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[講演] WTP2019で衛星測位に関するセミナーを実施

2019年06月10日

5月29日、東京ビッグサイト(江東区有明)で行われたワイヤレス・テクノロジー・パーク(WTP)2019においてセミナー「ロケーションサービス/Part1 衛星測位の最新情報」が開催されました。今回は、産官学から6人の識者がみちびきの最新動向や利活用の事例について講演しました。

会場の様子

衛星測位の概要と将来展望

東京海洋大学 安田明生氏(名誉教授)
安田氏

一般社団法人測位航法学会の会長を務める安田氏は、GPSによる測位の基本原理について解説しました。GPSは測位衛星(スペース・セグメント)と地上管制局(コントロール・セグメント)、測距信号と航法データを受け取る受信機(ユーザー・セグメント)の3要素で構成されており、GPSをチェックするモニタリングステーションは世界中に存在します。GPS衛星は現在31衛星が稼働中で、ブロックIII(第3世代)最初の衛星が2018年12月に打ち上げられました。測位方式としては、DGPSやRTK*-GPS、GPS単独測位などさまざまな方式があり、それぞれ測位精度が異なります。安田氏はこれらの測位精度を比較して解説すると共に、GLONASSやBeiDou、ガリレオなど衛星測位システムの動向も紹介しました。

*RTK(Real Time Kinematic):基地局の位相観測データを移動体に送信してリアルタイムでcmの精度で位置を測定する方法

みちびきのサービス概要と利活用事例

内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 成澤 慶 参事官補佐(準天頂衛星システム戦略室 室長補佐)
成澤 参事官補佐

2018年11月にサービスを開始したみちびきについて、高精度測位を実現するセンチメータ級測位補強サービス(CLAS)やサブメータ級測位測位補強サービス(SLAS)、災害・危機管理通報サービス(災危通報)など提供サービス概要を紹介しました。現在の4機体制での運用をしっかり行っていくと共に、2023年度めどに運用開始予定の7機体制に向けて、衛星間の距離を測定し、衛星の位置誤差を補正するなど、機能や性能の向上に向けた開発にも取り組んでいく方針です。成澤参事官補佐はこのほか、農機の自動走行システムや、一般車の自動運転システム、除雪作業支援システム、ドローンによる配送サービス、トラッキングサービス、路面情報検知システム、交通安全分析サービス、ゴルフ用の腕時計型ウェアラブル端末など、さまざまな分野における利活用の事例を紹介しました。

みちびき受信機の最新動向について

一般財団法人衛星測位利用推進センター 松岡繁氏(利用実証推進部 部長)
SPACの松岡氏

みちびきの概要やサブメータ級・センチメータ級の測位補強サービスの概要、災危通報、衛星安否確認サービス(Q-ANPI)などの機能を紹介すると共に、最近の受信機動向と今後のトレンドを紹介しました。松岡氏は、CLAS(センチメータ級測位補強サービス)対応受信機が以前に比べてかなり小型化していると紹介し、小型化は今後さらに進むと予想しました。その上で、受信機の小型化だけでなく、低価格マルチ受信アンテナの開発も必要だと語りました。このほか日本無線やマゼランシステムズジャパン、ソニーなど各社のみちびき対応受信チップやモジュールの評価結果を紹介しました。さらに、L6データをRTCM補正値に変換し、既存のRTK受信機でCLASを可能にする「L6アダプタ」の構想についても紹介しました。また、今後は安価なGNSSの2周波・3周波チップが市場に投入される可能性もあることにも言及しました。

スプーフィングとジャミングへの対策

イネーブラー株式会社 佐藤真木氏(GNSS事業部)
イネーブラーの佐藤氏

佐藤氏は、GPSにおけるセキュリティの話題として、ジャミング(電波妨害)やスプーフィング(なりすまし)の検知技術から、GNSSシミュレータによる検証・対策を紹介しました。GPSの信号は脆弱であり、信号の構造が公になっているために妨害することも、作り出すことも容易です。そのため、GPS信号を妨害する「GPSジャマー」が出回り、GPS信号を作り出すフリーのソフトウェアなどが公開されていることも紹介しました。これらの対策として、ハッキング信号やジャミングの到来方向を検知するアレイアンテナを使う方法や、GPS電波に認証信号を取り入れること、レーダー測位やカメラ、マップマッチング、ネットワーク連携など、衛星測位以外のバックアップ手段と併用することを挙げました。さらに、GPSの信号レベルや時刻差、距離差などをもとにGPSのセキュリティ診断を行うことも有効であると語りました。

衛星測位のロボットへの応用

千葉工業大学 鈴木太郎氏(未来ロボット技術研究センター 主任研究員)
千葉工業大学の鈴木氏

鈴木氏は、ドローンやサービスロボット、自動運転などロボットでの衛星測位技術の利用方法とその応用について紹介しました。GNSS測位の可用性向上には、衛星数を増やすと共に、IMU*やジャイロ、LiDAR**など他システムとの複合が不可欠であり、精度向上には速度情報の利用や2周波の受信機の利用、マルチパスへの対策などが有効です。最近では、2周波GNSSを受信できる安価な受信チップが発売されており、今後は2周波のRTK-GNSSと高精度なIMUが複合した製品の価格が大幅に下がることが予想されます。鈴木氏は、このような衛星測位技術を使ったロボット技術の実験として、2周波受信機やIMU、LiDAR、魚眼カメラなどを搭載した移動ロボットによる3次元地図作成や、赤外全周カメラで可視衛星を判別してマルチパス対策を行う実験、ドローンにRTK-GPSに対応した受信機を複数台搭載することにより、IMUを利用せずに絶対姿勢角を推定可能にする技術なども紹介しました。

*IMU(Inertial Measurement Unit):慣性計測装置:加速度や角速度を検知し姿勢を知る
**LiDAR(Light Detection and Ranging):全周レーザー距離計測器。全方位レーザーで障害物を検知し、自己位置を推定する

みちびきの補強信号を含めた高精度測位

東京海洋大学 久保信明氏(海事システム工学部門 教授)
東京海洋大の久保氏

みちびきの補強信号も含めた、GNSSによる高精度測位全般について紹介し、各補強サービスの精度とカバレッジを説明しました。衛星測位は、さまざまな分野での利用が進んでおり、農業や建築、土木、自動車、海洋の分野ではセンチメータ級の精密な位置情報のニーズがあります。さまざまな分野においてGNSSを利用する際に利用者が気をつけるべきは、GNSSの精度や利便性は電波環境に依存するため、GNSSの利用に適さない環境があると理解することです。久保氏は、RTKとPPP(Precise Point Positioning=高精度単独測位)の違いや、CLASとPPPとの違いなど、測位方式の違いについて解説した上で、検証結果の比較などを報告しました。これらの結果から、CLASはFIX解の信頼性を高めることができれば、開けた環境であれば十分に利用できる方式であり、日本国内のさまざまな地域において同じような性能が出ることが重要だと語りました。

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