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[報告] 高専生によるみちびき災危通報を活用したハッカソン

2026年03月11日

2026年1月24・25日の2日間、「準天頂衛星システムみちびきの災害・危機管理通報を活用したハッカソン」が東京・日本橋のX-NIHONBASHI BASEで開催されました。ハッカソンとはハック(Hack)とマラソン(Marathon)を組み合わせた造語で、ITエンジニアなどが集まってチームを作り、一定期間内にアプリケーションやサービスを開発して発表するイベントです。
参加したのは長岡工業高等専門学校(長岡高専、新潟県長岡市)、豊田工業高等専門学校(豊田高専、愛知県豊田市)、沖縄工業高等専門学校(沖縄高専、沖縄県名護市)の3校で、それぞれ2~3年生の学生3名がチームを組みました。各チームは昨年12月から計6回、オンラインでみちびきに関する講義を受講してメンタリングを受け、約2カ月かけてプロダクトを開発しました。2日目の25日には最終報告会が開催され、内閣府や準天頂衛星システムサービス株式会社、高等専門学校(高専)の関係者などが参加して学生の発表を聞き、質疑や助言を行いました。

会場風景

最終報告会の様子

司会の荒川氏

報告会の司会は長岡高専出身の荒川善大氏(株式会社KOIYAL 代表取締役)が務めました。荒川氏によると、そもそものきっかけは長岡高専において2020年より始まったアイディアソンでした。学生が短期間でみちびきのビジネスプランを考えるという取り組みはその後、全国に広がり、各地の高専でみちびきのアイディアソンが行われるようになりました。そして今回、高専生にみちびきを活用したプロダクト開発がどの程度可能かを実証する目的で、ハッカソンが開催されたのです。

内閣府の和田企画官

報告会の開始にあたり、来賓として参加した内閣府宇宙開発戦略推進事務局の和田弘人企画官(準天頂衛星システム戦略室)が挨拶しました。和田企画官は、技術に精通した工業高専などの学生にみちびきの良さを知ってもらうため、内閣府がこれまでのアイディアソンを支援してきた経緯を紹介しつつ、「いよいよハッカソンの開催ということで、みちびきを使った課題解決を具体的な形にして、より良いプレゼンができるように頑張ってほしい」と学生にエールを送りました。これを受けて、各チームが順番にプロダクトを見せながら、力の入ったプレゼンテーションを行いました。

Hair日和
長岡高専チーム(金田花子さん、高野 渚さん、山田桜輝さん)
長岡高専プレゼン-1
長岡高専プレゼン-2

最近はテレビでニュースを見る習慣がない人が増えて、正しい災害情報を得る機会が減ってきました。そうした中で、ユーザーが興味を持つテーマと組み合わせて災害情報を知らせるアプリとして開発したのが、その日の気象条件に合った髪型や前髪セットを提案する「Hair日和」です。女性の関心が高い「前髪」をテーマにしたアプリを使うことで、日課の中に災害情報を組み込んでいくのがねらいです。

長岡高専プレゼン-3

このアプリは、温度や湿度、風速など気象情報に合わせて崩れにくい髪型や前髪のセット方法を提案します。その過程で、みちびき位置情報をもとに自分の行動範囲内の天気を正確に把握できます。当日の天気予報を時間帯ごとに画面に表示するほか、週間予報や発令中の警報・注意報も確認できます。災害情報は、通知が来て内容を確認でき、アプリを開くとさらに詳しい情報を確認できます。

長岡高専プレゼン-4

PCにみちびき対応受信機を接続して使用するため、スマートフォンで直接みちびきの位置情報を受信できないこと、そして受信機のある場所の気象情報しか分からないことが課題となっています。これらの課題を解決するため、今後はMessaging APIを活用してLINEに配信し、女子の中学・高校・大学生などをターゲットにLINE公式アカウントとして運用するといったアイディアも発表されました。

長岡高専プレゼン-5

「災害情報のアプリは『非常時だけでなく日常的に使ってもらわないと普及しない』と言われますが、まさか前髪をテーマとしたアイディアが出てくるとは思いませんでした」といったコメントのほか、「移動経路に合わせて行動パターンを予測して、前髪の修正を提案する機能などを組み込むともっと便利になる」などのアドバイスが寄せられました。

MICHIBIKI GUARDIAN TAP
豊田高専チーム(川上彰斗さん、徳満有哉さん、貝渕蒼馬さん)
豊田高専プレゼン-1
豊田高専プレゼン-2

地震発生時の振動を検知して電気を遮断する感震ブレーカーは、電気火災(電気や電気製品に関わる火災)の予防に役立ちますが、全電源が遮断されると暗闇を避難することになるため、落下物やガラスの破片を踏む危険が生じます。そこで、電気ストーブなどの熱源だけをピンポイントで遮断して、避難に必要なLED照明やテレビ、Wi-Fiルーターなどは継続して利用できるコンセントタップ「MICHIBIKI GUARDIAN TAP(みちびきガーディアンタップ)」を開発しました。

豊田高専プレゼン-3

左に置かれているのが MICHIBIKI GUARDIAN TAP

豊田高専プレゼン-4

みちびきの災危通報を受信することにより電源を遮断します。そのため地震の大きな揺れが到達する前に熱源を遮断でき、地上の通信網が使えなくなった場合でも利用できます。
ハードウェア構成は、みちびき対応受信機、ボードコンピュータのRaspberry Pi、6軸ジャイロを搭載したIMU(慣性計測ユニット)、スピーカー、ボタン、ディスプレイ、リレーを搭載し、4口の電源タップを備えます。

