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[報告] G空間EXPO 2025でみちびきに関する講演と展示

2025年03月12日

G空間EXPO 2025(主催:G空間EXPO運営協議会、共催:日刊工業新聞社)が2025年1月29~31日、江東区有明の東京ビッグサイトで開催されました。地理空間情報を高度に活用する社会の実現を目指し、産学官が連携して毎年開催しているイベントであり、運営協議会の一員として、国土地理院やJAXA(宇宙航空研究開発機構)、測量関係団体などと共に内閣府も加わっています。内閣府宇宙開発戦略推進事務局と準天頂衛星システムサービス株式会社は共同でブースを出展すると共に、開催初日に「みちびき特別講演会 ~6号機打上げ直前! 衛星測位最前線 in G空間EXPO2025~」を行いました。

会場外観

東京ビッグサイト

みちびき特別講演会

~6号機打上げ直前! 衛星測位最前線 in G空間EXPO2025~

中継の様子

開会挨拶で種子島から中継して東京の会場に呼びかける三上参事官

講演に先立って内閣府宇宙開発戦略推進事務局の三上建治参事官(準天頂衛星システム戦略室長)が、みちびき6号機打上げを4日後に控えたJAXA種子島宇宙センターの竹崎観望台からオンライン中継で挨拶しました。三上参事官は、6号機打上げを皮切りに2025年度までに合計3機打ち上げてみちびき7機体制を構築し、将来的には11機体制を目指すとして、「みちびき6号機の打上げをご家庭などいろいろな場所から応援いただければと思います」と来場者に呼びかけました。

三上参事官@種子島宇宙センター
みちびき11機体制に向けたJAXAの取り組み
JAXA小暮氏
小暮氏

JAXAの小暮 聡氏(第一宇宙技術部門 衛星測位技術統括)は、みちびき11機体制に向けたJAXAの取り組みを紹介しました。近年、世界各国のGNSSは単純に時刻と位置を提供するだけでなく、様々な高付加価値サービスを提供するようになってきています。小暮氏は、そうした中でみちびきも新機能を追加して高性能化を図っていく必要があるとして、みちびき5~7号機においてJAXAが新たに、スマートフォンなど一般的な受信機でも高精度な測位を実現できる「高精度測位システム(ASNAV:Advanced Satellite NAVigation system)」を搭載して実証を行うと説明しました。JAXAは他にも、複数GNSS対応の高精度軌道時刻推定ツール「MADOCA」を開発・提供しており、今後も引き続き高度化を図っていく方針とのことです。11機体制に向けた第1期(2~4号機の後継機、8号機)の搭載を目指して様々な研究開発を行い、第2期以降への採用を目指した基盤技術の研究開発も行っているとしました。同時にLEO(低軌道)-PNTなど、みちびき以外のPNT(Positioning, Navigation, and Timing: 測位・航法・計時)インフラの更なる抗堪性とロバスト性の改善にも取り組んでいくと話しました。

CLASを活用した堤防除草の生産性向上への取り組み

国土交通省 石道氏
石道氏

国土交通省の石道国弘氏(北海道開発局 事業振興部 機械課 上席専門官)は、堤防除草作業の生産性向上を目的とした除草自動化の取り組み「SMART-Grass」を紹介しました。大型遠隔操縦式草刈機による堤防除草を自動運転化することで、1人で複数台の草刈機を運用し、出来形を自動計測して帳票を自動作成できる仕組みを作るというものです。石道氏は、現在を操作員が草刈機をラジコンで動かす「レベル0」段階と考え、その後の自動化をレベル1(1人の監視員が1台の草刈機の自動走行を監視)、レベル2(1人の監視員が複数台の草刈機を運用)、レベル3(無人化して遠隔監視)と設定し、まずはレベル2を目標にすると説明しました。試験を行う草刈機にはCLAS(センチメータ級測位補強サービス)対応の受信機とアンテナを2台ずつ搭載し、タブレットで操作します。2021年度に勾配のない平坦なフィールドで実験を行い、2022~23年度には勾配のある河川堤防で実験しました。石道氏は、自動走行プログラムの改良で2022年度には直線区間での蛇行が少なくなりレベル1相当を実現し、翌2023年度には2台の協調運転の検証を行い、同一エリアにおける雁行(がんこう、斜めに並んで進む)運転と別エリアでの同時運転の実験を行ったと、これまでの実証の経緯を説明しました。今年度(2024年度)は2台の協調運転に取り組み、搭載機器や安全対策機能などを検証しており、2025年度は実際の工事現場において2台協調運転で試行するほか、CLASの測位精度が低下した際にRTK(リアルタイムキネマティック)測位に切り替える機能の検討などを行う予定とのことです。国土交通省では除草以外にも、除雪現場を省力化する取り組み「i-Snow」において除雪機の自動化にCLASを活用しています。

