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大手ゼネコン、現場での高精度測位活用を加速

2018年12月27日

土木工事において、品質向上と現場の負担削減を両立させるために、GNSSを使った高精度測位システムを活用する取り組みが広がってきました。低価格のみちびき対応マルチGNSS受信モジュールの普及も、その動きをあと押ししています。今回は、大手総合建設会社2社によるGNSSを活用した研究開発や実証実験への取り組み事例を紹介します。

事例1)清水建設の遮水シート施工検査支援システム

清水建設株式会社は今年8月、高精度測位の技術を活用した「遮水シート施工検査支援システム」を開発・実用化したと発表しました。福島県大熊町にある、除染で生じた除去土壌等の中間貯蔵施設において、放射性物質の漏洩を防ぐ「遮水シート」の施工検査を、確実かつ効率的に実施するシステムです。

遮水シートの施工検査は、確実性を期すため複数の方法で行われます。1枚約5~10mのシートを多数接合して大きな遮水シートを施工する場合、シートとシートを溶着接合します。その際、シートの端部同士を重ねて溶着し、そのラップ部内に袋状の空間を設けて空気を封入します。袋部に封入された空気の漏れがないことを外部から加圧して調べる「加圧検査」を、シートの接合部1辺につき最低1カ所行い、確実に溶着接合されていることを確認します。また、斜面に設置されたシートは全面にわたって電気抵抗を調べる「スパーク検査」を行います。

その検査の記録は従来、手作業で紙に記入していました。時には200m四方の広い面積を対象とした検査があり、座標を示すマークはあっても、それらを見落としたり、見間違えたりしないよう気を付けなければなりません。もちろん検査の重複や漏れ・記入ミスがないよう確実に記録しなければならず、それが現場の大きな負担になっていました。

タブレット端末で検査済箇所を確認(提供:清水建設株式会社)

タブレット端末で検査済箇所を確認(提供:清水建設株式会社)

清水建設は2016年、株式会社菱友システムズと共同で「地下埋設物可視化システム」を開発し、話題となりました。このシステムは、現場事務所などにGNSS基準局を設置し、作業員が携行する小型移動局(GNSS受信機)との間でRTK(Realtime Kinematic、固定点の補正 データを移動局に送信してリアルタイムで位置を測定する方法)による高精度測位を行い、正確な座標を取得するものです。その座標値を参照しながら、タブレットのカメラ映像に、あらかじめ登録された地下埋設物の地図をオーバーレイ表示します。今回の「遮水シート施工検査支援システム」は、この「見える化」システムをベースに開発されました。

遮水シート施工検査支援システムの使用状況(提供:清水建設株式会社)

遮水シート施工検査支援システムの使用状況(提供:清水建設株式会社)

1)現場作業員のGNSS受信機の情報をクラウドに送り、2)クラウド側で基地局の受信データと合わせて測位演算を行う、の部分は、従来の「見える化」システムと同様です。今回はさらに、3)タブレットに入力された検査結果を(得られた座標値や時刻と共に)クラウド側で管理する、という仕組みが加えられました。

両システムの開発に携わった清水建設の西村晋一氏(土木技術本部 開発機械部 技術開発グループ)は、「現場では、景色の変わらない広いエリアをくまなく検査して、しっかり記録に残すことにものすごく気を遣っています。タブレットに直接入力するこのシステムは、(紙にメモする必要がなく)データ整理の負担が軽減され、検査結果を共有すれば作業フローの簡略化・検査品質の向上が実現し、ひいては遮水シートの品質・性能確保にもつながります」と、思いを語ります。

事例2)鹿島建設の掘削現場用、埋設物検知システム

鹿島建設株式会社は今年6月、青森県で建設中の大規模風力発電所「ウインドファームつがる」の送電線地下埋設工事において、地下の既存埋設物を把握・検知するシステムを、ウィンクス株式会社と共同で開発し、適用実験で良好な結果が得られたと発表しました。

道路の掘削工事においては、既設水道管などの埋設物の位置の正確な把握と適切な防護が必須となります。しかし、夜間や積雪時は「現在位置が分からない」「目印が見えない」といった問題が生じ、施工を確実に行う上で大きな負担となっていました。

システムの核となるのは、みちびきに対応したパナソニック株式会社のWindowsタブレット端末TOUGHPAD(タフパッド)です。マルチGNSS対応の受信モジュールとモバイル通信機能を内蔵するTOUGHPADには、埋設物の位置を示した地図を登録しています。モバイル通信により取得する基準点情報に加え、タブレット側で1周波RTKによる高精度測位を行うことで正確な座標を取得します。

タブレット端末の重機運転席への設置状況(提供:鹿島建設株式会社)

タブレット端末の重機運転席への設置状況。作業中のタブレット端末の左側に、連動して緑色が点灯中のLED表示機(提供:鹿島建設株式会社)

作業中のタブレット端末の画面(提供:鹿島建設株式会社)

作業中のタブレット端末の画面(提供:鹿島建設株式会社)

トレンチャーと呼ばれる溝掘り専用重機のコックピットには、このTOUGHPADとUSB接続されたLED表示器(赤黄緑の3色でシステム状態を示す)が装備されており、タブレット画面に登録された地図上に現在位置を表示しつつ、LED表示器でRTKの解の状態(FIX/FLORT)を常に表示します。そして埋設物の接近を、音と光でオペレータに知らせる仕組みです。

トレンチャーによる積雪状況下の掘削作業(提供:鹿島建設株式会社)

トレンチャーによる積雪状況下の掘削作業(提供:鹿島建設株式会社)

鹿島建設の本田智昭氏(土木技術部 開発企画グループ 課長代理)は、「(みちびきに対応した)パナソニックのプラットフォームを活用することで、短期間で使えるシステムを構築することができました。10cmオーダーの精度が確認できましたし、負担を減らしつつ作業の効率や品質が上がる、と現場でも好評です」と話してくれました。

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いずれの現場でも測量にGNSSは使われており、高精度測位の技術が活かされています。ただ、その際は専用の機器やそれを扱うプロの存在が必要でした。今回紹介したような、プロでなくとも扱え、現場事務所の予算でもまかなえる、1周波RTKによる機動力の高いシステムが浸透することで、今後、土木工事の現場が変わっていきます。このことは同時に、みちびきの補強情報に価値を認める潜在ユーザー層の拡大を意味しています。

(取材/文:喜多充成・科学技術ライター)

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※ヘッダ画像はイメージです。本文画像提供:清水建設株式会社、鹿島建設株式会社