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GPS津波計の高機能化へ向けた東大地震研らの挑戦

2016年09月19日

以前、ニュースでご紹介したとおり、8月24日、瀬戸内海の弓削(ゆげ)島(愛媛県上島町)で、東京大学地震研究所(東大地震研)の加藤照之教授を中心とする研究グループが「海洋GNSSブイを用いた津波観測の高機能化と海底地殻変動連続観測への挑戦」と題した研究プロジェクト開始に関する記者発表を行いました。

これは、国土地理院のGEONET(=全国約1,300カ所の電子基準点によるGNSS連続観測網)に匹敵する高精度・高密度・広域の観測ネットワークを、ゆくゆくは日本のEEZ(Exclusive Economic Zone、排他的経済水域)に展開しようという意欲的なチャレンジです。記者発表の会場で行われた加藤教授のプレゼンテーションを踏まえ、今回の研究プロジェクトについて詳細をお伝えします。

GPS津波計の技術は、過去20年の研究開発で確立

GPS津波計

RTK-GPSを用いた海面高のリアルタイム計測の仕組み(左)と室戸岬沖に設置されたGPSブイ(右)

GPS津波計とは、GNSS受信機や無線機器などを備え、独立電源で動作する海洋観測ブイのことです。沿岸に設置したGNSS受信機を基準局、観測ブイ上の受信機を移動局とし、両者間でRTK法(=測位衛星の信号を基地局と移動局で受信し、センチメートル単位の測位精度を実現する手法)による測位を行い、海面高の変動を捉える技術が、過去20年間にわたる研究開発により確立しています。

阪神・淡路大震災の翌年1996年に、東大地震研と日立造船株式会社が中心となって開発がスタートしました。完成したシステムは2006年に国土交通省のナウファス(NOWPHAS=Nationwide Ocean Wave information network for Ports and HArbourS、全国港湾海洋波浪情報網)に「GPS波浪計」として配備が開始され、現在19機が運用されています。東日本大震災を引き起こした2011年東北地方太平洋沖地震による津波観測では、気象庁は観測データをもとに津波警報の引き上げを行い、2013年3月から新たに津波警報システムに組み込まれました。

2011年の東北地方太平洋沖地震では一定の成果は上げたものの、沿岸の基準局や受信局が機能喪失し、データが届かなくなるケースもあるなど、課題や教訓も浮き彫りとなりました。また、洋上における高精度測位のプラットフォームが確立することで、新たな研究テーマも浮かび上がってきました。その1つが「海底地殻変動の連続観測」です。

「海底の地殻変動を手に取るように知りたい」

GNSSを利用すると、海洋ブイの3次元的な座標を高い精度で得ることができます。海洋ブイの水中部分には超音波を発信・受信するトランスデューサーが備えられており、あらかじめ海底に設置された複数のトランスポンダとの間で測距(測深)を行います。

これにより、複数のトランスポンダで構成される「海底基準局」と海洋ブイの間の位置関係を知ることができますが、さらに海洋ブイの座標・姿勢の情報を加えることで、海底基準局の絶対座標を求めることができ、このデータを連続的に取得できれば、海底地殻がどのように動いているかを知ることができます。GNSSの利用で初めて実現する、ユニークな手法です。

GPS-音響システムの仕組み

GPS-音響システムの仕組み

加藤教授は「国土地理院のGEONETは革命的なシステムだった。それを海洋にも展開し、海底の地殻変動を手に取るように知りたいという強い思いがある」と語ります。

さらにこのような観測プラットフォームが実現すれば、陸上で運用されている電子基準点などと同様、GNSS電波を利用した電離層の状態の把握や大気中の水蒸気の量(可降水量)観測にも可能性が開けます。いわば「陸・海・空と宇宙の状態を総合的に把握する観測プラットフォーム」(加藤教授)となる訳です。

足摺岬沖の「黒潮牧場第18号ブイ」を使用

記者会見の場を提供した国立弓削商船高等専門学校(弓削商船)の木村隆一校長は、「しまなみ工業地帯に含まれるこの場所は日本の造船の3分の1を担い、国内の船舶の3分の1がこの地域に船籍を置いている、いわば海運・造船の中心地。日本の安全に関わる重要な研究プロジェクトに参加できることを大変光栄に思い、また教育効果も大きいと期待しています」と語ります。

また、高知工業高等専門学校(高知高専)の濵中俊一校長も「わが校もキャンパスが海に近く、津波防災が切実な立地です。今年度から学科を再編し“まちづくり・防災”というコースを設けました。防災面から地域に貢献する人材育成を目指しており、プロジェクトに関わる意義を感じています」と語っています。

練習船「弓削丸」

練習船「弓削丸」(240トン、定員56名)

今回の研究プロジェクトでは、浮体式の人工魚礁として高知県が整備してきた「土佐黒潮牧場ブイ」のうち、足摺岬沖30数kmに係留されている「黒潮牧場第18号ブイ」を使用します。

衛星通信に関わる部分をNICT(情報通信研究機構)とJAXA(宇宙航空研究開発機構)が、超音波による解析装置を名古屋大学が、海水温や塩分濃度測定とブイまでの往復などを弓削商船が、高精度測位のためのPPP-AR補正データ生成を日立造船が、通信衛星回線の提供をソフトバンク株式会社が、通信衛星を介した補正データ発信・ブイデータ収集を高知高専が行い、収集されたデータの解析を東大地震研、名古屋大学、気象庁気象研究所、NICTなどが行う体制で進められます。

記者会見に参加した研究グループのメンバー

(左から)NICT山本伸一氏、高知高専・寺田幸博 客員教授、同・濵中俊一校長、弓削商船高専・木村隆一校長、東大地震研・加藤照之教授

海底基地局の設置などの作業は来年度以降に予定されており、5年間のプロジェクトの最終段階では西太平洋へのアレイ展開(複数機の面的な設置)に関して、可能性・意義・体制・経費等について提言を取りまとめるとしています。

参照サイト

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※ヘッダ及び本文画像のうち、「GPS津波計」「GPS-音響システム」の画像・図版は、2016年8月24日記者発表資料「文部科学省科学研究費補助金基盤研究(S)海洋GNSSブイを用いた津波観測の高機能化と海底地殻変動連続観測への挑戦」より、練習船「弓削丸」の画像は、同資料「平成28年度基礎実験/練習船弓削丸の役割」より引用