いました。野口教授は、「2年ぶりの意見交換会でしたが、CLASの補強対象衛星数が増えた効果が明らかになりました。みちびきは今後7機体制になり、中山間地域における農業の自動化・ロボット化にさらに有効な技術になると思います。世界的にもロボット農機の取り組みが進んでおり、GPASやMADOCA-PPPの今後の進展にも期待しています」と締めくくりました。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

関連記事