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新宿山吹高校で「みちびき」を題材とした授業を実施

2020年05月25日

東京都立新宿山吹高等学校は、単位制・無学年で授業を行う高校です。昼夜間定時制課程と通信制課程があり、定時制には普通科と情報科の2学科が設けられています。同校は2017年4月、全国で10校のうちの1校として、文部科学省のスーパー・プロフェッショナル・ハイスクール事業(以下、SPH事業)の指定校となりました。

東京都立新宿山吹高等学校

SPH事業は「大学・研究機関・企業等との連携を強化し、高度な知識・技能を身に付けた専門的職業人の育成を図る」ことを目的としたもので、同校では昼夜間定時制の情報科において、「使命と情熱 (職業観・社会性・主体性)」「確かな技術力(知識・技能)」「問題解決能力(思考力・判断力・表現力)」の3要素を備えた、情報のプロフェッショナルを育成するプログラムに取り組んでいます。そして3年間のSPH事業の最終年度にあたる昨年度(2019年度)、みちびきを題材とした教育プログラムを実施しました。

ドローンの授業をきっかけに、みちびきへ

同校のSPH事業に立ち上げから関わる藤田豊副校長に、みちびきをテーマに取り上げたきっかけを伺いました。

藤田副校長

藤田副校長

「生徒も教員も毎年新しい試行錯誤をしながら授業を組み立て、学びの場を作ろうとしています。SPH事業では多岐にわたるテーマを扱いますが、その一つにドローンを題材とした課外活動がありました。最初は操作・操縦から入りましたが、しだいに異常検知や自動制御など、情報科らしい視点でドローンを動かす仕組みを学びました。2年目には生徒がパイソン(python、汎用プログラミング言語)で書いたプログラムにより自動制御で教室間を飛び、カメラで人物を識別するデモを行いました。それをさらに発展させたいと考えていた時、測位衛星みちびきの存在と高精度測位の可能性を知りました」(藤田副校長)

和田教諭

和田教諭

こうしてみちびきをテーマにした授業を組み立てることになったといいます。授業は、情報科の和田祐二教諭が主導して行いました。

「実は、最初はGPSとみちびきの区別がつきませんでした。そして自分が理解していく中で、宇宙技術の先端分野に日本がしっかり関わっていることにロマンを感じました。この感激はきっと生徒にも伝わるし、生徒のやる気に火をつけるテーマにもなると思い、課題研究IIのテーマをみちびきに決め、通年の授業を企画しました」(和田教諭)

移動経路を地図上にプロットするシステムを構築

当初は、山野をめぐるオリエンテーリングを楽しむシステムを構築し、GNSSを活用してチェックポイントをクリアする Andoroidアプリを作成するという予定の企画でしたが、リソースの関係から方針を変更しました。
その結果、ITやGIS(地理情報システム)、衛星測位に関わる第一線の専門家による連続講義として、衛星測位では、みちびきの利用拡大を担当している準天頂衛星システムサービス株式会社(QSS)から2名の講師を招いて講義を行いました。

第一線の専門家による連続講義の様子

第一線の専門家による連続講義の様子

講義は、1)衛星測位の全般説明、QZSS概要及び利活用事例紹介、2)QZSSの高精度測位の体験学習、の2項目。測位の体験学習では、実際にみちびき対応測位モジュール「QZ1」で、測位結果(L1S)を抽出する測位体験をしてもらいました。

屋外で受信機を持ち、測位を体験

高精度測位の体験学習

実際に手に取って操作を覚える

まず受信機の仕組みから説明

左側が小型GNSS受信機「QZ1」

小型GNSS受信機「QZ1」(左)

熱心に聞き入る生徒たち

説明に熱心に聞き入る

また、この連続講義で学んだ知識を踏まえて、ワンボードマイコンを使って測位データを扱う実習をメインとした授業も行いました。そして、みちびきの信号にも対応したソニーのシングルボードコンピュータ「Spresense」を教材として、本体のGNSSアンテナ・受信機で受信した測位データ(NMEA形式)をLTEネットワーク経由で送信し、地図上に移動経路をプロットするシステムを、生徒自身の手で完成させました。
年度末までに成果発表会を行い、GIS関連のハッカソンイベントへの参加も検討していましたが、それは感染症拡大防止策の影響で中止となってしまいました。

時代の動きを継続して授業に取り込みたい

永浜裕之校長は、今回の企画は、第一線の専門家の方々の手助けがなければ到底、実現しなかったと謝意を表しつつ、次のように話してくれました。

永浜校長

永浜校長

「当校はインターネット黎明期に常時接続回線の指定校(100校プロジェクト)となり、学校でのインターネット活用の取り組みを早くから行ってきた歴史があります。情報科の教員は、時代の流れに即した幅広いテーマに目配りして授業に取り込んでおり、それがしんどさである半面、面白さにもなっています。今後も同様の取り組みを続けていきたいと思います」(永浜校長)

左から藤田副校長、和田教諭、永浜校長

左から藤田副校長、和田教諭、永浜校長

同校の教育方針と、文科省SPH事業への3年間の取り組みが、みちびきの打ち上げやサービス開始の時期にシンクロしたことで、時代の流れに合ったタイムリーな授業につながった事例となりました。

(取材・文/喜多充成・科学技術ライター)

※ヘッダ及び本文画像提供:東京都立新宿山吹高等学校

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