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[報告] SATEXでみちびきの高精度測位に関するセミナーを実施

2022年02月14日

東京ビッグサイトで2月2~4日に開催された「SATEX(衛星測位・位置情報展)2022」では、展示会場に設置された講演スペースで衛星測位や位置情報に関連したさまざまなセミナーが行われました。その中から2月2日に行われた、内閣府宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室の出口智恵企画官による「準天頂衛星『みちびき』の概要と最新利活用事例」、及びマゼランシステムズジャパン株式会社の岸本信弘代表取締役による「準天頂衛星による新たな測位」の2つの講演を紹介します。

準天頂衛星「みちびき」の概要と最新利活用事例

── 内閣府宇宙開発戦略推進事務局 出口智恵企画官

セミナー会場

オンラインにて登壇した内閣府の出口智恵企画官は、みちびきを開発した経緯やサービスの概要、みちびきに対応したGNSS受信機やアンテナの動向、今後の開発予定などを解説しました。CLAS(センチメータ級測位補強サービス)対応受信機として現在販売されている受信機を紹介したほか、マゼランシステムズジャパンの「Digital ASIC」やセプテントリオの「Mosaic CLAS」など今後発売予定の製品にも言及しました。

2018年11月にみちびきがサービスを開始して以降、多数の対応製品やサービスが発売され、2021年10月時点でみちびきに対応している製品数は約370件に上ります。そのカテゴリは、受信機やスマートフォン、カーナビ、スマートウォッチ、ドローン、自動車、農機、船舶、建機・工機など多岐にわたります。出口氏はこれらのみちびき対応製品の中から、レベル3の自動運転技術を搭載した本田技研工業の「レジェンド」や日産自動車のEV「アリア」、SLAS(サブメータ級測位補強サービス)に対応した初の小型国産ドローンであるACSLの「SOTEN(蒼天)」、波高や流向を推定できるブルーオーシャン研究所の海象ブイ、東光鉄工のスマート農業ドローンなどを紹介。加えて災危通報(災害・危機管理通報サービス)対応製品として、MASAが販売するゴルフウォッチやパナソニックのETC2.0車載器なども紹介しました。

みちびきを活用した他のサービスとして、ウインドサーフィンなどの水上スポーツにおいて選手の位置情報を取得してデータ判定による競技支援を行う実験や、選手の順位や距離の差から見どころを自動判定してSLAS対応ドローンを自律飛行させながら撮影する観客向けライブ映像提供サービスなどの事例も挙げました。
MADOCA(高精度測位補正技術)の活用事例としては、2020年12月にJAXAが小惑星探査機「はやぶさ2」の帰還カプセルを回収した際に、通信手段のない砂漠において高精度測量を衛星測位信号のみで実施するためにMADOCAが活用したことや、マレーシアの大規模農園におけるドローン観測サービスなどを紹介しました。

みちびきは2023年度に向けて7機体制の開発・整備を進めているほか、それ以外に海外向けの高精度測位補強サービスを整備し、2022年度にはMADOCA-PPPの試行運用を開始する予定です。また、災危通報の機能を拡張し、Jアラート情報(ミサイル発射情報)やLアラート情報(避難指示)の配信に必要なインターフェース改修や信号生成機能の拡張などを2023年度までに実施すると共に、オーストラリアや東南アジア諸国などにおいても災危通報による災害情報配信のための改修や実証等を2024年度まで実施し、海外展開を行う予定です。GNSSのスプーフィング(なりすまし)対策では、測位信号に含まれる航法メッセージが本物であることを電子署名技術で証明する「信号認証機能」の開発・整備を、2023年度までに実施します。

出口氏は最後に、「さまざまな分野でみちびきの利用が広がり、自動車やドローンなどみちびきの高精度測位に対応した量産品も登場しています。今後も提供サービスを充実させて、引き続きみちびきの利用拡大を図っていきたいと思います」と語り、講演を締めくくりました。

