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マゼランシステムズジャパンが高精度測位の防災活用で意見交換会

2023年06月08日

マゼランシステムズジャパン株式会社は2023年5月12日、同社の本社オフィスが入る尼崎リサーチ・インキュベーションセンター(兵庫県尼崎市)にて第1回「高精度衛星測位システムの防災インフラへの適用に関する意見交換会」を開催しました。ビルの管理者である株式会社エーリックが後援し、みちびきのCLAS(センチメータ級測位補強サービス)などの高精度測位を防災分野に活用する取り組みを話し合う場に、自治体や民間企業、研究所など幅広い分野から約50名が参加しました。

会場ビル全景

尼崎リサーチ・インキュベーションセンター

CLASを体感してもらう屋外デモを実施

会合に先立ち、主催者を代表してマゼランシステムズジャパンの岸本信弘代表取締役が挨拶した後、ビルの外に出て、みちびきCLASの高精度測位を参加者に体感してもらうための屋外デモを行いました。最初のデモは、台車を使ったCLASとRTK(リアルタイムキネマティック)の測位精度比較の実験で、1つのアンテナで受信した信号をスプリッターで2つに分配し、それぞれCLASとRTKに対応した受信機を接続して、台車を手動で動かして精度を比較しました。両方の軌跡ログを比較したところ、CLASの測位精度がRTKと同程度であることが確認できました。

台車

精度比較に使用した台車(左)にはCLASとRTKの受信機を設置(右)

実験方法の説明

実験方法を説明して(左)、台車を移動(右)

軌跡ログ画面

軌跡ログ。それぞれ左側がRTK測位、右側がCLAS測位の結果

続いて行われたのは、CLAS対応受信機を搭載したUGV(Unmanned Ground Vehicle、自動走行小型車両)のデモ走行です。これは、2021年度みちびきを利用した実証事業における成果でもあり、UGVには前後にアンテナを1つずつ搭載し、それぞれにCLASとRTK測位の両方に対応した受信機を接続して、片方の受信機でCLASによる測位を行ってこれを基準局とみなし、もう片方の受信機を“スレーブRTK移動局”としてRTK測位を行いました。車体前後に設置した2つのアンテナの高精度位置情報をもとに姿勢角を計測することでUGVを自動制御でき、パイロンの間を通り抜けながら、設定されたコースを正確に走行しました。

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走行するUGV

CLAS対応受信機を搭載したUGV

デモ中の様子

デモ中の様子

UGVの移動コース

UGVの移動コース

みちびきの防災関連サービスや事例を紹介

齊田技術参与

内閣府の齊田技術参与

意見交換会では、内閣府 宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室の齊田優一技術参与が講演を行いました。みちびき7機体制の構築に向けて新たな衛星を2023~24年度にかけて順次打ち上げる予定であることや、海外でも利用可能な高精度測位補強サービス(MADOCA-PPP)や、信号認証サービスが2024年度から運用開始予定であることを紹介しました。

防災関連サービスでは、防災関連情報をみちびきのL1S信号を活用して送信する「災危通報(災害危機管理通報サービス)」と、避難所の情報をみちびきと管制局を経由して防災機関などに伝達する「Q-ANPI(衛星安否確認サービス)」について解説しました。

災危通報は今後、Jアラート(全国瞬時警報システム)及びLアラート(災害情報共有システム)に基づいた避難情報の配信を2024年度の開始予定で進めているほか、アジア太平洋地域の災害情報の配信に向けた拡張や現地実証を進め、2025年度の配信開始予定であることを説明しました。

防災モニタリングポスト実用化に向けた取り組み

岸本氏

マゼランシステムズジャパンの岸本氏

マゼランシステムズジャパンの岸本氏は、同社が開発中の高精度測位を活用した防災モニタリングポストを紹介しました。これはみちびきのCLAS及びRTK測位を活用したもので、次のような機能を搭載しています。

防災モニタリングポストの解説図

さまざまな機能を持つ防災モニタリングポスト

この機能を1台で実現する防災モニタリングポストの開発に向け、現在、同社オフィスが入るビルの屋上に衛星測位用アンテナ3台を恒久的に建て、3階のオフィスまでケーブルを配線して継続的な観測を行っています。

観測用アンテナの写真

ビルの屋上に観測用のアンテナを設置

岸本氏は、この屋上アンテナの観測データをもとにした地盤変位の解析結果を発表しました。3月30日~4月9日にアンテナ3本を使ってRTKとCLASの両方式により地盤変位のモニタリングを行いました。CLASの測位データをもとにした解析結果のグラフを見ると、建物のわずかな変位を捉えられていることが確認できます。
「今回は3本のアンテナの平均化処理を行っておらず、グラフの振れ幅が大きいですが、平均化処理を行えば地震などの急激な揺れについてCLASのデータがかなり使えると考えています」(岸本氏)

解析結果のグラフ

地盤変位の解析結果

一方、降雨現象のモニタリングは、測位衛星の電波が対流圏の水分量に応じて受信機への到達速度が変わることを利用したものです。岸本氏は、今後、気象庁とも連携して水分量の上昇の仕方と降雨量の相関関係を分析し、正確な降雨予測につなげたいと説明しました。

解析結果のグラフ

降雨現象の解析結果

MADOCA-PPPを活用した津波警戒システム

岸本氏は海外の事例として、2022年3月にインドネシアで試験導入された、MADOCA-PPPを活用した津波の早期警戒システムも紹介しました。これは、海洋ブイにMADOCA-PPP対応受信機を搭載し、海面の上下動を観測して津波なのか通常の潮汐かを解析して、津波の発生を検知した場合に警戒を発するシステムです。ブイに搭載する前の試験段階として、地上において高さ方向の位置精度を1年間にわたって観測したところ、MADOCA-PPPは十分な精度であると確認され、現在、実用化に向けた準備が進められています。

精度実験の解説図版

MADOCA-PPPの精度実験

インドネシアでは、このほかにMADOCA-PPPを活用して地すべりを検知するモニタリングシステムの実験も行われています。インドネシアは災害が多いため防災への意識が高く、衛星測位を活用した警戒システムの実装を早めていく動きがあります。

地すべり検知システムの解説図版

MADOCA-PPPを活用した地すべり検知システム

同社は欧州宇宙機関(ESA)が取り組んでいるアフリカの気候変動対策にも協力しており、水位変化モニタリングによる洪水対策や灌漑の効率化のために高精度測位対応の受信機を提供していく方針です。
衛星測位の防災活用を推進させるためには高精度測位対応の受信機の小型化と低価格化が必要であり、同社は従来よりも大幅に小型化したみちびき対応の次世代受信機の出荷に向けて検証を進めています。さらに、次世代受信機と小型アンテナ、バッテリーなどを一体化させたみちびき対応スマートアンテナの開発にも取り組んでおり、オールインワンの機器を製品化することで防災モニタリングポストの実現につなげたいとしています。

意見交換会ではこのほかに、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の地球観測衛星や、株式会社オプテージによるGNSSデータ解析をもとにした地震先行現象の検出の取り組み、NTT西日本(西日本電信電話株式会社)による防災分野の取り組みなどが紹介されました。参加者からは「GNSSの防災活用について、水位変化に関する話が非常に参考になりました」などと好評価が寄せられました。

参加者の集合写真

当日の会合参加者一同

マゼランシステムズジャパンはこの会合を今後も継続して開催していく予定で、ビル屋上アンテナの観測データをもとにした解析結果や海外での成果なども広く共有していくとのことです。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

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