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[報告] メンテナンス・レジリエンスTOKYO 2025でみちびきに関する講演

2025年08月25日

生産設備から社会インフラ、各種災害対策まで、メンテナンス(保守管理)とレジリエンス(強靭さ)に関する最新の製品・技術・サービスを一堂に集めた専門展示会「メンテナンス・レジリエンスTOKYO 2025」(主催:一般社団法人日本能率協会)が2025年7月23~25日、江東区有明の東京ビッグサイトにて開催されました。同イベントはメンテナンスやレジリエンスに関連した8つの専門展示会と6つのセミナー/ステージ/講演会、4つの企画で構成されており、3日間で計32,392名が会場を訪れました。

会場外観

東京ビッグサイト

講演風景-1

7月24日に「ものづくり特別講演会」の一つとして行われたパネルディスカッション「準天頂衛星システム『みちびき』を活用したインフラメンテナンスの未来~みちびき7機体制とcm級測位サービスの可能性~」では、一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)の坂下哲也常任理事(準天頂衛星システム事業推進委員長)がファシリテーターとなり、3人のパネリストによる講演と意見交換が行われました。

坂下常任理事

ファシリテーターを務めた坂下氏

三上参事官

内閣府宇宙開発戦略推進事務局の三上建治参事官(準天頂衛星システム戦略室長)は、みちびきの概要として以下の内容を解説しました。
みちびきは現在5機が運用中であり、今年度中にさらに2機を打ち上げて来年度以降は7機体制になります。将来はバックアップ機能の強化と利用エリアの拡大に向けて11機体制を目標としています。みちびきは自動車やドローン、農業など様々な分野で利用されており、インフラ分野においても水道検針や道路除排雪、河川敷除草、橋梁点検、洋上風力発電設備や地下埋設物の管理などでの利活用が進んでいます。宇宙を活用して省人化・効率化を推進するみちびきは、スマートな未来社会を構築する上で重要となる位置情報サービスや時刻同期サービスを提供しています。
三上参事官は、受信機さえあれば無料でみちびきのサービスを利用することができるのでぜひ活用してほしいと来場者に呼びかけました。

石道氏

国土交通省北海道開発局の石道国弘氏(事業振興部 機械課 上席専門官)は、みちびきのCLAS(センチメータ級測位補強サービス)を活用した除雪作業及び除草作業の自動化への取り組みを次のように紹介しました。
国土交通省北海道開発局は、除雪現場の省力化による生産性・安全性の向上に関する取組プラットフォーム「i-Snow」を2016年度から推進しています。ICT技術を導入した新しいロータリ除雪車は、みちびきによる高精度測位と高精度3次元地図を組み合わせることで、積雪時や荒天時でも車両位置を正確に把握できるようになりました。従来のロータリ除雪車は作業を2人で行っていましたが、助手が担当していた除雪装置のレバー操作を高精度な位置情報と共に記録し、その情報に基づき場所に合わせて自動的に雪を飛ばす方向や角度を制御することで、オペレーター1人での作業が可能になりました。

図版-1

ICT技術を導入したロータリ除雪車(提供:国土交通省北海道開発局)

除草作業については、堤防除草作業の生産性向上のために除草自動化検討ワーキング「SMART-Grass」を2020年度に発足しました。草刈機の自動運転による除草作業の省力化と出来形の自動計測による効率化を目指して取り組んでおり、1人で複数台の草刈機の運用による協調運転や安全対策技術の試行実験を進めています。

図版-2

ICTを活用した堤防除草の自動化(提供:国土交通省北海道開発局)

松井博士

福井県工業技術センターの松井多志博士(企画支援部 技術相談グループ 総括研究員)は、みちびきを活用した橋梁点検支援ロボットの開発事例を次のように紹介しました。
福井県では「繊維」や「眼鏡」に続く新領域として宇宙産業に着目しています。このため、福井県工業技術センターとふくい産業支援センターが事務局を担うふくい宇宙産業創出研究会を立ち上げ、県内の民間企業の宇宙産業への進出を支援しています。事務局がプロジェクト支援を行ったみちびきのCLASを活用した橋梁点検支援ロボットの開発では、CLASの位置情報を橋梁下部で有効活用するために必要な座標連携装置を、春江電子株式会社とジビル調査設計株式会社との共同開発により実現しました。橋の上に設置する台車と、橋梁下部へ水平アームを下ろすための鉛直ロッド、撮影カメラを搭載した可動式の水平アームなどで構成され、台車に乗ったオペレータが水平アームを操作して、カメラに映った画像を確認しながら撮影することができます。橋の上のCLAS対応受信機が取得した高精度の位置情報をもとに、座標連携装置を介して橋梁下部の撮影ポイントの位置情報を算出でき、老朽化所の位置座標も算出できる優れた装置です。

