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SeptentrioがCLASの検証結果や活用事例を紹介するセミナー開催

2022年05月23日

ベルギーのセプテントリオ社(Septentrio N.V.)の日本法人が5月12日、みちびきのCLAS(センチメータ級測位補強サービス)に関する検証結果や対応製品、活用事例などを紹介するセミナーをオンラインで開催しました。当日は、カントリーマネージャー兼セールスマネージャーのヤン・デターク(Jan De Turck)氏のほか、同社のCLAS対応製品を活用しているゲストスピーカー三氏が登壇し、講演を行いました。

RTKとCLASの違いは?

── 東京海洋大学 久保信明教授

海洋大の久保教授

最初に登壇した東京海洋大学の久保信明教授は、RTK測位(Realtime Kinematic, 固定点の補正データを移動局に送信してリアルタイムで位置を測定する方式)とみちびきのCLASを比較して検証した結果を発表しました。久保教授は、東京海洋大学の屋上において静止状態での測位結果を紹介し、CLASとPPP(Precise Point Positioning, 高精度単独測位)、RTK、SLAS(サブメータ級測位補強サービス)の4つの検証結果を比べた上で、CLASは都内で水平のRMS(二乗平均平方根)で2cm未満の状態が続いていると語りました。

久保教授の講演資料より

東京から栃木までの移動で取得したログ(久保教授の講演資料より)

高速道路で東京から栃木へ移動する際のログをRTKと比較した場合、CLASは10cmを超えるミスFIXが少なく、FIX率もRTKの94.5%に対してCLASは79.5%と約15%の差にとどまりました。また、建設現場においてCLASとPPP、RTKの3方式による測位を比較したところ、誤差とFIX率いずれについても、CLASから非常に良好な結果が得られました。さらに、東京海洋大学周辺の道路を走行した結果ではFIX率は70%前後となり、IMUと車速情報を組み合わせることで常に1.5m未満の精度を容易に実現できるとしました。
「CLASは基準局が不要という大きなメリットがあり、コストも下がってきました。オープンスカイ環境では、RTKとCLASの誤差にあまり差がなくなっており、今後もCLASとPPPには注目していくべきと考えています」(久保教授)

CLASとRTKの共存

── Septentrio日本法人 ヤン・デターク氏

Septentrioのヤン氏

続いてSeptentrio日本法人のヤン・デターク氏が登壇しました。デターク氏は、CLASは郊外や都市部ではIMU(Inertial Measurement Unit, 慣性計測装置)との組み合わせが必要となるが、オープンスカイや農村地域であればCLASの誤差はRTKとほぼ遜色がないとして、CLASとRTKを組み合わせたシステムの事例を提案しました。

ヤン氏の講演資料より

CLAS受信機を搭載した移動型ローカルベース(ヤン氏の講演資料より)

軽トラックにCLAS受信機を搭載した移動型ローカルベース(基地局)で、作業エリアに駐車した軽トラックを、FIX解が得られたらベース局モードに切り替えてRTKの基地局として使用します。これにより座標の基準としてCLASを使用し、それ以外はRTKの性能をそのまま利用することが可能となり、携帯圏外のエリアでもRTK測位が可能となってランニングコストが不要となります。

また、既存のRTKシステムにCLASの補正データを使用するシステム事例も紹介しました。RTK測位の途中で通信環境が悪くなった時、一時的にCLASの補正データにシームレスに切り替えてバックアップとして使う方式です。このほか、CLAS対応受信機で生成される補正データを使い、既存のRTK受信機によりCLAS測位を行えるようにするシステムも提案しました。

同社のCLAS対応製品には、オールインワン・モジュール「mosaic-CLAS」、方位とCLAS測位を同時に行うことが出来るボード型受信機「AsteRx-m3 CLAS」、筐体型受信機「AsteRx-U CLAS」があり、間もなく筐体型受信機の新製品「AsteRx SB3 CLAS」が発売されます。今夏には「AsteRx-U」の後継機である「AsteRx-U3」(WiFi/BT、LTEモデム、UHF無線が搭載)も発売される予定です。

スマート農業実験

── 岩城農場 岩城善広氏

岩城農場の岩城氏

ゲストスピーカーの2人目は、栃木県大田原市で農場を経営する岩城善広氏です。岩城農場では、SeptentrioのCLAS対応レシーバー「mosaic-CLAS」とCLAS対応アンテナをトラクターに取り付けてスマート農業の実験を行いました。

岩城氏の講演資料より

農業用ガイダンスで代かきを行っている様子(岩城氏の講演資料より)

同農場では以前から、農業用ガイダンスとしてAndroidアプリ「AgriBus-NAVI」を使用しており、入力した測位データで作業エリアを塗りつぶして表示する機能を使って、効率的に作業を行うことができます。今回の実験では、mosaic-CLASで測位した位置情報をBluetoothでタブレットに送信することでFIX率が100%となり、RTKと比較しても遜色のない精度が得られました。

岩城氏は、これまで位置情報の取得にRTKを使っていましたが、基準局が上手く動かなかったり、農作業の途中でモバイルルーターのバッテリーがなくなったりと、RTK基準局を使うことで起きるさまざまなトラブルに悩まされていました。CLAS対応受信機を使うことで、基準局が不要となり、構成がシンプルになり、設定がしやすくなりました。

スマート農業では農機の自動操舵が注目されていますが、岩城氏によれば、CLASと農業用ガイダンスを使って手動運転を行うだけでも十分に作業を効率化できるとのことです。小型で消費電力も少ないmosaic-CLASは、移設して複数の農機で活用でき、利便性にも優れています。
「CLAS対応受信機を、アンテナとBluetoothモジュール込みで10万円以下にしていただければ、農業の分野でも普及していくと思います」(岩城氏)

車間距離計測におけるCLAS活用

── バイオスシステム 安田勲氏

バイオスシステムの安田氏

最後に、株式会社バイオスシステムでアシスタントマネージャを務める安田勲氏(ソフトウェア部 係長)が、SeptentrioのCLAS対応受信モジュールを使った車間距離計「VGVS-SP8Ci」による自動車メーカー向け性能評価システムを紹介しました。このシステムでは、最大5台の車両に距離計を搭載でき、複数台で隊列を組んで走行している時の車間距離も測定できます。それにより、自動運転やADAS(Advanced Driver-Assistance Systems, 先進運転支援システム)を評価することも可能です。

安田氏の講演資料より

CLAS車間距離計 VGVS-SP8Ci(安田氏の講演資料より)

CLAS車間距離計の本体と、車両間でデータを交換するための無線機器、データを収録するためのパソコンを、試験車両とターゲット車両にそれぞれ搭載して運用します。パソコン上では専用ソフトウェアを使って、計測中の車間距離のリアルタイムデータを確認でき、計測結果値とグラフ、走行軌跡の表示なども行えます。

CLAS測位においては車間距離精度が2.5cm、速度精度0.1km/hのリアルタイム計測が可能で、RTKと異なり固定基地局が不要となるため、試験エリアの制約を受けず、テストコース外での試験実施や、長距離の車間距離計測も可能となります。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

※このセミナーの模様は下記にて録画再生により視聴できます(要連絡先登録)

※本文中の画像・図版は、当日のセミナー画面より引用しました(提供:Septentrio N.V.)

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