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[報告] CLAS対応ドローンの自律飛行制御を活用したピンポイント配送の実証

2019年05月23日

内閣府宇宙開発戦略推進事務局と経済産業省は、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)と楽天株式会社に協力を要請し、株式会社自律制御システム研究所、三菱電機株式会社、一般社団法人日本ドローンコンソーシアム、公益財団法人埼玉県公園緑地協会と共に、準天頂衛星システム「みちびき」の高精度測位情報をドローンの自律飛行制御に活用し、物流分野でのピンポイント配送を想定した国内で初めての実証実験を熊谷スポーツ文化公園内の「彩の国くまがやドーム」(埼玉県熊谷市)の多目的運動場にて実施しました。

建物外観-1

彩の国くまがやドーム(画像提供:公益財団法人埼玉県公園緑地協会)

建物外観-2

日中

建物外観-3

夜間

ドーム内部

ドームの内部(画像提供:公益財団法人埼玉県公園緑地協会)

本実証は、NEDOが進める「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」(Drones and Robots for Ecologically Sustainable Societies project:DRESSプロジェクト)の一環として実施する取り組みであり、みちびきの衛星測位信号を受信可能なドーム内で実施する国内初の実証実験となります。
楽天は、商品配送用のドローン「天空」とドローン配送専用のショッピングアプリを開発し、千葉県のゴルフ場において日本初の一般向けドローン物流サービスを2016年4月に提供開始しました。その後も全国区各地で様々な実証実験を重ね、2019年1月には民間企業として国内初の目視外補助者無し飛行も実施しました。
さらに2019年3月4日にはNEDOのDRESSプロジェクトの一環として、福島県ロボットテストフィールドにて運行管理システムと連携した10機のドローンを同一エリアに同時飛行(楽天は2機を飛行)させる実証実験にも成功しました。ここでは荷物収納機能を備えた電子鍵付ドローンポートや予約管理システムなどの実験も行いました。
今回のくまがやドームにおける実証では、楽天が開発したドローン「天空」に、みちびきのCLAS(センチメータ級測位補強サービス)に対応したGNSS受信機を搭載しました。使用した受信機は三菱電機株式会社が開発したL6信号対応の受信機「AQLOC」で、ドローン本体の中央部に受信機を、上部にアンテナを搭載しました。下部下には「楽天ドローン」のロゴが入った商品収納用の箱が格納されており、この箱は着陸時に地面へ投下することが可能です。

専用機体の全景

楽天ドローン専用機体「天空」

アンテナ

L6信号対応アンテナ

受信機

L6信号対応受信機「AQLOC」

荷物ホルダー

下部に荷物のホルダーを実装

くまがやドームの多目的運動場は観客席が約3,300席あり、約11,000平方メートルの人工芝が敷き詰められたドーム型の屋内運動施設です。屋内であるため風による影響がなく、正確な飛行が可能となります。ドームの天頂付近はGNSSの電波を通す四フッ化エチレン樹脂ガラス繊維布になっているため、それが電波の減衰要素とはなるものの、精度の高い衛星測位が可能な環境となっています。また、このような屋内施設での高精度な衛星測位による自律飛行の実証実験は世界初(2019年3月時点、当方調べ)となります。

飛行経路

テニスコートの白線上を約50メートル飛行した

今回の実証は、「スポーツの最中に必要になったものをその場でスマートフォンから注文して届けてもらう」という状況を想定して行われました。「楽天ドローン」のロゴが入った箱には、ボールやウェットティッシュ、ハンドタオル、テーピングテープなどが入っています。これらを搭載したドローン「天空」は、テニスコートのコーナーを離陸した後、隣接する複数のコートのベースライン上空を、約50メートル離れた着陸地点に向け自動飛行を行います。着陸地点(配達先)には1メートル四方の赤い枠が描かれ、ドローンはこの枠内への正確な配達を目指します。

ルート全景

50m先の赤枠内に荷物を配達

スマホ画面

楽天のドローン配送用注文アプリ

ドローン飛行-1

飛行中のドローン

スタートの合図と共にドローンは垂直に上昇し、ゆっくりと着陸地点へと移動を開始しました。機体はふらつくことなく安定飛行し、ベースラインの数メートル上空を正確にトレースするように飛行します。着陸地点となる8番コートのコーナーの真上に到達すると、ドローンは正確な位置でピタリと止まり、ゆっくりと下降し始めました。

ドローン飛行-2

目的地の上空で正確に停止

ドローン飛行-3

垂直に降下

ドローン「天空」は見事に枠内の中央であるコートのコーナーに着陸し、実験を見守っていた関係者から歓声が沸き起こりました。その後、ドローンは着陸した状態で荷物を切り離し、再び上空へ離陸し、スタート地点に向けてゆっくりと戻っていきました。
ドローンが去った後に運ばれてきた箱を見ると、離陸の際にドローンの脚部が箱に触れたため、わずかに箱の位置がズレてはいるものの、ほぼ枠内の中央付近に荷物が置かれています。今回の実証では同じ動作を3回繰り返しましたが、いずれの回も中心付近への配達に成功しました。想像以上の精度の高さを見て、関係者から感嘆の声が漏れました。

ドローン飛行-4

荷物を切り離す

ドローン飛行-5

再び上昇

ドローン飛行-6

スタート地点へと戻っていく

荷物の中身

荷物が無事に到着

利用イメージ

商品を受け取る利用者(イメージ)

NEDOのロボット・AI部 主査で、プロジェクトマネージャーを務める宮本和彦氏はこの結果を見て、「素晴らしいのひと言。これまでのドローンでは難しかったことが実現できました」と賛辞を送りました。
「DRESSプロジェクトの研究開発テーマの一つであるドローン同士の衝突回避には、精度の高い位置同定システムが必要です。みちびきの高精度測位技術は、私どもが開発中の運行管理システムの基幹技術であると位置付けていますので、本日このような厳しい環境の中で、これだけ高い精度で飛行試験が成功したことは、ものすごく大きな成果であると確信しています。今回の成果を受けて、しっかりと社会実装へと前進させるのが私どもNEDOの仕事ですので、加盟企業や内閣府、経産省と一緒に研究開発を進めていきたいと思います」と今後の抱負を語りました。

宮本氏写真

NEDOの宮本氏

楽天のインベストメント&インキュベーションカンパニー ドローン・UGV事業部に所属し、実証のジェネラルマネージャーを務める向井秀明氏も、「これだけの精度を繰り返し出せるというのは信頼性が高い証拠だと思います。実験レベルでこれが成功したのは非常に大きなマイルストーンであり、今後、受信機がより小型化・軽量化された暁には、天空にセンチメータ級測位に対応した受信機をぜひ搭載したいと考えています」と期待を述べました。

向井氏写真

楽天の向井氏

国内初となったドーム内におけるドローン配送の実証実験は、みちびきの高精度測位によって狙った場所へピンポイントに荷物を配達することに成功しました。今後、この成果を活かしたドローン配送サービスの実現が期待されます。

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