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SLAS対応の安全運転支援サービス「Driving!」開発者に聞く

2021年09月13日

運転中の映像や音声を記録できるドライブレコーダーは、交通事故が起きた際の客観的な証拠として有効であるだけでなく、ドライバーの安全運転への意識を高めることにより事故防止にもつながります。損害保険ジャパン株式会社(損保ジャパン)はこのようなドライブレコーダーの効果に注目し、2015年にドライブレコーダーを活用した法人向けの安全運転支援サービス、2018年には個人向けの安全運転支援サービス「Driving!」提供を開始しました。
これまで同サービスで提供していた専用ドライブレコーダー端末は一般的なGPSに対応していましたが、今回新たに発表した新端末では、みちびきのL1S信号の受信に対応し、SLAS(サブメータ級測位補強システム)による測位が可能となりました。

新端末のSLASへの対応について、損保ジャパンの岡根俊介氏(リテール商品業務部 モビリティグループ 課長代理)、原田征己氏(保険金サービス企画部 企画グループ 調査課長代理)、青木理彦氏(マーケティング部 課長代理)と、同社と共に新端末の開発に携わったパナソニック株式会社 オートモーティブ社 インフォテインメントシステムズ事業部の光永富幸氏(コネクテッドDAビジネスユニット Android商品開発センター 商品設計6部 設計部長)と坂本佳隆氏(市販・用品ビジネスユニット 市販事業推進部 商品企画課長)、そしてパナソニック システムソリューションズ ジャパン株式会社の工藤悠馬氏(法人営業本部 金融システム営業部 2課)に話を聞きました。

取材した6氏

左から損保ジャパンの岡根氏、原田氏、青木氏、パナソニックの光永氏、坂本氏、工藤氏

通信/衛星測位可能なドラレコをレンタル

損保ジャパンの「Driving!」は、「ドライブレコーダーによる事故発生時の通知等に関する特約」を付帯した自動車保険契約に提供される安全運転支援サービスで、利用者には専用のドライブレコーダー端末がレンタルで提供されます。
端末にはLTE通信と衛星測位の機能が搭載され、運転中の映像を位置情報と共に記録できます。事故発生時に自動的に損保ジャパンへ映像が送信されるほか、発生現場の位置情報に基づきALSOKのガードマンが現場に急行するサービスも提供されます。

また、ヒヤリハットが起きた場所の位置情報を記録でき、内蔵の加速度センサーや映像解析により、車間が短くなった際に警告を発する車間アラート機能も搭載しています。運転中のセンサーや位置情報データを分析して、走行距離や時間、ブレーキ、アクセル、ハンドリングなど点数で運転内容を可視化し、運転毎や毎月の総合評価を算出するサービス「運転診断レポート」も提供し、運転特性スコアが80点以上の場合は翌年の保険料が5%割引となります。
「お客様が万一の事故の時に困ることがない、という点を第一に考えて通信機能を搭載しました。大きな衝撃が発生した場合、映像が自動的に当社に送信されるので、それを見ながらお客様をサポートでき、緊急時の駆け付けサービスがあるのでお客様を一人にすることもありません。また、既に提供している同様のサービスでも、提供前より、事故を削減するという効果もありました」(青木氏)

専用ドライブレコーダーがSLAS対応に

ドライブレコーダーとリアカメラ

SLAS対応のドライブレコーダー(左)と後方を撮影するリアカメラ(右)

このサービスで提供される専用ドライブレコーダー端末が、2021年9月からみちびきのSLASに対応した新機種へとリニューアルされています。2世代目となる最新機種では、LCDの液晶画面や音声通話機能の追加、車の後方部を表示するリアカメラへの対応などさまざまな面で機能強化を図っていますが、中でも注目されるのが、みちびきのSLASによる測位が可能になったことです。
青木氏は、損保ジャパンがドライブレコーダーを活用する狙いとして、「ドライバーが安心して運転でき、事故が起こらない社会に貢献する」というビジョンを掲げています。これを実現するミッションに「事故発生時に顧客を孤独にさせない」「事故を未然に防ぐ」を挙げ、提供する2つの価値(バリュー)として「保有データを活用して危険運転を周知させ、事故を未然に防ぐ」「事故が起きた場合にいち早く状況を理解し、解決に導いて大きな安心を提供する」を設定しました。
「SLASで測位誤差を極めて少なくするのは、当社が掲げるビジョン・ミッション・バリューに合致するということで今回、L1Sに対応しました」(青木氏)

