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JAXA、SIPの農業技術関連セミナーで高精度測位の時短技術を発表

2017年03月31日

「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)次世代農林水産業創造技術」の生産システムコンソーシアムは3月14日、都内で「情報・通信・制御の連携機能を活用した新たな農業生産システムの構築を目指して」と題したフォーラムを開催しました。
このフォーラムは、農業に関わる新技術の社会実装を促すため、研究機関と企業などの関係者が密に情報交換を行う「マッチングフォーラム」との位置づけで行われ、農業機械の自動化や知能化に不可欠となる衛星測位技術についても関心が集まりました。

高精度視覚マーカーを利用した測位初期化の時間短縮技術

ここで行われたセミナーに国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の渡邊恵佑氏(第一宇宙技術部門 衛星測位システム技術ユニット 主任研究開発員)が登壇し、「高精度視覚マーカーを利用した測位初期化時間短縮技術」について講演しました。

JAXAの渡邊・主任研究開発員

JAXAの渡邊・主任研究開発員

渡邊氏が発表したのは、衛星測位の測位方式の一つであるPPP法(Precise Point Positioning、単独搬送波位相測位)において、従来は数十分を必要としていた高精度測位の開始までの時間(TTFF=Time To First Fix、初期化時間)を大幅に短縮する新技術です。

測量等で用いられるRTK法(Realtime Kinematic、固定点の補正データを移動局に送信してリアルタイムで位置を測定する方法)では基地局と移動局(ローバー)の2つの受信機とそれを結ぶネットワークが必要です。PPP法は単独でもそれとほぼ同等の精度を実現する手法ですが、初期測位に時間がかかるという欠点がありました。この問題を解消するため考えられた新手法は、ギリシャ神話でクレタ島の迷宮から脱出する手がかりとなった「アリアドネの糸」にちなみ、「ARIADNE(Accurate Reference marker based Initialization for AccelerateD Navigation parameter Estimation)」と名付けられています。概要は、次のようなものです。

  1. 高精度の視覚マーカーを設置し、その位置と向きを正確に求めておく。
  2. ローバーのカメラでマーカーを撮影する。
  3. 撮影画像をもとに、マーカーとローバー上のカメラの相対的位置関係を求める。
  4. マーカーとカメラの位置関係が分かれば、ローバー上に固定されたカメラとアンテナの位置関係は既知であるため、アンテナの位置が既知となる。
  5. 得られたアンテナ位置情報をもとに、PPP法による測位を開始する。

実験で用いられた高精度の視覚マーカーは、国立研究開発法人産業技術総合研究所(AIST)で開発された“LentiMark”と呼ばれるものです。

試作された高精度視覚マーカー

試作された高精度視覚マーカー。4隅の黒丸印の間隔などから約10m隔てて15mmの精度で距離を読み取ることが可能。マーカー面の傾きによって縞(モアレパターン)が動く。これによりマーカー面の傾きを0.1度の精度で読み取れる

原理としては、カマボコ状の凸レンズを複数並べた「レンチキュラーレンズ」を使い、レンズの背後に描かれた縞模様のモアレ(干渉)パターンを読み取ることで、マーカーのわずかな角度の変化を検出するというものです。ロボットの姿勢検知やAR(Augmented Reality、拡張現実)の高精度化などの応用が考えられていましたが、衛星測位の時間短縮という意外な応用例につながりました。

今回の実験のため、産業技術総合研究所や株式会社エンプラス(高精度レンズの製作)の協力により0.1度の角度変化を検出できる高精度マーカーを試作。渡邊氏はこの日のセミナーで、測位開始時間の大幅短縮を実時間の実験動画で紹介しました。

実験の模様

実験の模様

測位結果

測位結果

また、社会実装に際しては、定置の視覚マーカーが動いてしまう事態も想定されます。位置や向きの情報が確かかどうかを検証し、システム全体の精度を維持する手法も紹介され、関心を集めていました。

(取材/文:喜多充成:科学技術ライター)

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