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東大の研究所が、海鳥に付けたGPSで海上の風向・風速を推定

2016年08月19日

東京大学大気海洋研究所と国内外の大学・研究機関の合同研究チームは、海鳥に装着したGPS記録計のデータから、海上の風向・風速を推定する方法を見出しました。いわば海鳥を風速計として利用する手法です。取得された高解像度の海上風データで気象衛星による観測データを補間することで、気象予報の精度を高める可能性が出てきます。

GPS等で野生生物の行動を把握する「バイオロギング」

野生生物の行動を把握するため、小型の機器を生物に装着し記録されたデータを回収・取得するバイオロギング(Bio-Logging)と呼ばれる研究手法が急速に進化しています。照度、温度、圧力、加速度などに加え、最近では小型で省エネ型の衛星測位モジュールを装着し、無線でデータを送信することも可能になっています。この研究手法は海洋生物や鳥類・魚類などの知られざる生態を明らかにしてきました。Bio(生物)とLog(記録する)を組み合わせた和製英語ですが、現在では正式な学術用語として定着しているといいます。

今回の観測の対象となった海鳥はオオミズナギドリ、コアホウドリ、ワタリアホウドリですが、中でもオオミズナギドリは、体長約50cm、体重約500gの海鳥で、伊豆諸島の御蔵(みくら)島が世界最大の繁殖地として知られるほか、日本列島周辺の離島にあるいくつかの集団繁殖地が国や県指定の天然記念物に指定されています。また近縁種のハイイロミズナギドリも、赤道をはさんで南北を数千kmにわたって移動する暮らしぶりが、バイオロギングの手法を使った研究などから判明しています。

対地速度が分かれば、風向と風速を推定できる

1秒間隔で位置情報を記録するGPS記録計からは、地面を基準にした速度である「対地速度」と鳥の「進行方向」を求めることができます(海上でも便宜上、「対地」と呼ばれます)。オオミズナギドリは直線的に飛行しているように見える場合でも、蛇行しながら飛ぶ性質があるため、ここで示される「進行方向による対地速度の増減」(図中のグラフ)が追い風や向かい風の影響であると考えると、それらをキャンセル(オフセット)することで、もともとの風向と風速が推定できるというものです。

オオミズナギドリに装着したGPS記録計から得られた経路のうち5分間の経路を示しています(=A)。飛行経路は1秒毎の位置情報を元に描いており、点の間隔が飛行速度に相当します。それを見る限り、飛行速度が増加するところと減少するところがあることが分かります(=B)。この5分間の飛行での飛行速度と進行方向の関係から、風向・風速を推定しました(=C)。ミズナギドリやアホウドリは一見直線的に飛んでいるような場合でも(=D)、風からエネルギーを得るために蛇行しているため(=E)、進行方向にばらつきができ、風向・風速を推定することができます(=F)。

合同研究チームは、この手法を使うことで5分間隔、5km以下のスケールで海上風を推定、従来の衛星観測では1日2回に限られていた海上風観測の空白域を補間できることを示しました。

2014年8月29日(=A)と9月2日(=B)に放鳥したオオミズナギドリから得られた飛行経路から風向(黒棒)・風速(色)を推定しました。オオミズナギドリの繁殖地(赤星)がある三陸沿岸で高解像度の風情報が得られていることが分かります。海鳥の飛行経路から推定した風(赤矢印)と気象衛星の風(灰矢印)とを比較するとよく一致していることが分かります(Aのa, b, cとBのa, b, c, d, e, f)。

動物を用いた環境モニタリングを行う試みも

動物の行動や生態の把握だけでなく、動物を用いた環境モニタリングを行う試みもさかんに行われるようになっており、昨年12月には国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)らの研究グループが、海上で休息するオオミズナギドリの位置情報や内航貨物船の航行記録が、海流予測の精度向上に役立つことを示しました。

同研究所では、海鳥によって観測できる気温、海面水温、気圧、海洋表層流などのパラメータを統合することで、海鳥を新たな観測基盤にできると期待しています。

参照サイト

※ヘッダはイメージ画像。本文図版:東京大学大気海洋研究所提供

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