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農業食料工学会が農機の高精度測位でセミナー開催 [後編]

2017年01月07日

前編に引き続き、農業食料工学会が2016年12月20日に東京大学農学部で開催したセミナー「超低コスト高精度RTK-GNSS測位技術の動向」から、後半の3氏の講演概要を紹介します。

会場風景

北海道岩見沢市で行った実証実験を報告

── パナソニック 西谷裕之氏

西谷氏

パナソニック株式会社AVCネットワークス社東アジア営業統括部営業企画部ビジネス企画課の西谷裕之課長は、「1周波RTKとタフパッドを使った除雪機のナビゲーション」をテーマに講演を行いました。除雪作業の対象となる道路は、国道から市町村道まで、高速道路から生活道路までと幅広く、それぞれに異なる作業要件があり、必要とされる測位精度も異なります。
同社が提供する除雪機ナビゲーションは、電子基準点のデータから生成された仮想基準点(約5kmメッシュを予定)の補正情報を受け、除雪機に搭載された業務用タブレット「タフパッド」で測位演算(複数の測位エンジンを動作させ初期化時間を短縮してFIX状態を安定化)することで、オペレータの作業を支援します。
この補正情報は、11~3月の降雪期間のみエリア限定の配信サービスとして提供され、それにより同種の測量用サービスに比べて価格を抑えています。同社では5年分の使用権をタフパッドとセット販売するビジネスモデルを構築する方針といいます。

概要図

高精度測位システムの概要図(パナソニック株式会社のウェブサイトより)

また、測位信号の受信状態によって単独測位(コード測位)からDGPS(Differential GPS、基準局が出す電波を利用してGPS計測結果の誤差を補正する技術)、RTK測位(Realtime Kinematic、基準局の補正データを移動局に送信してリアルタイムで高精度に位置を測定する方法)をシームレスに切り替え、利用環境に対応するシステムとなっているとしました。
西谷氏は2015~16年のシーズンに北海道岩見沢市と青森市で行った実証実験の成果と課題について、「幹線道路で誤差50cm以内を実現」「高精度3次元地図による道路地物の可視化は効果あり」「吹雪の際の放置車両や歩行者の衝突回避策が必要」などと報告しました。

無償アプリを受信機と組み合わせてコストダウン

── 農業情報設計社 濱田安之氏

濱田氏

続いて株式会社農業情報設計社の代表取締役CEOでファウンダーの濱田安之氏が「スマホを使った農業トラクタの自動ナビゲーション」について講演しました。北海道に本拠を置く株式会社農業情報設計社は、2014年に創業した社員4名の農業ICTベンチャー企業です。社員3名が札幌在住で、濱田氏だけが帯広からリモート勤務する体制となっています。同社は2015年2月にトラクターの直進運転を支援するスマートフォン用アプリ「AgriBus-NAVI(アグリバスナビ)」をGoogle Playストアで無償公開しました。

画面例

農薬や肥料の散布作業では、散布済みかどうかを肉眼で把握するのは難しく、ガイドなしでは散布漏れや無駄な重複が避けられません。そこで衛星測位により走行軌跡を記録し、スマートフォンやタブレットで俯瞰(ふかん)することで作業を「見える化」して能率アップやコストダウンにつなげるものです。

従来のGPSガイダンスシステムに比べ、同社の無償アプリと既存のGPS受信機の組み合わせで、システムの価格は3分の1~20分の1と安価になります。公開から現在までの総ダウンロード数は5万件に迫り、9割以上が海外からの利用者です。大手ライバル社の参入により世界シェアこそ2位になったものの、利用者から“プアマンズGPSガイダンスだ!”と高い評価を得ているアプリといいます。

濱田氏は、北海道の農業者がドローンで自撮りしたトラクター作業中の美しい空撮映像を映写しながら、アプリの機能を紹介しました。

ドローンで空撮したトラクター作業中の映像

続けて今後の展開として、測位モジュールの複数搭載による電子コンパス機能や3G通信機能などを備え、トラクターに後付け可能なハードウエア「AgriBus-G+」、作業情報を記録管理するクラウドサービス「AgriBus-Connect」、自動操舵システムや隊列走行などの研究開発、国際MVNO(Mobile Virtual Network Operator、仮想移動体通信事業者)と協力しての海外展開プロジェクトの進捗などを紹介し、「世界の農機と農業を変え、農業者を支えていきたい」と締めくくりました。

ドローン搭載用システムなどをDIYで製作

── 東京大学 海津 裕氏

海津氏

東京大学大学院農学生命科学研究科 生物・環境工学専攻 生物機械工学研究室の海津裕准教授は、今回のセミナーを中心となって企画した人物です。海津氏はこれまでの農業機械の研究で測量用の測位システムを利用はしてきたものの、サイズや価格の面から一般の農業機械への組み込みに限界があると感じていました。
ところが1周波RTKを使った超低コスト高精度の測位方法の存在を知ったことに加え、雑誌『トランジスタ技術』の2016年2月号で東京海洋大学の高須知二氏と同氏が作った測位演算ソフトウェア“RTKLIB”のことを知り、大きな衝撃を受けたといいます。

講演中の海津氏

その後、高須氏が講師を務める測位航法学会のセミナーに参加してノウハウを獲得し、ドローン搭載用の測位システムや自走式草刈りロボット用システム、電子コンパスなどをDIY(Do It Yourself)で製作、性能評価を行ってきた結果を報告しました。

講演者5人

再び登壇した5人の講演者

飯田教授

京都大学の飯田教授

セミナーの最後には5名の講演者と京都大学農学研究科の飯田訓久教授が登壇して、来場者との間で、現場の実務や具体的なノウハウに踏み込んだ活発な質疑応答が交わされました。

(取材/文:喜多充成・科学技術ライター)

参照サイト

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