準天頂衛星による新たな測位

── マゼランシステムズジャパン 岸本信弘氏

岸本氏

岸本信弘氏が代表取締役を務めるマゼランシステムズジャパン株式会社は、1987年の創業以来、GNSS関連技術領域において35年の実績を誇り、アンテナやRFアナログ回路などGNSS信号の入口からデジタル信号処理、高精度測位演算アルゴリズムの構築、高精度基線解析まですべて自社内で完結できる広い技術領域をカバーしています。
GNSS技術に加えて慣性演算装置(IMU)に関する独自技術も持ち、GNSSとIMUとの高度なタイトカップリング技術も保有。世界で初めてみちびきのCLAS(センチメータ級測位補強サービス)とMADOCA(高精度測位補正技術)の両方式に対応した受信機を開発し、トラクターやドローン、バス、車両などの自動運転に採用されています。

受信機の開発では、CLAS/MADOCA対応の評価ボード(90×100mm、消費電力10W、2017年提供開始)や、CLAS/MADOCA対応の第2世代小型モジュール(43×59mm、消費電力5W、2019年提供開始)に続く、独自の「Digital ASIC」を搭載した第3世代の超小型・低消費電力モジュール(30×40mm以下、消費電力1W以下)が、今年3月に完成予定です。
この第3世代の超小型・低消費電力モジュールは、みちびきやGPSを始め、GLONASS、Galileo、BeiDou、IRNSS、SBASなど各種の測位衛星の全ての信号(最大4周波)に対応し、みちびきの補強信号では、L6に加えてL1Sにも対応しています。チャンネル数512のうち、みちびきのL6信号に256チャンネルを割り当てており、更に通常の高精度測位用モジュールよりも高い受信感度を実現しています。
岸本氏は、このようなマゼランシステムズジャパンのCLAS/MADOCA対応受信機の活用事例として、農機の無人運転やドローンの自動離陸及びピンポイントの自動着陸、研究用ロボット、自動運転カート、地中埋設物調査などの事例を紹介しました。

一昨年11月にみちびきのCLAS補強対応衛星数が最大11機から最大17機に拡充した点については、使用衛星数の違いによる測位精度の比較結果を報告しました。水平精度は11機:3.25cm rms、17機:2.30cm rms、垂直精度は11機:5.16cm rms、17機:3.63cm rmsで、いずれも補強対応衛星数の増加に伴い精度が向上しています。また、中山間地域の農地で森林に囲まれた環境でも安定した高精度測位が行えることが確認できました。
また、みちびきが今後、7機体制となるのに際し、L1帯の干渉レベルに制約があるため、L1C/A信号の代わりに、干渉の少ないBOC(Binary Offset Carrier)方式で変調を行うL1C/B信号に変更することや、みちびきの初号機後継機が1月31日から試験信号の送信を開始したことなどを解説しました。

マゼランシステムズジャパンは、内閣府が行っている「みちびきを利用した実証事業」に今年度採択されており、そのテーマである、1つの移動体に複数の高精度測位用アンテナと受信機を搭載し、アンテナの位置情報をもとに向きや傾きなどを検知する「みちびき対応cm級受信機とスレーブRTKによる姿勢角検出実証実験と制御系への適用」について進捗状況を報告しました。

実証では、CLAS/MADOCA対応の受信機を基準局とみなして、対応する1~3セットの「スレーブRTK移動局」を移動体に搭載し、停止中やスリップが発生している状況でも正確な向きや傾きを把握することで、自動運転の精度や安定性・応答性を向上させます。
インドネシアにおいて、昨年10月からバンドン工科大学による測量船舶での実証実験を実施中で、今後すべてのデータを収集した後に、インドネシア地理空間情報局と連携しながら解析を行う予定です。
一方、日本国内では自動走行小型車両(UGV:Unmanned Ground Vehicle)での実証実験をマゼランシステムズジャパン本社(兵庫県尼崎市)にて実施済みで、8の字走行やジグザグ走行、直進後進走行などを行ったところ、UGV搭載のコンパスを使った自動走行と同レベルで走行可能で、実用上問題ないことを確認できました。ドローンでの実証実験も実施中で、今後プレジャーボートの自動離着岸システムの実証実験も行う予定です。

岸本氏は、みちびきの高精度単独測位は、測量分野や農林水産業、建設、船舶、物流、ドローンなどさまざまな分野で活用されており、「みちびきの高精度単独測位に対応した受信機は、今後さまざまな分野での社会実装が期待されます」と語り、講演を終えました。

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

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