事故が発生した場合は、ALSOKのガードマンが駆け付けることもあれば、レッカー車が向かう場合もあります。さらに、株式会社日本緊急通報サービスが提供するHELPNETサービスと連携し、通話内容と位置情報に基づいて消防・警察へ連絡、救急車両などの出動を要請できることになりました。
「これまでの一般的なGPSでは、道幅が大きい道路で反対車線の位置情報を伝えてしまう場合もありましたが、SLASにすれば位置ズレを低減することができますので、緊急車両を要請した場合にも、より早くお客さまのもとへ到着できる可能性が高まると考えています。事故の解決に向けて責任割合を算定する場合も、その基礎となる事故状況に関して、SLASでより正確に車の動きを確認できると期待しています」(原田氏)
「運転診断レポートも衛星測位の位置情報を活用しており、SLAS対応で測位精度が向上すれば、診断の正確性も上がります。お客様の安全運転への意識も向上し、事故削減にも効果があると考えています」(岡根氏)

SLASは地図データを非搭載の端末に有効

専用スマホアプリで確認

記録された動画を専用スマホアプリで確認可能

新端末は数々の機能を追加しましたが、サイズは旧機種よりも小型化されました。パナソニックの光永氏は、開発で苦労した点を次のように説明します。
「小さな筐体にSLAS対応のGNSSアンテナと、LTEやWi-Fi、Bluetoothの通信モジュール、LCDなど多くのデバイスを搭載した場合、筐体のサイズでアンテナの性能がある程度決まってしまいます。特にGNSSやLTEのアンテナは小さくすると性能が下がるので、ぎりぎりまで筐体のサイズを小さくしながらも性能を確保するのに苦労しました」(光永氏)

大変だったのがノイズ対策で、電磁界シミュレーターを使用して基板構成や各基板間接続のFPC(フレキシブル基板)、電流のふるまいなどをシミュレーションしながら、どのような構造や接続にするかを事前に検討し、シールドを効率よく使うなどの実際の設計に活かしたそうです。GNSSアンテナは他の無線系に比べて受信電波が弱いため最上面に配置し、アンテナの下にはシールド用の金属板を敷いて、極力ノイズが回り込まないように工夫しました。パナソニックがSLASに対応したドライブレコーダーを開発するのはこれが初であり、GPSに比べて精度が高いことを確認できました。
「都市間高速道路のような開けた場所では、SLASは車線を特定できるほどの高い精度が出ており、高層ビル街などでも一般的なGPSより電波のマルチパス(乱反射)にも強いと感じています。カーナビの場合は地図データを使って位置情報の誤差を補正するマップマッチングが使えますが、地図データを持たないドライブレコーダーのような機器において、測位精度の高いSLASはとても有効と考えています」(坂本氏)

パナソニックグループではドライブレコーダー以外にも、カーナビを始めとしたさまざまな機器でGNSSを使用しており、他機器へのSLASの展開も検討しています。また、今回は対応していませんが、災危通報(災害・危機管理通報サービス)についてもドライブレコーダー以外の機器での対応を検討しています。

高精度になればデータの信頼性も向上する

「Driving!」専用ウェブサイト

「Driving」の特約保険料は月額850円です。新端末へリニューアルした後も金額は変わらず、機能が追加され、性能が向上したにも関わらず料金は据え置かれました。
「当社としては、このサービス自体で収益を得るよりも、お客様の事故削減効果や、事故の初動対応の短縮化という狙いのほうがはるかに大きいです。以前はお客様から事故時の状況を細かくヒアリングしていたので、対応にとても時間がかかりましたが、ドライブレコーダーを導入してからは、こうした手間やコストを大幅に削減できました」(青木氏)
「まずはドライブレコーダーを導入していただくことに大きな意味があると考えており、それをさらに高度に活用していただくために今回、SLAS対応を図りました。お客さまへのサポートや説明を行う中で大切なのは“信頼”であり、SLASを使った精度の高いデータはその礎となります。また、裁判などではデータの精度が低いと全体的な主張の信頼性も揺らいでしまうため、位置情報の精度はとても大事だと考えています」(原田氏)

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

※画像提供:損害保険ジャパン株式会社、パナソニック株式会社

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