豊田高専プレゼン-5

みちびき対応受信機で災危通報を受信した時や、IMUが強い揺れを検知した時にはコンセントが遮断され、ディスプレイに避難を促す警告が表示されます。平常時は大きなデジタル時計として使用しながら、みちびきとIMUを常時監視すると共に、ウェブアプリで操作可能なスマートコンセントとしても使用できます。災害後に安全を確認した後は、物理ボタン、又はウェブから手動リセットで復旧できます。

豊田高専プレゼン-6
豊田高専プレゼン-7

今後はコンセントに優先度を付けて、揺れの大きさに応じて遮断するコンセントを変更可能にする機能や、揺れが非常に大きい場合は、擬似の漏電信号を発信してブレーカーが落ちるようにする機能、猫や子どもが触ることによる誤検知を防止する機能などの追加を検討しています。また、デバイスを屋内に設置するとみちびきの信号を受信できないため、屋外に対応受信機を設置して920MHz帯の電波で屋内のコンセントと通信を行うことも検討しています。

豊田高専プレゼン-8

「製品を単品で売り込むより、画面付きインターホンなどの設備に組み込んだほうが何かあった時に使いやすい」といった感想や、「技術の進歩に応じて付け替えできるよう、壁に埋め込むモジュール型にすると良いのではないか」といった提案が寄せられました。

SatOS
沖縄高専チーム(喜友名朝舜さん、大城颯太郎さん、上原功大さん)
沖縄高専プレゼン-1
沖縄高専プレゼン-2

「SatOS」は、ボタンを“さっと押す”だけでSOSを発信できる緊急通報システムです。災害の避難時に火災が起きている建物を発見した場合、消防に電話してもアクセスが集中してつながらないことが多いですが、このSatOSがあれば素早く通報できます。また、災害時に倒壊した建物内に取り残された場合でも、SatOSを押せばすぐに救助を呼ぶことができます。

沖縄高専プレゼン-3

ボタンとトリガが搭載されたSatOSのデバイス

沖縄高専プレゼン-4

SatOSのデバイスにはボタンとトリガ(誤作動防止の側面ボタン)が搭載されており、トリガを押した状態でボタンを押すことでSOS信号を発信します。ボタンを押す回数によって通報内容が変化するのが特徴で、通報内容は、1回が「何かがあった」(即時通報)、2回が「水・土砂に関する災害」、3回が「炎・ガスに関する災害」、4回が「インフラに関する災害」、5回が「人命被害」(救助要請)となります。

沖縄高専プレゼン-5

みちびきから災危通報を受信すると共に、測位により位置情報を取得し、通報内容と位置情報をLPWA(低消費電力広域ネットワーク)経由で救助隊や自治体へ送信することにより、その情報を救助活動に役立てることができるという仕組みです。室内にいたり、瓦礫に埋まってしまった場合はみちびきからの信号受信が困難となるため、SatOSデバイス同士でアドホック通信を行うことにより、みちびきの受信が可能な近くの他のSatOSデバイスを経由して通報することも可能です。
SatOSのアイディアを能登半島地震の経験者に伝えたところ、「押すだけで通報できるのは助かる」「音や振動など送信完了が分かる仕組みがほしい」「常に身に着けられる形が理想」といったフィードバックが得られたそうです。

沖縄高専プレゼン-6

今後は、通報が実際に行われたかどうかをブザー音で知らせる機能の追加や、キーホルダー型にして持ち歩きの利便性を向上させる改良を行うことも考えているそうです。現在はボタンの押下回数をカウントする機能のみのデモ機しか完成していませんが、みちびき対応受信機やLPWAモジュールを組み込んだ小型デバイスの製作も検討しています。小学生や現場作業の利用を想定した派生機の開発も行いたいと考えており、政府や自治体と連携して大量配布し、都市部のほか過疎地でもアドホック通信網(アクセスポイントを介さず、端末同士が1対1又は少人数で行う接続方式)を確立するといったアイディアも発表されました。

沖縄高専プレゼン-7

「大規模災害時は膨大な数の通報が来るので、それをどうさばくかが一番の課題です。それを踏まえてシステム全体の流れを意識すると、より洗練されると思います」といったアドバイスや、「GISと連携して地図上にどんな災害が起きているかを可視化できると完成度が上がります」といった提案が寄せられました。

国立高専機構の本間氏

閉会の挨拶は、独立行政法人国立高等専門学校機構(国立高専機構)の本間哲雄氏(本部事務局 学務参事 教授)が行いました。本間氏は、「決められた締切日までに完成させるのも高専生の力であり、ふだんの学びを活用できる機会となった点はすごく良かった」とした上で、「今回聞いた話をぜひ次の学びに活かしていただきたい」と呼びかけました。

司会の荒川氏によると、このハッカソンは今後も開催を予定しており、次回はもう少し規模を大きくすると共に、開発期間も夏休み期間を含めた形に延長し、テーマも災危通報だけでなく測位も含めるよう検討しているとのことです。
この日は報告会に続いて参加者同士の交流会も行われ、開発したプロダクトを持ち寄りながら活発な議論や情報交換を行いました。

発表者集合写真

発表を終えて

(取材/文:片岡義明・フリーランスライター)

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