図版-3

点検支援ロボット「視る・診る」(提供:福井県工業技術センター)

講演風景-2

講演後の意見交換では、国交省の石道氏がCLASを活用したロータリ除雪車の導入により熟練オペレータによる作業装置操作を「ならい制御(自動制御)」することで人件費を抑制し、自動化の導入コストを上回るランニングコストが削減できると、その成果を説明しました。
福井県の松井氏は、CLASを活用した橋梁点検支援ロボットの開発で、各社が持ち寄った一つ一つの要素技術を現場で実際に組み合わせて動かした際、上手く動かなかったこともあり、開発事業者が対応にとても苦労していたとの経験を語りました。また、国の支援制度活用により民間企業の技術開発は爆発的に加速する傾向があり、さらなる支援制度の充実に期待を表明しました。
内閣府の三上参事官は、今後確実にみちびき関連のニュースが増えていくので、今日聞いた事例を持ち帰って経営幹部や現場の技術者に伝えて、みちびきの活用を検討してほしいと来場者に呼びかけました。
最後にJIPDECの坂下氏が、これから人口減少が進む日本では、今日紹介した除雪・除草システムや橋梁点検システムなどの相互運用性を担保し、広域に連携する仕組みを考えていく必要があるとして、会場の皆さん一人一人のアイデアをぜひ内閣府にフィードバックしてほしいと締め括りました。

みちびきブースで対応製品やサービスを紹介

展示ブース-1
展示ブース-2

みちびきの展示ブースでは、株式会社コアのCLAS対応ドローン「ChronoSky PF2」やCLAS対応受信機「Cohac∞ Ten++」「Cohac∞ Ten」、エゾウィン株式会社のCLAS対応GNSSトラッカーによる農作業管理システム「Reposaku(レポサク)」「miltocca(ミルトッカ)」、KISの「Smart検針」(水道メーター検針システム)、レフィクシア株式会社のCLAS対応のアンテナ・バッテリー一体型GNSS受信デバイス「LRTK 360」「LRTK Phone」「LRTK Pro2」、ビズステーション株式会社のアンテナ一体型CLAS対応受信機「RWS.DC」及びCLAS対応受信機「RWX.DC」「RWS.DCM」「RZS.DC」、セプテントリオ株式会社のCLAS対応受信機「Mosaic Go CLAS」、小峰無線電機株式会社のアンテナ一体型CLAS対応受信機「RJCLAS-L6」、株式会社アカサカテックのCLAS対応受信機「CLAScanS」などを展示しました。

展示ブース-3

コアのドローン「ChronoSky PF2」

展示ブース-4

受信機の展示コーナー

展示ブース-5

みちびき対応受信機などの展示品。上段左より「Cohac∞ Ten++」「Cohac∞ Ten」(コア)、「レポサク専用端末」(エゾウィン)、「Smart検針」(KIS)、「RTK Phone/LRTK Pro2」。下段左より「RWS.DC」「RWX.DC/RWS.DCM/RZS.DC」(ビズステーション)、「Mosaic Go CLAS」(セプテントリオ)、「RJCLAS-L6」(小峰無線電機)、「CLAScanS」(アカサカテック)

ACSLは新たなCLAS対応ドローンを展示

会場内にはみちびきブースのほかにも、国産の産業用ドローンを提供する株式会社ACSLのブースでは、みちびきのSLAS(サブメータ級測位補強サービス)に対応したドローン「蒼天」に加えて、新たに受注を開始したCLAS対応の長距離飛行マルチユースドローン「PF4」も展示されました。

ACSLブース-1

蒼天

ACSLブース-2

PF4

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