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千葉県、キョン防除対策にGPS首輪発信機を導入。生態解明を進める

2018年05月07日

「キョン」という小型のシカの仲間をご存知でしょうか。ある世代の人ならば、「八丈島の?」と反応するかもしれません。もともとは中国南東部及び台湾に生息していて、日本の在来種ではない生物です。体重はおとなでも9~10kg程度と小さく、中型犬くらいの大きさです。オスには角がありますが短く、おとなしそうで可愛らしく見えます。
ところが、このキョンが実は今では脅威となっています。1980年代までに動物園で飼育、鑑賞するために持ち込まれたキョンですが、千葉県勝浦市にあった民間動物園から逃げ出し、今では野生化してしまいました。現在では、勝浦市に隣接するいすみ市、鴨川市を始め周辺の地域へと拡大しています。

キョン

キョン(画像提供:千葉県環境生活部)

見た目は小さくて可愛らしくても、キョンは繁殖力が強くあっというまに生息数が増え、在来のニホンジカより良質な食物を食べる生物です。千葉県は2009年から特定外来生物であるキョンの防除計画を策定して対策を行っていますが、野菜や稲、大豆、イチゴ、花壇の花まで食べるキョンの害は広がっています。

千葉県には、推定で5万頭近くが生息

そこで、2017、18年は捕獲したキョンの個体に位置情報を取得する首輪を取り付け、より詳しい生態を調査する取り組みが始まっています。千葉県環境生活部自然保護課の千村寧さんに、GPS首輪を使ったキョンの調査について伺いました。

千葉県環境生活部の千村さん

千葉県環境生活部の千村さん

── 現在、千葉県にはどこにどのくらいのキョンがいるのでしょうか?
「推定生息数は、平成27(2015)年度でおよそ4万9500頭です。直近で生息地域に大きな変化はないのですが、目撃例からすると少しずつ生息地域が広がりつつあるのではないかと考えられています。南房総市や富津市でも捕獲例があります」

── キョンは繁殖力が強いと聞いていますが、どのくらい増えるのですか?
「5~10月が出産のピークですが、1年を通して出産していることが分かっています」

── 防除の対策はどのように行うのでしょうか?
「市町村や県が主体となって捕獲を行います。キョンは特定外来生物ですので1年を通じて捕獲許可を出しており、平成28(2016)年度は2400頭の捕獲実績がありました。捕獲方法は主にわなですが、“くくりわな”というワイヤーで動物の足を捕えるタイプのわなを使用します。箱型わなを利用することもあります」

── GPS首輪による生態調査はどのような目的で行われるのでしょうか?
「キョンの生態にはまだ分からない部分が多くありますので、解明を進めたいと考えています。GPS首輪を使うと、キョンがどのように移動し生活しているのか、行動様式が分かります。1日の中で、朝はどこにいて、夜はどこに移動するのか、また季節ごとにどこで生活しているのか。そこから何を食べているか推測することもできますし、わなをどこに仕掛ければ効果的か、といったことも分かります」

キョン

キョン(画像提供:千葉県環境生活部)

── これまで、GPS首輪の取り付けは何頭に行われたのですか?
「これまで装着した個体数は6頭です。うちオスが2頭、メスが4頭です。キョンの拡大を防ぐには、繁殖抑制のためメスを重点的に調べたいと考えていますので、メスを重点的に調査する目的があります。個体によって、短期(1カ月以内)の行動を調べるものと、1年にわたって長期の行動を調べるものと分かれています」

みちびきに対応した首輪発信器を取り付け

ここで使用されているGPS首輪は、国産の株式会社サーキットデザイン製「サル用GPS首輪発信器GLT-02」という製品です。製品カタログによると、サルやアライグマ用に開発されたもので、重量はおよそ250gほど。GNSS受信装置とバッテリーを内蔵し、完全防水となっています。対応する衛星測位は、みちびき、GPS、GLONASSの3システム(GPSモジュールはガリレオにも対応しているが、製品では有効になっていないとのこと)。

GPS首輪発信器 GLT-02

GLT-02(画像提供:千葉県環境生活部)

GLT-02の特徴は、衛星測位による位置情報を首輪内の記録装置に3000ポイント程度まで記録できること、そして位置情報をビーコンで発信できることです。1日8回測位を行い、ビーコンを3秒ずつ発信するパターンで、最大1年間の記録が可能。移動式の基地局を設置し、首輪に保存されたデータをダウンロードできます。位置情報の記録が終わった後は、スマートフォンやタブレットなどの端末を持って首輪と通信できる範囲(最大2km以内)に近づき、遠隔操作で首輪を脱落させて回収し、詳細なデータを入手できます。

衛星測位による行動ログというと、野生動物が棲んでいる山林の中では位置情報がどの程度まで捕捉できるのか気になります。サーキットデザイン社によれば、GPSのほかにみちびき、GLONASSに対応し、「衛星が多く捕捉でき、山林内・谷あいでも位置が測位できるポイントが明らかに増えました。みちびきは、日本上空にかならず1機あるため、GPS+1機で測位できます。やはり山林内・谷あいでは衛星が見えやすく、有利に働いています」とのこと。

行動調査の結果は、来年報告

千葉県では、このGPS首輪によるキョンの行動調査を続け、2019年には報告書に取りまとめるとしています。今後について、再び千村さんに伺いました。

── 生態を解明した上で、キョン防除のゴールはどこにあるのでしょうか。
「キョンは捕獲した後、止め刺しして埋めて処分する方法が一般的です。野生動物はその場に放置することが禁止されていますし、小型とはいえ10kgもある動物を山から降ろすのは大変です。捕獲を実施している皆さまには多大な労力をかけていただいています。あくまでも日本にいてはいけない生物ですから、根絶が目標です」

千葉県環境生活部の千村さん

千葉県環境生活部の千村さん

もとはといえば、観光施設での展示用に日本に持ち込まれたキョンですが、野生化して無視できないほど生息数が増えてしまっています。可愛いだけではすまされないその生態をGNSSの力を借りてしっかりと把握し、人間の手で責任を持って対策する必要に迫られています。

(取材/文:秋山文野・フリーランスライター)

※ヘッダ画像提供:千葉県環境生活部