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「海のGEONET」研究チームが足摺岬沖で海底局3基を設置 [後編]

2017年07月31日

前回に引き続き、海底地殻変動の連続観測を目標に、GNSS技術を応用した「海のGEONET」の研究開発に取り組む、東京大学地震研究所の加藤照之教授を中心とする研究グループの研究航海レポートをお届けします。

6月6日、CTD観測と音響測距を実施

6月5日の海底局設置に続き、翌6日には「CTD観測」と「音響測距」の作業を並行して実施しました。CTD観測とは海水の電気伝導度(Conductivity=塩分濃度の指標)、水温(Temperature)、水深(Depth=水圧から換算)のデータを連続的に取得するもので、これらのデータをもとに海中での音速を推定します。

今回の観測では、航行しながらセンサを投下、回収してデータを読み出し再使用する米国・オーシャンサイエンス社のUnderway CTD(UCTD)システムを使用しました。下の写真は、2分割してケースに収められたセンサです。砲弾型のセンサ本体と、テール部分で構成されます。弓削丸の後部デッキにウインチを固定して、このセンサを回収します。

ケースに収められたUCTDシステム(左)と後部デッキにウインチを固定する作業(右)

ケースに収められたUCTDシステム(左)と後部デッキにウインチを固定する作業(右)

ウインチの固定作業に続いて、センサ投下(キャスティング)に向け、センサのテール部にテグスを巻き付ける「リワインド」と呼ばれる準備作業を行います。完了したところでセンサ本体とテール部を一体化し、キャスト(海中への投下)に備えます。

「リワインド」と呼ばれる準備作業(左)を経て、センサ本体とテール部を一体化(右)

「リワインド」と呼ばれる準備作業(左)を経て、センサ本体とテール部を一体化(右)

1)ブリッジから無線の指示を受けてキャスト(投下)。2)センサは海中を自由落下しながら計測を行い、3)所定の水深に達したところでウインチでの巻き取りを開始します。4)船体に当たらないよう注意しながらセンサを揚収。5)センサ本体は船上でPCとBluetooth接続し観測データを吸い出します。6)テール部に再びテグスをリワインドして次のキャストに備える、という作業を繰り返します。揺れる船上での作業となるので、ヘルメット、ライフベスト、安全帯などの装備も欠かせません。

キャスティングの様子。揺れる船上作業なので安全装備も欠かせない

キャスティングの様子。揺れる船上作業なので安全装備も欠かせない

下の写真は右舷に取り付けられたトランスデューサーと、その先端部分(=航行時は引き揚げて船体に固定)です。ここから発する超音波の測距信号を受信した海底局は、一定時間後に海面に向け信号を打ち返します。これを記録し、信号を解析して往復の時間を精密に求めます。
時間×速度(=CTD観測から推測)で、トランスデューサーから海底局までの距離を求めるのが、音響測距の原理です。研究海域に到着後、支柱を降ろして先端のトランスデューサーを海中に浸け、音響測距を開始します。3基の海底局は固有の識別コードを有しており、トランスデューサーはコードを変えながら順番に呼びかけを行います。

右舷のトランスデューサー(左)と、その先端部分(右)

右舷のトランスデューサー(左)と、その先端部分(右)

ブリッジに設置された観測機器

ブリッジに設置された観測機器は、大きく3つのシステムに分けられます。まず一つ目がGNSS受信機です。アンテナはマスト頂部に設置します。メインとサブの2系統が用意され、0.2秒ごと(5Hz)の測位データを記録します。

2系統用意されたGNSS受信機(左)とマスト頂部に取り付けられたアンテナ(右)

2系統用意されたGNSS受信機(左)とマスト頂部に取り付けられたアンテナ(右)

2つ目が姿勢計測装置(光ファイバージャイロコンパス)で、同じく5Hzでデータを記録します。独立したGPS受信機を備え、コード測位による位置情報とGPS時を併せて記録。GNSSアンテナとトランスデューサー先端位置は、事前に測量を行い相対位置が分かっているので、ある時刻におけるGNSSと姿勢の情報を統合することで、トランスデューサーの絶対位置が決まります。

