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「海のGEONET」研究チームが足摺岬沖で海底局3基を設置 [前編]

2017年07月30日

GNSS技術を応用して海底地殻変動の連続観測を目指す、東京大学地震研究所の加藤照之教授を中心とする研究グループはこのほど、今後の研究開発の要となる音響測距海底局(トランスポンダ)3基を、高知県の足摺岬沖南東約40kmの研究海域に設置しました。6月上旬に行われた設置作業の様子を2回に分けてレポートします。

GNSS連続観測網の海洋版「海のGEONET」

海底地殻変動の観測については、海上保安庁海洋情報部が測量船を使って定期的に実施しているほか、東北大学や名古屋大学のグループも研究開発を実施しており、3機関の観測成果は地震の調査研究に役立てられています。一方、今回の研究プロジェクトは、「連続観測」と掲げるとおり、これまでの手法による観測頻度を飛躍的に上げることを目的の一つとしています。

加藤教授は、国土地理院が整備した全国約1300点の電子基準点によるGNSS連続観測網「GEONET」を「地震学に革命的な成果をもたらした」と評価、そのような観測網を海洋にも展開しようと、このプロジェクトを「海のGEONET」と呼んでいます。
実現に向けての鍵となるのは洋上の観測プラットフォームです。研究プロジェクトは、すでに実績ある「GNSS津波計」に超音波測距の機能を付加し、GNSS~ブイ~海底局の位置関係を連続的に取得することで、海底地殻の動きの把握を目指しています。

国立弓削商船高専の練習船「弓削丸」

練習船「弓削丸」

6月4日、練習船「弓削丸」に集合

6月4日、研究プロジェクトの重要な節目となる「トランスポンダの設置作業」を行うため、研究メンバーが国立弓削商船高専の練習船「弓削丸」に集合。システムの海中部分は名古屋大学環境学研究科の田所敬一准教授(地震火山研究センター)のグループが担当します。

弓削丸に集合した研究メンバー

(左から)名古屋大学環境学研究科・水野貴斗氏(学部生)、同・稲垣駿氏(大学院生)、国立弓削商船高専・二村彰准教授、高知高専・寺田幸博客員教授、名古屋大学・田所敬一准教授、東京大学地震研究所・加藤照之教授、名古屋大学・衣笠菜月研究員

海底に設置されるトランスポンダ3基は、それぞれに異なるコードが割り振られ、自分あての呼びかけにのみ応答します。約5年間の運用に耐える大容量のバッテリーを搭載しています。

トランスポンダ3基(左)と測位の概要図(右)

トランスポンダ3基(右の概要図は、名古屋大学・田所准教授作成原図による東大地震研作成の記者発表資料より)

出港前夜。「弓削丸」船内のレクチャールームで亀井栄治船長(国立弓削商船高専 商船学科 准教授)を交えて今後のスケジュールを確認しました。

レクチャールームに集まったスタッフ

レクチャールームに集まったスタッフ。左から3人目が亀井船長

6月5日、出港。土佐清水市のあしずり港を出るとしばらくイルカの群れが並走してきました。

並走するイルカの群れ

並走するイルカの群れ

約2時間弱で研究海域に到着。観測プラットフォームとなるブイの名称は「黒牧18号」。漁業振興を目的に高知県が2008年度に設置したものです。

観測プラットフォームとなるブイ「黒潮牧場18号」

黒潮牧場18号ブイ(研究海域を示す地図は、名古屋大地震火山研究センター作成の航海計画書より)

6月5日、トランスポンダ3基を設置

トランスポンダをクレーンで吊って左舷に振り出し、目的地点が近づくにつれ船速を落としながら海面に近づけます。亀井船長らの操船を確認しつつ、田所准教授がブリッジから無線で着水のタイミングを指示します。指示されたタイミングで加藤教授がリリースロープを引き、トランスポンダを投下。「半径20m程度」の的を目標に作業が進められました。

操船する亀井船長(中央)らと、無線で着水のタイミングを指示する田所准教授(右)

操船する亀井船長(中央)らと、無線で着水のタイミングを指示する田所准教授(右)

トランスポンダをクレーンで吊って左舷に振り出し(右)、船速を落として海面に接近(左)

トランスポンダをクレーンで吊って左舷に振り出し(右)、船速を落として海面に接近(左)

加藤教授がリリースロープを引き(右)、トランスポンダを投下(左)

加藤教授がリリースロープを引き(右)、トランスポンダを投下(左)

投下から約12分後に水深約790mに着底。動作確認も無事に終え、計画どおり黒潮牧場18号ブイ(下図中央の赤×印)を取り囲む1辺約1400mの正三角形の3つの頂点に、トランスポンダ3基(下図11/12/13の赤丸印)の配置を完了しました。

作業を終え、笑顔を見せるスタッフ(右図は、名古屋大学作成の航海計画書より)

海底局の設置完了を受け、研究代表者である東京大学地震研究所の加藤照之教授は、以下のようにコメントしました。

東京大学地震研究所の加藤教授

「今回の設置完了でプロジェクトは大きな一歩を踏み出すことになりました。一方で、海上のブイを総合防災プラットフォームとして長期間にわたり維持することは、依然として困難なチャレンジです。風雨と波浪にさらされる海上でのブイの運用は、ある意味で人工衛星より過酷であり、そこでの技術的課題の洗い出しも重要なテーマであると考えています。
また衛星測位に関しては、ブイの精密単独測位においてマルチGNSS環境が大きな助けとなっており、ここでの技術検証の結果を発信していくことも重要と考えています。フィリピン、台湾、インドネシアなど、津波防災に関心を持つ国々も多く、日本だけでなくアジア・西太平洋域の防災インフラとしての展開を目標に研究開発を進めていきます」(以下、後編に続く)

(取材/文:喜多充成・科学技術ライター)

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※本研究プロジェクトは、文部科学省科学研究費補助金・基盤研究(S)16H06310により進められています。

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