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[報告] みちびきを高度利活用する4者の技術座談会

2026年05月25日

準天頂衛星システム「みちびき」によるサービスが開始されてから約8年。現在は5機で運用するみちびきの利活用は順調に拡大し、近年はサービスを高度に利用した新たな事業の創出や海外展開の動きも出てきました。こうした状況の中で内閣府は、陸上・海上・農業・ICTの4分野においてみちびきを高度に利活用する4者を集めて、その取り組みを紹介し合うと共に、分野横断的な観点での意見交換を行う「みちびきを高度利活用する4者の技術座談会」を開催しました。
この座談会には、“陸”の分野から、自動車の自己位置推定システムを開発するトヨタテクニカルディベロップメント株式会社、“海”の分野から、位置情報とAIを組み合わせて漁業の課題を解決するオーシャンソリューションテクノロジー株式会社、“農”の分野から、作業支援システム「レポサク」で農業DXを手がけるエゾウィン株式会社、“ICT”の分野から、みちびきを活用してAR(拡張現実)作業アプリを開発する株式会社Rootの計4者が参加しました。加えて、内閣府宇宙開発戦略推進事務局の三上建治参事官(準天頂衛星システム戦略室長)が出席し、過去に宇宙政策委員会の委員を務めた中須賀真一氏(立命館大学総合科学技術研究機構 教授)の司会により進行しました。

中須賀氏は座談会の冒頭、皆さまの尽力によりみちびきの利用が大きく広がってきたとして、SLAS(サブメータ級測位補強サービス)やCLAS(センチメータ級測位補強サービス)、MADOCA-PPP(高精度測位補強サービス)などの高精度測位は日本の強みであり、これらを使ってどんどん新しい利用方法を開拓し、事業につなげて海外展開していく流れを上手く作れるとよいと述べ、「本日は、それぞれの事業について情報を交換し、お互い一緒にできることを考えて、シナジー効果によりまた新しいビジネスが生まれる、といった会にしていきたい」と参加者同士の交流を呼びかけました。
続く前半は、参加した4者がそれぞれのみちびき利活用の取り組みを紹介しました。

CLASの販売数はネットワークRTKを上回る
トヨタテクニカルディベロップメント舩越氏

トヨタ自動車を親会社として計測制御事業などを行うトヨタテクニカルディベロップメント株式会社の舩越勲氏(BR工場・事業基盤改革部 アドバンスプロジェクト)は、自社が開発した車両向けの自己位置推定システム「RTK-STAR」を紹介しました。
近年は自動車の開発に際して、自動運転などの最新機能だけでなく、車両の基礎的な性能評価にも精密な位置測位が求められるようになっており、RTK-STARはそのための高精度で低価格なシステムとして開発されました。

舩越氏によると、ネットワークRTK(リアルタイムキネマティック)版とCLAS版の2種類が用意され、従来はネットワークRTK版が多く売れていましたが、昨年ごろから潮目が変わり、現在はCLAS版の販売数がネットワークRTK版を上回るようになってきたといいます。
その理由は、CLASとRTKを比較しても測位精度に大きな差が見られず、CLASを使えば補正データの通信費やサービス代などの維持費がかからない点にあります。加えて、車両開発のテストコースは携帯電波の届かない山間部にあることが多く、電波の圏外エリアでも利用できるCLASが評価されているそうです。RTK-STARは、今年4月にネットワークRTKの小型版が新たに発売され、現在CLAS版の小型版も開発中です。

RTK-STAR小型版

プレゼン後の質疑では、「独自に基地局を置いてRTK測位を行うことはあるか」との問いに対し、舩越氏は、基地局を置くこともあるがその場合でも通信用のSIMが必要になるとして、「SIMは安価ではあるが発注の手間がかかって面倒な部分もあり、CLASを使うことでSIMが不要になるのは大きなメリットになる」と回答しました。「CLASの利用をさらに広げるには、受信機がもっと安価になる必要があるか」との質問には、運用開始当初は受信機も高価だったが、最近はかなり安くなってきており課題ではないとして、「それよりも、CLASで通信費などの維持費が不要となることのほうが大きい」と答えました。

