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[報告] 宇宙・測位ビジネスの新たな可能性を探るみちびきセミナー開催

2024年08月29日

準天頂衛星システムサービス株式会社は2024年7月24日、「『宇宙』と『測位』を使ったビジネスの新たな可能性~準天頂衛星システム『みちびき』セミナー~」を東京・日本橋にあるX-NIHONBASHI TOWERとオンライン配信のハイブリッドにより開催しました。同セミナーは、みちびきの最新の取り組みと活用事例を解説すると共に、みちびきを活用した新しいユースケースの創出に取り組む「みちびきコミュニティ」の活動について紹介するセミナーで、講演後には登壇者と参加者による交流会も行われました。

第一部:セミナー

「ご挨拶・みちびきコミュニティ充実の必要性について」
(東京⼤学⼤学院 ⼯学系研究科 教授/一般社団法人クロスユー 代表理事 中須賀真一氏)
講演者写真-中須賀教授

東京大学の中須賀教授

冒頭、東京大学大学院工学系研究科の中須賀真一教授(一般社団法人クロスユー 代表理事)が開会挨拶として、以下のように語りました。
「今回のセミナーはみちびきのコミュニティの醸成の第一歩となることを目指したイベントであり、宇宙ビジネスのコミュニティの醸成を目指しているクロスユーも、ぜひ役立ちたいと強く思っています。今回のセミナーを通じてみちびきの現状と未来を見ていただき、会の終わりにはこのコミュニティの一員になりたいという思いを強く持っていただきたいと思います」(中須賀教授)

講演の様子-中須賀教授

「準天頂衛星システム「みちびき」に係る取組みのご説明
 ~準天頂衛星に関する取り組みの全体像、APACへの広がりについて~」
(内閣府宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室長 三上建治 参事官)
講演者写真-三上参事官

内閣府の三上参事官

セミナーでは、まず内閣府宇宙開発戦略推進事務局の三上建治参事官(準天頂衛星システム戦略室長)がみちびきの概要を説明し、みちびきが現在の4機体制から7機体制となる予定で、11機体制に向けた検討も始まっていると紹介しました。
続いてCLAS(センチメータ級測位補強サービス)を始めとした測位補強サービスを紹介し、測位誤差の違いをテニスに例えて、一般的なGPSの測位誤差がテニスコート半面に相当する約10mであるのに対して、CLASはテニスボールに相当する約6cmを実現しており、位置をピンポイントに特定できることを説明しました。
また、2024年4月にアジア・オセアニアに向けて提供開始したMADOCA-PPP(高精度測位補強サービス)では、水平精度30cmと“靴一足分”の誤差を実現しており、これを活用することで様々なサービスが可能になると語りました。
さらに、みちびきが提供する高精度の位置情報サービスや時刻同期サービスは社会を支えるインフラであり、近年は受信機が小型・安価になり普及期が到来していることも説明し、「宇宙開発はオールジャパンで進めていくべきであり、それを盛り上げる場の一つとして、このようなイベントを活用してほしい」と呼びかけました。

講演の様子-三上参事官

「準天頂衛星システム「みちびき」活用事例のご紹介」
 1)一般財団法人日本情報経済社会推進協議会(JIPDEC)常務理事 坂下哲也氏
 2)JAXA 第一宇宙技術部門 衛星測位技術統括 小暮 聡氏
 3)三菱電機株式会社 防衛・宇宙システム事業本部 主席技監 小山 浩氏
講演者写真-坂下氏

