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ダム建設にGNSS技術で貢献、大成建設の「T-iBlast DAM」

2017年09月04日

衛星測位の応用範囲は、地中にも及びます。大成建設株式会社は今年3月、ダム建設に伴う原石採取工事において、衛星測位を活用して作業工程をICTで一元管理する新システムを開発したと発表しました。新たなダム原石採取管理システム「T-iBlast DAM」とは一体どんな仕組みなのか。実際に開発に携わった方々にお会いして、その背景などを伺いました。

T-iBlast DAMの開発メンバー

T-iBlast DAMの開発メンバー。左から片山三郎氏(大成建設株式会社 技術センター 先進技術開発部 建設技術開発室 ロボティクスチーム 課長代理)、山上順民(まさひと)氏(同社 技術センター 社会基盤技術研究部 地盤研究室 岩盤チーム 主任研究員)、青木智幸氏(同社 技術センター 社会基盤技術研究部 部長(研究担当)兼 地盤研究室長)、黒木博氏(同社 土木本部 土木技術部 部長(技術担当)ダム技術室長)、森田泰司氏(同社 技術センター 生産技術開発部 部長(技術開発担当)生産技術開発室長)、江田正敏氏(同社 技術センター 先進技術開発部 建設技術開発室 ロボティクスチーム チームリーダー)

「地中を測る」必要性と意義

ダム建設工事では莫大な量の岩石が必要になります。近隣の山を崩して調達し、粒径や粒度分布を整え、コンクリートの骨材として使用します。量の確保と共に品質の維持も重要です。発破で山を崩した後に、岩石をハンマーで叩くなどして検査、分別する作業が欠かせません。
当然ながら検査は、発破で山を崩した「後」でないとできません。しかし、もし事前に岩石の品質を推定できるなら、分別作業の効率化などで作業フローを大きく改善できるはず...。こうした問題意識から開発がスタートしました。

従来の工事方法

従来の工事方法

品質推定のヒントは「クローラドリル(Crawler drill)」にありました。「原石山(げんせきやま)」と呼ばれる現場では、発破のために、爆薬を詰めるための孔(あな)が必要となります。その孔を掘る自走式の削孔機がクローラドリルです。熟練のオペレーターは削孔のためのドリルの抵抗から、その場所の岩石の品質を想定できていたといいます。「T-iBlast DAM」はこの経験的な感覚を、数値化・可視化し、一般化したものであるとも言えます。

クローラドリル(自走式の削孔機)

クローラドリル(自走式の削孔機)

岩質で色分けした地中3Dマップを作成

T-iBlast DAMで使用されるクローラドリルには、1)位置と方位を取得するためのGNSSアンテナと受信機、2)ドリルの傾きを計測する傾斜計、3)削孔長(深さ)を計測するリーチセンサ、が装備されます。GNSSを使った測位はRTK法(Realtime Kinematic、固定点の 補正データを移動局に送信してリアルタイムで高精度に位置を測定する方法)により測量並みの精密さで行わるため、これらの情報を総合することで、削孔中のドリルの先端位置の正確な3次元座標を連続的に把握できます。

インテリジェントクローラドリル

インテリジェントクローラドリル

さらに、4)削孔抵抗(削孔エネルギー)を計算するための油圧力計、の情報を加えることで、ドリル先端位置の岩石の品質を推定することができます。つまりT-iBlast DAMにおける削孔作業は、従来であれば別々に実施されていた測量とボーリング調査という作業も、同時に行っていることになるわけです。

削孔検層結果

削孔検層結果

3D地山評価結果

3D地山評価結果

複数箇所で削孔を行ったデータから、岩石の品質別に色分けした地中の3Dマップが得られます。福岡県の五ケ山ダムの骨材製造工事で行われた実証試験では、事前の推定値と発破後の評価結果が整合することが確認できたといいます。

実証実験における発破後の検証

実証実験における発破後の検証

工事現場の安全性向上にも貢献

また、精密に削孔作業を管理することで、現場の安全性を高める大きなメリットもあると言います。

孔尻の高さを揃えられる

孔尻の高さを揃えられる

この手法ならば、ドリルの先端位置を3次元座標で把握できるため、複数の孔の先端位置の標高(孔尻高、あなじりだか)を容易に揃えることができます。孔尻高の揃った孔に装薬し、発破をかけて岩石を採取した後、新たにできた地面は、水平で平坦になるため、重機での作業の安全性が高まります。この技術を、GNSSによる高精度測位の活用から生まれたイノベーションと言うこともできるのではないでしょうか。

ダム建設工事の俯瞰イメージ

ダム建設工事の俯瞰イメージ

「気候変動による大型台風やゲリラ豪雨の増加などで、ダムの果たすべき役割は決して減じていません。今後ますますダム建設の適地が少なくなる日本でこそ求められ、貢献できる技術であると考えています」(大成建設 土木本部 土木技術部 部長(技術担当)ダム技術室長・黒木博氏)

同社では今後「T-iBlast DAM」の高度化も進めながら、新たなダム工事現場に適用していきたいとしています。
(取材/文:喜多充成・科学技術ライター)

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※ヘッダおよび本文画像提供:大成建設株式会社