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[報告] みちびきの防災分野への活用をテーマにセミナー開催

2025年03月27日

準天頂衛星システムサービス株式会社は2025年2月28日、防災をテーマとしたセミナー「準天頂衛星システム『みちびき』の防災分野への活用可能性」を東京・日本橋のX-NIHONBASHI TOWERで開催しました。今回のセミナーは、クロスユーを事務局に迎えた今年度のみちびきコミュニティにおける最終回となるもので、みちびきなどの衛星測位システムや地球観測衛星の防災分野への活用をテーマに、最新の事例や今後の活用可能性を紹介する講演、パネルディスカッションを実施し、講演後に登壇者と参加者による交流会も行いました。また当日の講演の模様は、オンラインでも配信されました。

会場全景

会場となったX-NIHONBASHI TOWER

中須賀教授

冒頭、セミナー事務局を担当する一般社団法人クロスユー代表理事の中須賀真一教授(東京大学大学院工学系研究科)が開会挨拶を行いました。中須賀教授は、2月2日に打上げが成功したみちびき6号機に続き、来年度5号機と7号機を打ち上げて7機体制となり、将来はバックアップも含めた11機体制を目指すという現在の状況を踏まえ、「みちびきが防災分野にどのように利用できるかを皆さんとディスカッションしたいと思います」と語り、セミナーがスタートしました。

みちびきの防災分野への活用可能性
内閣府 吉田参事官
吉田参事官

内閣府宇宙開発戦略推進事務局の吉田邦伸参事官(国土交通省 国土技術政策総合研究所 河川研究部 水防災システム研究官)は、2月13日にみちびき6号機が無事、静止軌道に投入されたことを報告し、みちびきの概要を解説しました。防災分野への活用の可能性として、SLAS(サブメータ級測位補強サービス)対応の腕時計型ウェアラブル端末を使用する「水道メーターナビゲーションシステム」(株式会社KIS)や、CLAS(センチメータ級測位補強サービス)対応のスマートフォン装着型受信デバイス「LRTK Phone 4」(レフィクシア株式会社)、CLAS対応ドローンによる点検・測量サービス(株式会社コア)、Q-ANPI(衛星安否確認サービス)端末を搭載した災害対策車両(ゲヒルン株式会社)などの事例を紹介し、タイで行ったみちびきの災危通報(災害・危機管理通報サービス)を利用した実証実験についても説明しました。吉田参事官は、地上の状態が悪い時でもみちびきを活用すれば正確な位置情報やメッセージサービスを利用でき、災害対応力の向上につながるとの期待を述べました。

衛星技術の防災活用に期待すること
防災科研 臼田氏
臼田氏

国立研究開発法人防災科学技術研究所(防災科研)総合防災情報センターの臼田裕一郎センター長(防災DX官民共創協議会 理事長)は、防災の観点から衛星技術全般に期待している点について解説しました。臼田センター長によれば、災害時は同時並行で活動する個人や組織が情報を共有して状況認識を統一することが重要であり、防災科研では現場と各機関をつなぐパイプラインとしてSIP4D(基盤的防災情報流通ネットワーク)の研究開発を進めると共に、内閣府と合同でISUT(災害時情報集約支援チーム)の取り組みも行っているとのことです。衛星技術に期待するのは、1)扱いやすくどこでも使える通信技術、2)(みちびきの高精度測位などで得られる)途切れることのない精緻な位置情報、3)迅速かつ的確な観測と被害状況の共有の3点で、例えば災害時に通行可能な道路などをリアルタイムに共有したり、スマートグラスなどを使って被災現場の状況に被災前の建物情報を重ねてARで見られるようにしたりする際への活用が考えられるとのことです。また、防災産業の育成においても衛星技術に期待しており、防災DX官民共創協議会などを通じて、産官学の領域がつながって課題解決に向けて取り組むことが重要であると述べました。