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みちびきが海洋状況を把握する鍵となる
オーシャンソリューションテクノロジー水上氏

続いて、2017年に次世代の水産業の実現を目指してオーシャンソリューションテクノロジー株式会社を設立し、漁業者支援サービス「トリトンの矛」などの開発・運営を行う水上陽介氏(代表取締役)が自社の取り組みを紹介しました。
同社は、SLAS対応のIoTデバイスを船舶に設置して航跡を取得し、高精度な位置情報とAI(人工知能)を組み合わせることで「単なる移動」と「網を入れている状態(操業)」をアルゴリズムで正確に識別すると共に、漁業者の報告負担の手間を軽減して客観的な漁獲努力量を推定し、水産資源の評価・管理に役立てるサービスを提供しています。
さらに、インドネシアやフィジーなど海外の海域において、みちびきのMADOCA-PPPによる測位実証や災危通報(災害・危機管理通報サービス)の受信実証も行っており、多様な環境下における運用知見の蓄積に取り組んでいます。

みちびきの信号認証サービスにも注目しており、東南アジアにおいて信頼性の高い位置情報データの基盤として利活用を進めています。水上氏は、各国が防衛専用システムではなく平時の水産データをデュアルユースとして整備することにより、結果として海洋状況把握(MDA:Maritime Domain Awareness)の強力な基礎基盤になるとして、みちびきはその実現の鍵になると期待を寄せました。

その後の質疑でMADOCA-PPPの実用性について訊かれた水上氏は、「海外では使えるのですが、あとはコストだけです」と回答しました。また、海上での通信はどのように行う想定かとの質問に対しては、低軌道のIoT向け衛星通信コンステレーションの実現に向けて、関係企業と連携して取り組みを進めているとした上で、「フィジカルAI(現実世界を認識・理解して物理的に行動するAI技術)においてロボットが活動するトリガーになるのはセンサーデータなので、みちびきをインフラ基盤として活用することで、これらのデータをしっかり収集できる仕組みを実現していきたい」と答えました。

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幅広い用途にシステムを活用して事業拡大
エゾウィン大野氏

2019年にエゾウィン株式会社を起業した大野宏氏(CEO)は、みちびきのCLASを活用した農業DXや鳥獣対策、ゴミ収集管理などの事例を紹介しました。同社の「レポサク」は、CLAS対応の受信端末(ロガー)を車両の電源に挿すだけで自動的に作業車の位置情報をリアルタイムに共有し、作業の進捗状況を把握できるシステムです。農作業だけでなくゴミ収集作業にも利用可能で、駐車場所や旋回場所の把握や収集ルートの改善、住民からのクレーム対応などに役立てることができます。また、レポサクの仕組みを活用して、ハンターの位置情報を共有できる野生鳥獣対策システム「クマハブ」も提供しています。

このほか、同様のシステムを除雪にも活用することで、除雪が必要な道路と不要な道路の切り分けや各道路の作業時間の計測などにも役立てています。さらに小麦収穫の現場では、全ての車両の走行軌跡を取得することで運搬車両稼働率の算出や編成別稼働率などを分析し、収穫作業効率化の課題と改善策を導き出すことができたそうです。

この発表に対して中須賀氏から、データを集めて分析し、効率的なオペレーションを実現するのはとても大事なことなので、データの解析にAIを活用してはどうかとの質問がありました。大野氏は、「データ分析をまとめたり、サマライズしたりする部分は、LLM(大規模言語処理)を使って“壁打ち”(考えを相手に投げかけて、その反応で思考を整理)するという使い方が考えられます」と回答しました。一方、内閣府の三上参事官は、このシステムは様々な分野で使えるのでぜひ横展開してほしいと述べた上で、「少しカスタマイズするだけで他の用途に置き換えてビジネス展開できるものがあり、ぜひ他の事業者様も含めて検討していただきたい」と要望しました。

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様々な技術と組み合わせて利活用の幅を広げる
Root岸氏