姿勢計測装置(光ファイバージャイロコンパス)

姿勢計測装置(光ファイバージャイロコンパス)

そして3つ目が音響測距システム本体。測距には15kHzの超音波が用いられ、測距信号の発信(ショット)は約8秒間隔で行われます。水中マイクで記録された“録音データ”から、海中での反響(マルチパス)やノイズと、海底局からの打ち返しを分離し、補正された音速を使って、正確な距離を求めます。

音響測距システム本体

音響測距システム本体

1日約1500ショットの音響測距

研究海域ではまず半径0.65マイルの円周上を、時計回りと反時計回りで航走しながら、音響測距を実施します。回転方向を変えるのは、右舷に取り付けられたトランスデューサーとマスト頂部のGNSSアンテナの位置関係から生じる誤差をキャンセルするためです。

併せて、海中音速推定のためのUCTD観測を円周上の東西南北4点で実施し、続いて120度間隔の3つの直径上を航走しながらの測距も行いました。1日で約1500ショットの音響測距が行われデータが取得されました。

ブリッジから見た黒潮牧場18号ブイ(左)と研究海域の詳細図(右、名古屋大学作成の観測計画書より引用)。中央の×印がブイ位置、赤丸が海底局。青の円周と点線の上を航走しながら測距する

ブリッジから見た黒潮牧場18号ブイ(左)と研究海域の詳細図(右、名古屋大学作成の観測計画書より引用)。中央の×印がブイ位置、赤丸が海底局。青の円周と点線の上を航走しながら測距する

UCTD観測のデータから海中の音速分布を推定し、可視化したものが下の資料です。水温などの違いによって、音速の速い赤い部分と、遅い青い部分が層状に分布しています。海中の音速は決して一様ではないことが分かります。

観測データを確認する名古屋大学の田所敬一准教授(左)と国立弓削商船高専の二村彰准教授(右)。右の資料は、海中の音速分布を推定し、可視化したもの

観測データを確認する名古屋大学の田所敬一准教授(左)と国立弓削商船高専の二村彰准教授(右)。右の資料は、海中の音速分布を推定し、可視化したもの

研究チームの衣笠菜月氏(名古屋大学 研究員)は、横浜国立大学でGNSS研究に関わった経験も踏まえ、「音響測距による海底局の位置決定は、複数点までの距離から位置を求めるという点では、GNSSを水面を境にちょうど反転したような関係にあります。ただ、GNSSでは光速(電波の速度)は一定ですが、水中では音速の変動が大きく、音速そのものが変数になってしまう点に難しさがあると感じています」と解説してくれました。

名古屋大学の衣笠研究員(左)と学部生の水野貴斗氏(右)。右図は、名古屋大学・田所准教授の原図による東京大学地震研究所の記者発表資料を引用

名古屋大学の衣笠研究員(左)と学部生の水野貴斗氏(右)。右図は、名古屋大学・田所准教授の原図による東京大学地震研究所の記者発表資料を引用

2日目の研究航海を終えた名古屋大学の田所准教授は、次のように話しました。
「音響測距では、海底局と船との距離を一定の範囲に収めたいという理由で、円周上と対角線上で計測を行いました。船速2.5ノットと非常に遅いスピードでの航行をお願いしましたが、遅いと舵が効きにくく、海流や風に流されやすくなります。そうした悪条件の中でも、亀井船長始めクルーの見事な操船技術のおかげで、ねらい通りのデータが取得できました。感謝しています」

研究グループでは今後、今回取得したデータを解析して3基の海底局の座標を確定し、連続観測の基準と海底基準局の座標を決めることにしています。

研究代表者である加藤教授のフィールドノート

研究代表者である加藤教授のフィールドノート

(取材/文:喜多充成・科学技術ライター)

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※本研究プロジェクトは、文部科学省科学研究費補助金・基盤研究(S)16H06310により進められています。