AI CAPTAINとみちびきが描く船舶自律航行の未来
エイトノット 木村氏
木村氏

株式会社エイトノットの木村裕人氏(代表取締役)は、同社が取り組む船舶の自律航行化の取り組みを説明しました。小型船舶は技術的な進化が遅く、操船が難しく安全性の面で他のモビリティよりも遅れている点が課題となっています。そこで同社は、誰でも安全・安心な運行を実現できる自律航行プラットフォーム「エイトノット AI CAPTAIN」を開発しました。木村氏は、カーナビのように地図上で目的地を指定することでルートが自動的に設定され、技術的には無人で自律航行を行えるシステムである(※現行法上は船を無人で航行させることができないため、運行時に船舶免許保持者が乗船しています)として、既存の船に後付け可能で、みちびきのCLASによる高精度測位で障害物や他船の回避や、定点保持、離岸・着岸を自動で行えるほか、遠隔モニタリングもできるのが利点だと説明しました。木村氏によれば、AI CAPTAIN は当初、RTK(リアルタイムキネマティック)測位を採用していましたが、基準局の設置場所の確保がネックとなり、基準局不要で自由度が高く、通信環境に左右されずに高精度に測位できるCLASに切り替えたとのことです。2023年1月、広島でこのシステムを搭載した自律航行水上タクシーを商用運行したほか、愛媛県今治市において観光船(海上タクシー)、広島県豊田郡大崎上島町では離島の定期航路に採用されました。2022年度には、船舶とドローンの協調制御により、航行中の自律航行船の上にドローンが離発着する実証事業も行いました。木村氏はこうした実績を踏まえて、今後はみちびきが利用可能なアジア/オセアニア地域への海外展開や、海洋土木や水産業など他分野への展開も目指していく方針だと語りました。

新たな衛星測位システム「LEO PNT」の可能性
アークエッジ・スペース 保田氏
保田氏

株式会社アークエッジ・スペースの保田友晶氏(執行役員/経営企画室長/ソリューション事業部長)は、高度900~1,200kmの低軌道(LEO:Low Earth Orbit)を周回する小型衛星を多数配置することで高精度・高強度の測位情報を提供できるシステム「LEO-PNT」を紹介しました。LEO-PNTは、高度約20,000kmの軌道を回る既存のGNSS衛星に比べて地球に近い位置にあるため、測位信号の強度を強くすることが可能で、信号の減衰や妨害に強い点も特徴です。また、地球上の受信機から衛星を見た場合の視線方向ベクトルの変化が大きくなるため、既存GNSSの課題である都市部でのマルチパスの影響緩和が期待でき、測位情報の収束時間を短縮することも可能となります。保田氏は、LEO-PNTの基本的な目的は既存GNSSの測位信号を補完・補強することであり、既存とは別のシステムが併存することで、単一システムに依存せずにリスクを低減できると説明します。既存GNSSに比べて機数が多くなり、軌道上の衛星に対する攻撃や妨害の標的にしづらくなる点も利点です。衛星をグローバルに展開でき、みちびきのMADOCA-PPPの提供エリア拡大にも寄与できるほか、米国や欧州などでも単一測位システムに依存することへの危機感からLEO-PNTへの期待感が高まり、今後の発展が見込まれるといいます。実現にはまだ様々な技術的課題がありますが、保田氏は、今後新たな周波数確保や測位信号の国際協調、地上受信機の整備、ユーザー企業との連携などを図りながら、実衛星によるユースケース実証の早期実現を目指すとしています。

石橋社長

講演の最後に準天頂衛星システムサービス株式会社の石橋 海・代表取締役社長が挨拶を行い、「みちびきは6号機とそれに続く5号機、7号機の打上げにより7機体制となりますが、私どもはサービスを提供する側として、高精度の信号を安定的に提供できるようにこれからも一所懸命頑張ってまいります」と締め括りました。

みちびきブース

ブースには、みちびきのCLAS及び信号認証サービスに対応したドローン「ChronoSky PF2-AE」(株式会社コア)や、みちびき海象ブイ(株式会社ブルーオーシャン研究所)、災危通報(災害・危機管理通報サービス)に対応したデジタルサイネージ用の映像表示器「Signadia」(株式会社ジェイアール東日本企画)、CLAS対応のスマートフォン装着型測位端末「LRTK Phone圏外対応」や傾斜補正機能搭載測位端末「LRTK Pro2」、2024年12月に発売したばかりの全方位撮影測位端末「LRTK360」(レフィクシア株式会社)のほか、各社が販売するCLAS/SLAS(サブメータ級測位補強サービス)対応受信機、CLAS対応アンテナなどを多数展示しました。

展示品-1

コアのChronoSky PF2-AE(左上)、ブルーオーシャン研究所のみちびき海象ブイ(右上)、ジェイアール東日本企画のSignadia(左下)、レフィクシアのLRTK Phone圏外対応、LRTK360、LRTK Pro2(右下)

展示品-2

ブース内に展示されたみちびき関連製品

会期中、ブースでは説明員がみちびきに関する基本的な事項を紹介したほか、展示した製品に興味を持つ方には最新のみちびき対応製品を案内しました。なお、レフィクシア株式会社は単独でも出展し、自社ブースでもみちびきに対応した製品を紹介しました。

レフィクシア展示

レフィクシアの展示ブース(左)と同社の高安基大代表(右)

6号機打上げ直前の1月29日に行われた「みちびき特別講演会」。その開催から4日後に種子島宇宙センターから打ち上げられたみちびき6号機は、2月13日に無事、高度約3万6千kmの静止軌道に投入され、運用開始に向けた準備を進めています。2025年度に予定される5号機・7号機の打上げに向け、幸先のよいスタートとなりました。

参照サイト

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