株式会社Rootの岸圭介氏(代表取締役)は、みちびきの高精度位置情報をAR(拡張現実)作業アプリに活用する取り組みについて紹介しました。同社はAR技術を活用した農業用の作業補助アプリ「Agri-AR」や、建築・森林・防災分野などに向けた「Work-AR」を提供しています。アプリでは、カメラで映した現実空間の中で直線ガイドや看板などを表示したり、距離・面積・体積・位置情報などを計測したりすることが可能で、計測した結果もARで表示できます。スマートフォンのモニタで見ても、スマートグラスを着用して見ても、どちらでも利用可能です。高精度位置情報はCLASやMADOCA-PPPの活用を進めており、海洋上において海洋環境データを表示したり、水中ドローンの位置や向きをAR表示したりする際にも、この2つのサービスを活用しています。

岸氏は、みちびきは現状でも利活用できる分野が多く、使用目的を明確にして現実的な運用を考えることが大事であり、ARやAI、3Dスキャンなど様々な技術と組み合わせることで利活用の可能性が広がると述べました。また、Fix解の位置情報だけでなく林業等の分野ではFloat解の精度でも十分に実用的である可能性があり、Float解での位置情報の活用も提案しました。

質疑では「スマートグラスを使わず、スマートフォンだけで利用できるか」と質問があり、岸氏は「ARというとスマートグラスを使う話になりがちだが、ほとんどの機能はスマートフォンでも使用でき、また、現場作業では片手が空くケースも多く、スマートフォンでも効率的に利用できます」と回答しました。続く「透過型のARグラスでも利用できるか」という質問に対しては、(弊社は)基本的にどのようなデバイスにもアプリを提供することは可能で、今後サングラス型の透過型ARグラスが増えても対応は可能とした。

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各者の発表を終えた後半は、中須賀氏をモデレーターとして様々な意見交換を行いました。最初のテーマは「プレゼンを聞いて、自社の事業と組み合わせると面白い機能や課題解決できる機能はなかったか」で、「AR技術を使うと移動の軌跡が見られるので、運転のシミュレーションが可能になる。AR×移動という掛け算は面白いと思う」(大野氏)、「鳥獣対策においても、クマの位置をARで表示すると予行演習などに利用できる。そうした使い方にはスマートグラスが適している」(岸氏)、「漁業者と洋上風力発電事業者がどのように協調していくかが課題なので、漁業者が網を仕掛けたエリアに洋上風力発電の作業船が近付く際に、ARで網の位置が可視化されれば作業船にとって非常に便利」(水上氏)といったARに関連した意見が多く出ました。
中須賀氏から出た「農業や漁業など小規模事業者が多い分野では、受信機などのイニシャルコストの負荷が大きいが、この点について戦略はあるか」という質問には、「農業ではイニシャルコストには納得いただけることが多いが、導入に至るまでの時間が長く、スタートアップとしてはそこが課題」(大野氏)、「国内では漁業も農業と同様の状況だが、一方で海外は国の制度として、小型船舶も含めてしっかりとモニタリングできるようにしようという話が進んでおり、国の支援も期待できる。ただ、1つの領域だけでやりきろうとするのは厳しく、他の市場にも広げていきたい」(水上氏)といった回答がありました。

今後のみちびきに期待することは、「みちびきの機体数が増えればCLASのFix率が上がり、上がれば上がるほど使用できる幅が広がる。そこに期待したい」(岸氏)、「Float解の位置情報も精度の範囲を保証していただけると、Fix解とFloat解の両方の位置情報を利用できる。自分たちの使い方なら、それでほとんどをカバーできるようになる」(大野氏)、「もし北米や欧州など海外でもCLASが利用可能になれば、車の開発が進み、安心して購入していただけるようになる」(舩越氏)といった回答がありました。

今後もトップユーザーの交流を続けてほしい
三上参事官による閉会挨拶

最後に挨拶した内閣府の三上参事官は、みちびきトップユーザーの会として非常に有益な会合になったとして、「今後も皆さまでお互いに交流していただきたいし、ビジネスを進めるために必要であれば、私どももぜひとも協力していきたい」と話して座談会を締めくくりました。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

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