衛星地球観測の官民連携による災害対応訓練
JAXA川北氏
川北氏

JAXAの川北史朗氏(第一宇宙技術部門 衛星利用運用センター 技術領域主幹)は、衛星地球観測コンソーシアム(CONSEO)による官民連携の災害対応訓練の取り組み「防災ドリル」を紹介しました。2024年12月、官民衛星による衛星観測シナリオを前提にした実撮像を行い、その観測データを11機関にて解析することで被害域の情報化を行いました。それを緊急観測の要請や観測データ、解析プロダクトを防災科研の管理・共有システム「衛星ワンストップシステム」により一元管理し、防災機関である参加省庁等の14機関がシステムを利用しました。川北氏は、この取り組みによって官民衛星の効果的な運用方法が明確になり、衛星を活用した防災活動の基本的な枠組みを検証できたとして、今後も継続的にこうした取り組みを行い、より良いシステムづくりを進めたいと語りました。

災危通報を活用した被災対応FMラジオ放送システム
山口放送 惠良氏
惠良氏

オンラインで参加した山口放送株式会社の惠良勝治氏(取締役ラジオ局長兼技術局長)は、2023年度に実施したみちびき災危通報を活用した被災対応FMラジオ放送システムの実証実験を紹介しました。同社はこの実証において、FMラジオ放送ネットワークの一部が途絶した場合でもみちびき災危通報を活用した自動放送により情報を途切れなく提供できるシステムを構築しました。災害時に音声が途切れた場合、みちびき災危通報を受信し、自社アナウンサーの音声に自動変換し出力する装置を開発し、地上回線や演奏所(スタジオ)、中継所、FM送信所(親局)など4つの被災想定パターンを設定して室内実験を行ったほか、2023年11月、岩国市にある山口放送の錦FM実験局にて公開実験を行いました。惠良氏はこのシステムをコミュニティ放送局にも導入する方針で、災危通報の利用により災害情報の伝達が多重化され、より確実に情報を伝達できると説明しました。

「ELTRES(エルトレス)」による森林火災早期検知システム
ソニーグループ木村氏
木村氏

ソニーグループ株式会社の木村学氏(リサーチプラットフォーム Exploratory Deployment Group Research Platform 担当部長)は、森林火災早期検知システムを紹介しました。ソニーグループは、地球上のあらゆる場所をセンシング可能にして異変の予兆を捉える「地球みまもりプラットフォーム」の構築に取り組んでおり、その活動の一つとして、タイ北部において森林火災早期検知の実証実験を行いました。実験では、独自のセンシング技術、LPWA(低消費電力広域通信)の「ELTRES(TM)」、予測分析・シミュレーションの3つの技術を活用し、火災初期の煙の粒子を捉えた電波を実験装置で受信し、森林火災を捉えることができたといいます。木村氏は、こうしたAIセンサーネットワークにみちびきの高精度測位や災危通報を組み合わせることで、災害現場の状況を把握して避難行動につなげると共に、消火活動や救助を行う人が現場に正確にたどり着ける仕組みを実現できると説明しました。

左から米津事務局長、中須賀教授、臼田氏、オンライン参加の三上参事官

各氏の講演に続くパネルディスカッションでは、一般社団法人クロスユーの米津雅史事務局長がモデレーターとなり、パネリストにはクロスユー代表理事の東京大学 中須賀教授と防災科研の臼田氏に加えて、内閣府宇宙開発戦略推進事務局の三上建治参事官(準天頂衛星システム戦略室長)がオンラインで参加し、防災分野におけるみちびきの可能性や今後の課題を議論しました。

パネルディスカッションの様子

防災分野においてみちびきが役立つ場面として、臼田氏は講演時に紹介したARの例を引き合いに出し、災害現場での救助活動を効率的に実施する上で、みちびきの高精度な位置情報が役立つと語りました。
一方、中須賀教授は、海洋上にみちびき対応ブイを浮かべて位置情報を取得し、リアルタイムに波浪データを集めることで津波警報ネットワークを構築できるとして、日本だけでなく東南アジアなどの海外へも展開できると期待を述べました。
また、三上参事官は、災害現場において被災状況を把握して復旧工事を行う際に高精度な位置情報が役立つことに加え、「大災害で地上通信が使えなくなった場合に備え、宇宙からの警報システムを考えておくことはとても大事なこと」と話し、みちびき災危通報の有用性を強調しました。

講演後にはネットワーキングも行われ、参加者一同で活発な交流を行い盛況のうちに終了しました。

参照サイト

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