コンテンツです

神奈川県衛星データ活用セミナーにてみちびきに関する講演

2026年10月13日

2026年8月25日、横浜市みなとみらいにある技術系スタートアップの成長支援拠点「TECH HUB YOKOHAMA」にて「神奈川県衛星データ活用セミナー」(主催:神奈川県)が開催されました。このセミナーは、衛星データの活用に興味のある企業や自治体に対して、先行事例をもとに導入プロセスや活用のポイントを学ぶ機会を提供するもので、7~10月の4カ月間に計4回(基礎編2回、実践編2回)が実施されます。この日行われたのは基礎編の第2回「先行事例から学ぶ衛星データ導入・活用の実際」であり、前半に登壇した2人の講師がみちびきの概要や活用事例を紹介しました。

樋口氏

開催にあたり、主催者である神奈川県の樋口智哉氏(産業労働局 産業部 産業振興課 宇宙産業支援グループ 主任主事)が、県内企業の衛星データ利活用を推進する施策を昨年度から開始していると伝え、「本日のセミナーが皆さまの事業において衛星データ利活用に取り組むきっかけとなり、今後の発展に役立つことを願います」と挨拶しました。

小峰参与

基調講演は内閣府の小峰晃彬参与(宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室)が、「準天頂衛星システム「みちびき」の概要とビジネス活用」と題して、政府が行う宇宙産業への支援の取り組みと、みちびきの概要について解説しました。
小峰参与はまず、日本の宇宙政策の体制や宇宙基本計画の概要、宇宙戦略基金による支援の取り組み、今年春に行われた宇宙開発利用大賞の表彰式の模様などを紹介しました。日本では近年100社以上の宇宙スタートアップが設立されており、2025年のスタートアップ従業員数の増加率も全産業の中で宇宙産業が1位で、活気のある宇宙産業の競争力強化のため宇宙戦略基金などの支援が行われていると説明しました。

講演スライド-1

みちびきについては、8月11日に行われたみちびき7号機打上げライブ中継映像を上映し、7号機は打上げ後、所定の軌道(準静止軌道)に遷移して各種試験を実施中であり、2027年2~3月頃を目途とする正式運用開始に向けて準備を進めていると報告しました。今後は他国のシステムに頼らずにみちびきのみでサービスを提供できる7機体制の早期構築を目標とし、将来はバックアップ強化とエリア拡大のため11機体制を目指していると展望を述べました。

講演風景-1

みちびきは、基本となる衛星測位サービスのほか、CLAS(センチメータ級測位補強サービス)やMADOCA -PPP(高精度測位補強サービス)、SLAS(サブメータ級測位補強サービス)などの測位補強サービス、災危通報(災害・危機管理通報サービス)などのメッセージサービスを提供しています。これらの利活用では、現在、対応受信機の小型軽量化や低価格化が進んでおり、自動車やドローン、農業、海洋、インフラなど様々な分野において活用されているとして、それぞれの事例を紹介しました。
また、みちびきが提供する正確な時刻情報が、電力や情報通信、金融など重要インフラの広域ネットワークに活用されている点も解説しました。

講演スライド-2
講演スライド-3

小峰参与は最後に、みちびきを誰もが利用できる環境はすでに整っており、新しいビジネスや社会課題解決に活かしてほしいと参加者に呼びかけて講演を締めくくりました。

講演スライド-4
岸氏

「みちびき活用企業に聞く、衛星データ利活用のリアル」と題したトークセッションに登壇した株式会社Rootの岸圭介氏(代表取締役)は、AR(拡張現実)作業補助アプリにみちびきの高精度位置情報を活用する取り組みを説明しました。神奈川県南足柄市を本拠としてAR技術を活用したアプリを開発する岸氏は、農業向け「Agri-AR」や、農業以外(建築・森林・防災など)分野向け「Work-AR」などのアプリサービスを提供しています。

講演スライド-5

このアプリはスマートフォンとスマートグラスのどちらでも利用可能で、圃場の映像の上に平行直線ガイドを表示できるほか、畝(うね)の位置を決めるためのシミュレーションや距離・面積・体積の計測、作物のサイズ計測、テキストや画像などの配置、2D図面と3Dモデルの重ね合わせなどの機能も備えています。

講演スライド-6
講演スライド-7

スマートフォンやスマートグラスの位置情報だけでアプリを使用すると、不要な回転や揺れ、オブジェクトの位置ズレや浮遊(ドリフト)を生じるケースがありますが、みちびきのCLASなどの高精度位置情報を活用することで、こうした課題を克服し、圃場に誤差数cmの精度でオブジェクトをAR表示することが可能になります。

講演スライド-8
講演スライド-9

岸氏はこの技術を活用して、AR作業補助アプリにCLASやMADOCA-PPPの測位機能を連携し、スマートフォンやスマートグラスの画面上に、海洋上で取得する各種環境データや、養殖業者が設置する支柱の位置、危険区域・各種領域、調査船の航路などを表示させる実証事業に取り組みました。一般的に揺れや移動が多い海洋上ではAR利用は不利と言われますが、岸氏はみちびきの高精度測位を活用することで、高精度なオブジェクトのAR表示を可能にしたと説明します。

講演風景-2

このARにおける揺れ等の課題克服により、ARガイドを車や農機に取り付けたデバイスでも利用できるようになり、Root社は今年度、神奈川県による宇宙関連事業の支援プロジェクト「神奈川県衛星データ利活用プロジェクト」に採択され、資源収集・ゴミ回収作業の作業効率化を支援するARアプリの開発を、株式会社共益商会、株式会社永野紙興と共同で行っています。その他、熊対策訓練アプリや木造検知3Dモデルの設計・施工の支援アプリ、観光地におけるARガイドコンテンツなど様々なプロジェクトにも取り組んでいます。

みちびき関連の講演の終了後には質疑応答が行われ、岸氏にはスマートグラスの対応機種やARアプリの海外での利用可否などの質問が、また、内閣府に対しては、CLASにおいてセンチメータ級の測位が可能になる条件や、今後の精度向上の可能性に関する質問が寄せられました。

トークセッション後半は「昨年度採択企業に聞く、衛星データ事業化への道」と題して、昨年度の「神奈川県衛星データ利活用プロジェクト」採択企業のうち2社による事例紹介が行われました。

講演風景-3 糸井氏

AIによる衛星データ解析を専門とするスタートアップ企業、株式会社スペースシフトの糸井紀貴氏(セールスエキスパート)は、神奈川県内の中山間地域の自治体において光学衛星およびSAR(合成開口レーダー)衛星の観測データをAIで解析し、遊休農地を判定する取り組みについて発表しました。

講演風景-4 増田氏

また、ソフトウェア開発やデータ分析、AI関連事業を手がける株式会社ゼンクの増田芳憲氏(代表取締役)は、衛星データや市場価格データ、気象データなどをもとにAIを活用した野菜価格の予測への取り組みを発表しました。

QZ1(左)とQZ1 LE(右)

会場にはみちびきのSLAS対応受信機「QZ1」と「QZ1 LE」も展示されました。セミナー終了後は名刺交換会も行われ、盛況のうちにセミナーは終了しました。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

参照サイト

関連記事