JIPDECの坂下氏

続いて行われた3人の識者によるみちびきの活用事例の紹介では、まず一般財団法人日本情報経済社会推進協議会(JIPDEC)の坂下哲也常務理事が、すでに多くのスマートフォンがみちびきの衛星測位サービスに対応しているほか、みちびきのCLASに対応した自動車やドローン、農機も登場しており、SLASに対応したゴルフウォッチやドライブレコーダーも市販されていることを紹介しました。
ほかにも今後考えられているビジネスとして、地図上にジオフェンス(仮想的な境界)を設けて、位置情報により危険箇所への接近・侵入を検知して自動車の最高速度を自動的に引き下げる仕組みや、家庭の廃食用油回収のトレーサビリティにみちびきを活用する取り組みなどが検討されているとしました。坂下氏は、近年はIoTやAIの進化により、社会全体が自動的・自立的に動く時代になっており、位置情報と時間情報を提供するみちびきの重要性はますます高まっていると語りました。

講演の様子-坂下氏
講演者写真-小暮氏

JAXAの小暮氏

続いてJAXA 第一宇宙技術部門衛星 測位技術統括の小暮聡氏が登壇し、JAXAのみちびきの取り組みを紹介しました。JAXAは民間企業と協力して、宇宙関連ビジネスの事業化を目指した共創型研究開発プログラム「J-SPARC」を行っており、衛星測位関連としてEV自動走行のプロジェクト「Yadocar-iドライブ」にみちびきを活用する取り組みを進めていると説明しました。
また、GNSSの信号に加えて、MADOCA-PPPの時刻同期による地上波測位システム「MBS(Metropolitan Beacon System)」を組み合わせることにより、屋内外を問わずシームレスな測位を実現する取り組みも進めているとしました。これは、屋内外シームレスな測位により、ビル建設・ビル管理や防災、屋内XRなど様々な事例に適用できるものです。このほか、MADOCA-PPPに対応した低価格・低消費電力の受信機の開発や、人工衛星にMADOCA-PPPの受信機を搭載してリアルタイムに軌道上の衛星の位置を高精度に求める技術「PPP in Space」の開発も行っていると語りました。

講演の様子-小暮氏
講演者写真-小山氏

三菱電機の小山氏

三菱電機株式会社の小山浩氏(防衛・宇宙システム事業本部 主席技監)が、みちびきのCLASの活用事例を紹介しました。市販の自動車の中にはCLASを先進運転支援技術に活かしている事例も見られ、高精度3次元地図や各種センサーとCLASの位置情報を組み合わせることにより高速道路での手放し自動運転を実現している現状を解説しました。農業分野では、EVロボットや農薬散布ドローン、圃場畝内の自律走行が可能なクローラ型車両などにCLASの高精度な位置情報が活用されていることも説明しました。
ドローンでは、CLASを活用して横浜から千葉へ50kmの東京湾縦断実証に成功したほか、自律航行船とドローンの荷物の受け渡しを洋上でスムーズに行うための技術も開発されているとしました。また、船舶の分野でもCLASを活用した自動離着岸や船舶位置制御のシステムが実現していることや、茨城県在住の中学生による取り組みとして、CLASを使った水準測量を街中の複数箇所で行うことにより“マイハザードマップ”を作成した事例なども紹介しました。

講演の様子-小山氏

今年度のみちびきコミュニティに関するクロスユーの取り組みについて
(一般社団法人クロスユー 事務局長 米津雅史氏)
講演者写真-米津氏

クロスユーの米津氏

クロスユー事務局長の米津雅史氏が、2024年度のみちびきコミュニティの事業を紹介しました。2024年度のみちびきコミュニティは、みちびきや衛星測位に関する知識を学べる「準天頂衛星アカデミー」の基礎編を9月に3回実施し、応用編を10月に3回実施する予定であること。さらに、11月20日(水)には宇宙ビジネスイベント「NIHONBASHI SPACE WEEK」においてプレゼンテーションステージも開催し、みちびきの活用事例として様々な事例が発表される予定だと紹介しました。

講演の様子-米津氏
第二部:ネットワーキング


セミナー後はQ&Aセッションが行われ、みちびきを活用したビジネスや将来について様々な質問が寄せられました。また、ネットワーキングの時間も設けられ、登壇者や参加者同士で名刺交換や意見交換が活発に行われました。

参照サイト

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