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横浜国大・高橋名誉教授に聞く「スマホでみちびきを見る方法」

2017年05月22日

(2017年6月1日更新)
※情報内容を一部改訂しました。
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横浜国立大学の高橋冨士信氏はGNSS研究の一環として、都内の自宅や神奈川県内の同大学キャンパス・サテライトオフィスなど4か所でスマートフォンによるGNSSのモニタリングを行い、「スマホでみちびきを見よう!」と呼びかけています。なぜ「スマホでGNSS」なのか、横浜駅にほど近いサテライトオフィスに高橋氏を訪ね、その意義やハウツーを伺ってきました。

横浜国立大学の高橋冨士信氏

高橋冨士信氏:横浜国立大学大学院 未来情報通信医療社会基盤センター 名誉教授。旧・郵政省電波研究所(後に通信総合研究所を経て、現在の情報通信研究機構)がNASA(米国航空宇宙局)と1970年代から準備を始めた日米間VLBI実験の中核メンバーの一人。宇宙からの電波を観測したこの実験で「ハワイが日本に毎年数cmずつ近づいている」などの知見を初めて突き止めた

画面に衛星が見えると単純に「楽しい」

スマートフォンに測位機能があるのは皆さんもご存知でしょうが、ではどの測位衛星からの電波を、どの程度の強さでキャッチしているかまで把握している方はどの程度いらっしゃるでしょうか。測位演算がどのように行われているのか、そのプロセスまで立ち入って理解したいと思う人は少数派かもしれません。しかし高橋氏は、測位の結果だけでなくプロセスを、一般の人もある程度は知っておいたほうがいいし、その必要もある。そしてそれが容易にできるようになっているのだと言います。

「機種によって違いはありますが、GPSに加えGLONASS、BeidDou、Galileo、そしてみちびきなど、複数の測位衛星に対応しているスマートフォンがあり、衛星の受信状態をモニターするアプリも出回っています。それを使えば、測位信号を受信して、その衛星がどの方向にあるかを求め、天球上に配置して表示することができます」(高橋氏)

これが「スカイプロット」と呼ばれる画像で、あたかも衛星が目に見えているかのように表示してくれるものです。高橋氏は、研究上の必要はもちろん、まずこれが見えることを単純に「楽しい」のだと言います。

もともと高橋氏は、VLBI(=Very Long Baseline Interferometry、超長基線電波干渉法)という、宇宙からの微弱な電波をキャッチし、その受信データを解析する仕事に携わってきました。それには大型で高精度なアンテナや、高速で大容量の記録装置、性能の高いコンピュータなど、大掛かりな装置が必要でした。しかし今やスマートフォンで似たようなことができる時代になっています。高橋氏は、これは驚くべきことであり、スマートフォンを「手の中に入る電波望遠鏡」と呼んでもいいほどだと高く評価しています

「スカイプロットを見ると、今や日本上空にも、常に30機前後の測位衛星がいることが分かります。マルチGNSS時代の到来を象徴する図であり、各国の測位衛星がひしめき合う中で、天頂近くに陣取ったみちびきが、孤軍奮闘、がんばっているのも実感できます」(高橋氏)

スナップドラゴンで、みちびきが見える!?

日本でシェアの大きいApple社のiPhoneも、最新のiPhone 7で「みちびき対応」を表明しました。ただ残念なことに、受信状況をスカイプロットで見せてくれるiOSアプリは、高橋氏の知るかぎり見当たらないそうです。

一方、Androidスマホでは、スマホの心臓部であるSoC(=System on a Chip)で最大シェアを占めるクアルコム(Qualcomm)社の「スナップドラゴン(Snapdragon)」がマルチGNSS対応を進めています。最近発表されたスナップドラゴン835を搭載したサムソン(Samsung)やソニー、シャオミ(Xiaomi)などのハイエンド(高性能)機でみちびきを見ることができるのではと、期待が高まります。ちなみに高橋氏は、ここ2年ほどの間、SIMフリー機として販売されているASUSのZenFone 2(インテル社製SoC搭載)をメインで使ってきたそうです。

ただ、スカイプロットを表示するアプリは、見つけるのが大変です。アプリを検索する際、GPSやGNSSというキーワードを入力しても、表示される検索結果のほとんどが位置情報を記録するロガー(logger)と呼ばれるソフトであり、その中に埋もれてしまうからです。また、当ウェブサイトで紹介しているGNSS Viewも、似たような画像を表示しますが、どのように見えるかをシミュレーションするためのソフトであり、実際の受信状況を示しているわけではありません。

スカイプロットを表示できるアプリ

そこで今回は、高橋氏にスカイプロットが表示できるアプリのいくつかを紹介してもらいました。

左から1)AndroiTS GPS Test Free、2)u-center GPS evaluation App、3)GPS Test、4)LOCOSYS GPSFox App の画面イメージ

1)AndroiTS GPS Test Free
高橋氏がメインで使っているアプリです。スカイプロットとレベルプロット(衛星別の受信強度)が2つの画面を表示できます。表示が美しいこと、中でも衛星に国旗を乗せて表示できる点を評価しているそうです。

2)u-center GPS evaluation App
GNSS受信モジュールを作っているスイスのユーブロックス(u-blox)社が提供しているアプリ。これを使うことでスマホのGNSS受信性能を評価でき、屋内と屋外での受信レベルの変化もはっきりと分かります。

上記2つのほか、デザインが好みであれば 3)GPS Testや、台湾製のようですがメニューが日本語にも対応している 4)LOCOSYS GPSFox App といったアプリもあるそうです。

宇宙で頑張るみちびきの電波を直接見てほしい

高橋氏の経験では、木造家屋の南向きの部屋ならば、屋外に比べてもあまり大きく受信感度は低下しなかったとのこと。高橋氏は、都内と神奈川県内の4拠点でスマートフォンを常時稼働し、受信状態を常にモニターできるよう、その画面をパソコンに表示させ、さらにパソコンの画面を遠隔地からモニターするというシステムを、フリーソフトだけで構築しています。

「昭和の頃は、奮発して買った天体望遠鏡で、親子でベランダから星を眺める家庭が多くあったように思います。ホンモノの天体を見ることが、科学や技術に興味を持つきっかけになったという方も多かったのではないでしょうか」(高橋氏)

家庭で電波望遠鏡を持つのはさすがにムリでしょうが、今の時代であれば、スマートフォンで測位衛星の出す電波をキャッチし目の当たりにすることが、科学や技術に興味を抱くきっかけになるかもしれません。
ちなみに来年は、1818年に亡くなった江戸時代の測量家、伊能忠敬の没後200年に当たります。また、みちびきのカバーエリアに重なる太平洋島嶼国と日本との絆を強化するため、3年に一度開催される「太平洋・島サミット」の開催年でもあります。
高橋氏は、その記念すべき年にみちびき4機体制の幕が開けるというのは、とても意義深いことであると言います。今から準備すれば、新たに軌道投入されたみちびきが“産声”を上げる瞬間を、あなたもスマートフォンで見届けることができるかもしれません。

「ぜひ多くの方がご自分のスマホで宇宙に目を向け、宇宙でがんばる日本の測位衛星の電波を直接“見る”という体験をしてもらいたいと思います」(高橋氏)

(取材/文:喜多充成・科学技術ライター)

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