コンテンツです

ACSLがSLAS対応の小型空撮ドローン「SOTEN(蒼天)」を発表

2022年01月11日

株式会社ACSLがこのほど発表した「SOTEN(蒼天)」は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「安全安心なドローン基盤技術開発」プロジェクトにおける研究開発成果をもとに製品化された小型空撮ドローンです。

SOTEN(蒼天)

SOTEN(蒼天)

コンピュータセキュリティのための国際規格「ISO15408」に基づくセキュリティ対策が施され、データ漏洩や抜き取り防止、機体乗っ取りへの高い耐性を実現したほか、信頼性の高い部品を採用し、通信・撮影データの暗号化や、国内クラウドでの取得データ保護などのセキュリティ面が強化された製品となっています。
そしてセキュリティの高さと並ぶ大きな特徴が、みちびきのSLAS(サブメータ級測位補強サービス)及びSBAS(衛星航法補強システム)に対応した点です。撮影時や離着陸時などに高精度な位置情報を把握することができる「SOTEN」開発の経緯を、ACSLの代表取締役社長兼COOを務める鷲谷聡之氏に聞きました。

鷲谷氏

ACSLの鷲谷氏

SLASは国産ドローンならではの強み

最初にSOTENをみちびきのSLASに対応させた理由を説明してもらいました。
「ドローンが飛行する際は、測位精度が高ければ高いほどよいというのが前提です。なので、一般的なGPSだけでなくサブメータ級の精度を実現できるSLASに対応することは、他社製品に比べて強みになります。他国製のドローンと差別化を図り、国産ドローンならではの特徴をアピールできる狙いもあります。SOTENはインフラ点検や災害対策などの用途を想定していますが、測量などセンチメータ級の精度が求められる場合以外であれば、SLASの精度で十分とも考えました」(鷲谷氏)

次にSLAS対応を図るに際して、開発段階で苦労した点を訊ねたところ、特になかったという答えが返ってきました。
「当初はコスト増を心配していましたが、もともと採用を検討していた受信チップがSLAS対応だと分かり、価格面については解決しました。設計面でも、みちびきに対応したアンテナを使えば、そのままSLASにも対応可能ということで、機体の重量やサイズへの影響も特にありませんでした」(鷲谷氏)

一方、現状における課題として、現在採用している受信チップでは、SLASとSBASのどちらの信号を受信しているかが識別できない点があるといいます。
「受信チップの機能で、SLASとSBASを個別にオン・オフ切り替えることは可能なので、SLASのみの状態とSBASのみの状態でそれぞれ評価試験を行い、どちらも問題ない測位精度が出て、製品の品質上は特に問題ありませんでした。ただ、ユーザー側としては使用している信号が分かるほうがよく、今後はどちらの信号を使っているか識別できるようになってほしいと思います」(鷲谷氏)

信号認証機能によるセキュリティ向上に期待

ACSLは、将来的にはCLAS(センチメータ級測位補強サービス)への対応も視野に入れ、NEDOの事業において検証を進めています。
「CLASに対応するとなると、受信機のボードやアンテナのサイズが大きくなり、SOTENのような小型機種に搭載する場合、ペイロードの確保や電源系統のノイズ処理が難しいと思います。しかし今後、受信機やアンテナの小型軽量化が進んだ時には、価格や性能とのバランスを考えつつ、搭載を検討していきたいと思います」(鷲谷氏)

みちびきは、将来的にスプーフィング(なりすまし)対策として暗号技術を活用し、測位信号に含まれる航法メッセージの発信元を認証する「信号認証(航法メッセージ認証)」機能の整備を計画しています。鷲谷氏は、この信号認証機能にも注目しています。
「ドローン側でいかにセキュリティ対策をしても、入ってくるGNSS信号そのものに何か問題があれば、技術的に回避するのは難しく、今後みちびきにセキュリティ機能が搭載されるのは、私どもとしてはありがたいです」(鷲谷氏)

鷲谷氏は、みちびきへ期待することとしてMADOCA(高精度測位補正技術)も挙げました。
「MADOCAについては、NEDO事業において受信機メーカーであるマゼランシステムズジャパン様と意見交換しています。MADOCAが正式サービスとして使えるようになれば、海外展開する上で優位性を発揮できますので、当社も注目しています」(鷲谷氏)

SLASによる測位精度の向上をユーザーへアピール

SOTENは主に空撮を用途としていますが、ACSLでは今後、物流用など他分野に向けたドローンの開発も検討しています。
「物流の場合、離着陸の際に位置精度の高さが求められます。現在、当社では離着陸場にマーカーを置いて画像処理で精度を高める手法を採用していますが、受信機やアンテナのサイズが小さく、コストも抑えられるなら、みちびきへの対応も検討したいと考えています」(鷲谷氏)

SOTENはLTE通信にも対応しており、インターネットを介したドローン操縦ができ、遠隔地において自動飛行による補助者なしの目視外飛行(レベル3)も可能となります。ドローン業界では現在、レベル4(有人地帯での目視外飛行)実現に向けたさまざまな取り組みが始まっています。レベル4の実現に向け、みちびきの高精度測位がどのように役立つのでしょうか。
「レベル3は無人地帯を飛行するため、トラブルが発生した場合はドローンを墜落させるという方法がありますが、レベル4では墜落させることができません。飛行中の位置精度が正確であればあるほど、周囲をリスクにさらす範囲を狭くできるので、高精度測位は重要だと思います」(鷲谷氏)

ドローンの分野では、みちびきの活用はまだ始まったばかりです。測位精度の向上というメリットを、エンドユーザーにもっと知ってもらうことが大切で、それによって機体メーカーもみちびきの技術を採用していきます。結果として、機器の小型化や低価格化が進むという好循環が生まれます。鷲谷氏も「今回、SOTENがSLASに対応し、SLASを使うことで明らかに精度が向上すると示せれば、"ドローンではSLAS対応が当たり前"という雰囲気ができるのではないか」と期待を込めて語ってくれました。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

画像提供:株式会社ACSL

関連記事