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岡山県矢掛町で衛星安否確認サービス(Q-ANPI)端末の操作訓練を実施

2022年09月29日

内閣府では「みちびき」の衛星安否確認サービス「Q-ANPI」の実証・調査へ参加いただける自治体を募集しています。本実証に参加している岡山県の矢掛(やかげ)町は2022年8月5日、Q-ANPIを使った通信端末の操作訓練を実施しました。操作訓練は、町役場と避難所である7つの小学校を双方向接続して行われ、当日は避難所運営に関わる公民館、自治会、町内会、地元防災士の会の関係者や、町役場の職員など約60名が参加しました。

旧山陽道の宿場町として栄えた交通の要衝

岡山県の南西部にあり、倉敷市や総社市の西に位置する矢掛町は、旧山陽道の宿場町として、また舟運の拠点として江戸時代から栄えた交通の要衝で、県西部を流れる高梁川水系の小田川と美山川の合流点近くに市街地が形成されています。

矢掛町の街並み

矢掛町の旧街道の趣を残す街並み。観光地としても人気が高い。

1970年代には町の中心部で大きな水害があり、小舟でおにぎりを配って回ったという逸話が残るほど、長期にわたる浸水がありました。その後、排水機などの整備が進み市街地の浸水被害はなくなったものの、矢掛町は、近年の水災害の激甚化と地域の高齢化という課題に対し、新たな防災ツールとしてのQ-ANPIに期待を寄せており、2020年度から内閣府が実施する「衛星安否確認サービス(Q-ANPI)の防災機能拡張に伴う実証・調査事業」に参加しています。

小田川

町内を流れる小田川

町内の各小学校で安否情報送信などの訓練

矢掛小学校

矢掛小学校。校舎の右手に体育館がある

訓練ではまず、町役場に隣接する矢掛小学校体育館で、訓練前に職員が操作方法を復習しました。その後、職員らが町内の各小学校で地域の防災リーダーらと合流し、Q-ANPI端末を開梱・起動して、みちびきを通して個人安否情報の送信やメッセージの送受信を行いました。

事前説明

矢掛小学校で行われた事前説明

訓練は町内の7つの小学校で実施

矢掛、小田、川面、中川、山田、三谷、美川の7小学校の位置

訓練が行われた町内の7つの小学校(地図出典:国土地理院)

矢掛小学校では、内閣府宇宙開発戦略推進事務局の大平正道技術参与(準天頂衛星システム戦略室)が、「Q-ANPI端末は、衛星と直接通信ができる機器で、日本中で使用できます。訓練を通じて寄せられた皆さんの声を反映し、改良を重ねることで、これから日本のどこかで起こる災害で誰かを救えるかもしれません。皆さんのご協力に感謝します」と挨拶し、訓練が始まりました。

今回の訓練の手順を、矢掛小学校を例にして順を追って説明します。

1)ケースを開梱
キャリーバック式のケースにQ-ANPIターミナルや管理PC、周辺機器、マニュアル一式が収められています。

ケースを開梱

キャリーバック式のケースを開梱する

2)Q-ANPIターミナルを設置
Q-ANPIターミナルを三脚に載せ、南側の空が開けている場所に設置します。スマホアプリ「GNSS View」でピンク色に表示されるみちびき3号機の方向を参考に、屋根や樹木などがかからない場所を選定します。

Q-ANPIターミナルを設置

Q-ANPIターミナルを三脚に載せ(左)、GNSS Viewで場所を選定(右)

GNSS View

GNSS Viewの衛星表示画面
(QZS 199がみちびき3号機)

3)Q-ANPIターミナルに電源を接続
商用AC100V、又は自動車シガーソケットからのDC12Vで動作します。それらが出力できる非常用発電機や大型モバイルバッテリーでも動作可能です。

電源を接続

Q-ANPIターミナルに電源を接続する

4)管理PCに周辺機器を接続
避難所の個人安否情報を集約する管理PCには電源のほか、Q-ANPIターミナルとの接続に携帯電話や無線LAN等と干渉しない周波数を利用する「920MHz帯通信USBドングル」や、QRコード化された個人安否情報をスマホから読み込む「USBカメラ」、情報集約のため避難者のスマホを管理PCに接続する際に使用する「無線LAN親機」といった周辺機器を接続します。

管理PCに周辺機器を接続

管理PC(左)と920MHz帯通信USBドングル(右)

5)避難所開設
管理PCを立ち上げて「避難所情報システム」を起動します。Q-ANPIターミナルと接続し、避難所名を登録して、避難所を開設します。Q-ANPIターミナルや避難所情報システムのインジケータが緑色に点灯すれば通信が正常に行われている状態です。避難所情報システムからは個人安否情報を集約する前の段階でも、避難者の概数を送信することができます。

管理PC越しにQ-ANPIターミナルのインジケータを確認

6)個人安否情報の入力
「受付用紙に手書きされた情報を管理PCに代理登録する」、又は「スマホアプリで入力してQRコード化し、管理PCのUSBカメラで登録する」という2つのパターンで訓練を実施しました。スマホ入力ではAndroid/iPhoneのアプリ「みちびき安否登録」を使用しました。

個人安否情報の入力

個人安否情報を入力する

読み取り画面

個人安否登録の
QRコード読み取り画面

山田小学校での訓練

山田小学校(左)のQ-ANPIターミナル設置(中央)と訓練の様子(右)

美川小学校での訓練

美川小学校の訓練の様子

中川小学校、小田小学校での訓練

中川小学校(左・中央)、小田小学校(右)の訓練の様子

訓練はスムーズに進み、約1時間で完了

15時半に開始された各避難所での訓練はスムーズに進み、7カ所からの個人安否情報の登録と、避難所~本部間の双方向のメッセージ確認は、1時間あまりで完了しました。

PC画面

各避難所からの情報を集約した画面

訓練を主導した矢掛町総務防災課の立川人士課長代理(危機防災係長)は、「昨年に続き2度目の訓練でもあり、参加者が通信端末をよりスムーズに扱えるようになった実感があります。今回、私は災害対策本部で各避難所からの個人安否情報やメッセージを集約する役割でしたが、現実の災害では、限られたマンパワーで全ての事態に対処していかなければなりません。職員が行けなかった避難所からも“避難所開設”の報せが届けられるようにと想像しながら、端末の操作に当たりました」と感想を話してくれました。

津尾主事と立川課長代理

左から矢掛町総務防災課の津尾亜紀夫主事と立川課長代理

実施後の参加者アンケートでは、「本番で使うとなるとまだ心配だが、操作へのハードルは低くなった」「今後は若い人も加えて、さらに訓練を重ねたい」など、実感が込もった声が寄せられました。

(取材・文/喜多充成・科学技術ライター)

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