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船舶無人航行システムでのGNSS利用と日欧協力をさぐるセミナー

2016年12月27日

日本とEU(欧州連合)の産業協力を担う日欧産業協力センターは11月11日、東京・港区にある駐日欧州連合(EU)代表部で「船舶無人航行システムの展望とGNSSの活用」と題したセミナーを開催しました。このセミナーは、世界的に注目が集まる船舶の無人航行システムについて、現状と展望、デバイスや技術に加え、法的側面までを含む多角的な分析を行い、今後の日欧協力の可能性をさぐる目的で開催されたものです。

「自律航行船舶」に向け、多面的な議論

日欧産業協力センターのムーラ氏

日欧産業協力センターのムーラ氏

日欧産業協力センター事務局次長のファブリツィオ・ムーラ氏による開会挨拶に続き、基調講演として国際航法学会(IAIN=The International Association of Institutes of Navigation)会長の新井康夫氏(独立行政法人海技教育機構海技大学校 名誉教授)が「航海情報の自律完結性に関する国際展望/レジリエントPNTと無人化船の実現に向けて」と題した講演を行いました。

国際航法学会の新井会長

国際航法学会の新井会長

新井氏はIAINの沿革と役割について触れた後、測位航法システム(PNT=Positioning, Navigation and Timing)におけるGNSSの重要性と共に、それを補完する測位システムの必要性について、スプーフィングやジャミング機器等の実例を紹介して解説しました。そして今後の無人航行システムでは、GNSS受信機に加え、IMU(Inertial Measurement Unit、慣性計測装置)、レーダーや他の測位システムなどマルチセンサー化が必須であり、その導入や通信インフラの整備などに国際的な議論と協調が求められると述べました。

吉田氏

JAMSTECの吉田氏

続いて国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の吉田弘氏(海洋工学センター海洋技術開発部 部長)が「日本からみた船舶の無人航行システムとGNSS」との標題で講演しました。吉田氏は、欧米における無人航行船舶の開発状況や市場形成の現状などを紹介した後、科学探査・インフラ調査などの目的で、ボートサイズの無人航行船と水中の自律探査機を協調して動かす運用イメージを提示。技術開発や技術規準策定の方向性、衝突予防のためのルール作りの重要性などについてコメントしました。

古野電気の柏氏

古野電気の柏氏

さらに古野電気株式会社の柏卓夫氏(技術研究所研究部 部長)が「無人船/自律船運航を支える舶用機器」とのテーマで、GNSS受信機や電子コンパス、レーダー測位システムなど舶用電子機器の技術動向を報告しました。
半導体技術の進化で性能向上が進む高感度カメラや赤外線カメラ、LIDAR (レーザーレーダー)などの新技術を紹介し、新コンセプトの衝突回避アルゴリズムOZT(Obstacle Zone by Target)などに触れ、船舶が無人運用される場合には今以上に通信機器の重要度が増し、サイバーセキュリティに関する配慮も一層、重要になると強調しました。

法廷弁護士のトング氏

法廷弁護士のトング氏

休憩をはさんで、法廷弁護士で英グリニッジ大学研究員のヘリン・トング氏が「法律的観点から見た船舶の無人航行システム及びGNSS」のタイトルで講演しました。トング氏によれば世界の海運業の市場規模は、年間約4500億ドルに達し、貨物船の運航コストのうち約44%が乗員のコストであるなど、船舶無人化へのインセンティブの大きさについてまず紹介。続けて、船舶の無人航行システムを支える技術を、それぞれの構成要素に分けて解説した後、船舶の無人航行に関する英国、日本、EU(欧州連合)それぞれの基本的な法的枠組みを提示しました。
そして、「洋上における船舶の自律的な衝突回避は、自動制御の活用と人工知能(AI)分野の技術で実現できる」とするCOLREG条約(Convention On the InternationaL REGulations for Preventing Collisions at Sea、洋上における衝突予防のための国際規則に関する条約)の一節を紹介。規制当局や国際機関の動向、地球温暖化問題に関する取り組み、船舶リサイクルに関する条約など、このテーマを取り巻く課題を多角的立体的に示しました。

実現への期待を語るパネルディスカッション

パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションの様子

引き続きこの日の講演者によるパネルディスカッションが行われました。モデレーターを務めるトング氏から「コミュニケーション」についてコメントを求められた国際航法学会の新井氏は、「大小さまざまで、能力もさまざまな船舶が混在する」という現状に憂慮を示しました。また、「ビジネス化の可能性」についてJAMSTECの吉田氏は「保険制度の複雑さもあり、まだ見通せる段階にない」とコメントしました。古野電気の柏氏は、「想定される陸上からの船舶の制御に、無線通信の能力が追いついていないのが現状である」との見方を示しました。いずれも第一線の専門家だけに「登るべき山の険しさ」をよく知りつつも、実現への希望をにじませたコメントが聞かれるディスカッションでした。

講演者の集合写真

左からトング氏、新井氏、柏氏、吉田氏、ムーラ氏

日欧産業協力センターのムーラ氏は、今回のセミナーについて「陸上における自動運転や、航空分野での飛行機の航法支援などに加え、航海の分野でもGNSS利用と日欧協力をさぐる目的で開催した」とした上で、「今後も多様なステークホルダーを集めた活発な意見交換の場を提供し、産業協力の機会をつくっていきたい」としています。

(取材/文:喜多充成・科学技術ライター)

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