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[報告] 準天頂衛星システム講演会「みちびきGO」

2016年12月14日

準天頂衛星システム講演会「みちびきGO」を11月25日、G空間EXPO2016開催中の日本科学未来館で開催しました。2018年度の4機体制サービス開始に向けたみちびきの進捗状況の説明と、招待講演として、1)みちびき対応受信機の開発、2)ロボット農機、3)AR(Augmented Reality、拡張現実)観光アプリで行った実証実験、の紹介を行いました。

2018年度の4機体制に向け順調に進行中

── 内閣府宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室 守山宏道室長
内閣府宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室 守山宏道室長

冒頭まず、主催者である内閣府宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室の守山宏道室長が、みちびきの概要と意義を説明しました。

みちびきは現在初号機を運用中ですが、2017年度にあと3機を打ち上げ、18年度から4機体制で運用します。4機のうち3機は準天頂軌道をとり、かならず1機が日本の真上に位置することで、ビルや山が多い日本の国土でも測位精度および測位可能時間を向上させます。また、23年度を目途とした7機体制の確立後は、GPSに頼らずみちびきだけでの持続測位が可能となります。

みちびきは「GPSの補完」「GPSの補強」「メッセージ機能」の3つの機能を提供します。上空視界の限られた山間部や都市部での測位精度を改善する「GPSの補完」、電子基準点を利用してセンチメータ級の測位を実現する「GPSの補強」に加え、メッセージ機能は、「災害時の情報難民ゼロ」を目指して地震、津波、テロなどの災害情報をいち早く周知する「災害・危機管理通報サービス」と、災害時に地上通信網が寸断されても、Q-ANPI端末を避難所に展開して、避難所の状況や個人の安否情報を防災機関などに集約する「衛星安否確認サービス」を提供します。

「みちびきは時間や場所を選ばず安定的に利用できる高精度の位置情報を提供し、安心・安全の社会実現に貢献します」と守山氏は述べました。

会場風景

また、高精度位置情報を活用した新産業・新サービスの創出を目指し、宇宙分野に関心を持つさまざまな企業・団体が集う場として2016年3月、「スペース・ニューエコノミー創造ネットワーク(S-NET)」を創設しました。200以上の企業・団体に加え、総務省、経済産業省、文部科学省などの省庁や、JAXA、産業技術総合研究所、中小企業基盤整備機構なども加わり、従来の宇宙産業とは異なる分野の企業・団体とのコラボレーションで、宇宙を使った新事業創造に向けた活動を進めています。こうした活動を通して、キーパーソンの取り込み、人材育成、プロジェクトの海外市場進出へと3年計画で取り組みます。

「4機体制運用に向け、打ち上げ準備はオンスケジュールで進んでいます」と述べた守山氏は、最後に「みんなのみちびき みんなのカウントダウン」映像制作企画への参加を呼びかけました。全国都道府県の科学館で撮影したカウントダウン映像を打ち上げ中継映像の隅に表示し、それをストリーム配信することで、みんなでみちびきを見守ろうという企画です。

みちびき対応受信機の開発

── マゼランシステムズジャパン株式会社 岸本信弘氏
マゼランシステムズジャパン株式会社 岸本信弘氏

創業以来30年間、衛星測位システムの受信機開発に取り組んできたマゼランシステムズジャパンは、ローコストでありながら測位精度が非常に高い受信機で定評があります。同社のGPSとGLONASSに対応した1周波高精度受信機は名刺の半分ぐらいの小型サイズで、精度は静止時1cm以下、移動時3cm以下ととても高く、トラクターや建設機械、ドローン等の自動運転に利用されています。最寄り基準局からの補正信号や高度にカップリングされた独自のIMU(Inertial Measurement Unit、慣性計測装置)からの出力を加えることで、厳しい作業条件下であってもセンチメータ単位の精度で作業できるロボットトラクターがすでに実用化されています。

みちびきは、日本全国の電子基準点のデータを利用して計算した補正情報を、管制局経由で衛星に送信するため、日本中どこにいても衛星から補正情報を受信できます。「みちびきがあれば、補正情報を転送する携帯電話などの通信手段が必要なくなります。基準局との距離に関する制約がなくなり、日本中どこでもセンチメータ級の測位ができるようになります」と、岸本氏はそのメリットを語りました。

現在は、みちびきからのセンチメータ級補強信号に対応した受信機を3年計画で開発中です。評価用ボードが完成し、2017年にみちびきの信号を使用した測位評価をスタートします。17年中には現在の1周波ボードと同程度のサイズに小さくして、現在使用中の1周波ボードからのリプレイス(置き換え)を推進していく予定です。

会場風景

このリプレイス用ボードでは、全ての測位衛星群の周波数に対応したRF(Radio Frequency:アナログチューナー部)チップを搭載する計画です。最終的には1cm四方程度のデバイス(機器)を目指します。「小型化して消費電力も低減することで、トラクターや作業機械だけでなく車両、歩行者、自転車など、V2X(車車間・路車間通信)システムにおける位置情報の精度をさらに向上させることができます」(岸本氏)とのこと。

価格も、現在の試作品は1ボード当たり100万円台ですが、1万円台にまで下げて、従来は建設、農業、フォークリフト、ドローンなどの産業分野に限られていた用途を、作業員ロボット、自動車、車いす、高齢者見守りなどのパーソナルユースへと広げていきたい意向です。

みちびきに対応したロボット農機

── フューチャアグリ株式会社 蒲谷直樹氏
フューチャアグリ株式会社 蒲谷直樹氏

メーカーのソフトウェア技術者から脱サラして農業へと転じたフューチャアグリの蒲谷氏は、「製造業マネージャー的思考」で農家の繰り返し作業の自動化を目指しロボット開発を事業化した異色の起業家です。施設園芸へのロボット導入を目指し、工業的なマネジメントとプロセスデザインにより、ロボット開発と実証を行っています。

ロボット化の目的を「高齢化した就農者や新規就農者が農業を続けられるよう、作業者の負担を軽減して生産性を高めること」と定め、「運搬作業」「除草」「環境計測」の3つの繰り返し作業について、50の農家で106台のロボットを同時に動かし実証実験を行いました。

この時に苦労したのが、昼は運搬・夜は除草に利用する自律移動台車や、環境計測する栽培見守りロボットが、移動のために「自分の位置を正確に特定する」ことでした。「ハウス内の通路幅は70cm、ロボットの幅は50cmなので、スムーズに動かすには通路に一定間隔でマーカーを設置する必要があり、大変な作業でした。みちびきからセンチメータ級信号が受信できれば、そのマーカーが不要になり、一気に労働生産性が上がります」と蒲谷氏はそのメリットを語りました。

会場風景

みちびきのセンチメータ級測位信号で農道の草刈りロボットを動作させた実証実験では良い結果が得られたため、現在は受信機の価格が下がるのを待っているとのことです。「日本の農業は、大型ロボットよりも労働集約産業を支えるための小型農業ロボットの方が役立ちます。みちびきの高精度な信号は施設園芸や農道管理にも使えるので、どんどん受信機の値段を下げて、広く展開していただきたいと思います」と蒲谷氏は期待を述べました。

地方でのAR観光アプリの可能性

── 株式会社ピーエーワークス 菊池宣広氏
株式会社ピーエーワークス 菊池宣広氏

ピーエーワークスは、実在の町を舞台のモデルにした作品を数多く制作しているアニメーション制作会社です。同社のオリジナルアニメ「花咲くいろは」の舞台である「湯乃鷺(ゆのさぎ)温泉」のモデルとなっている石川県湯涌温泉では、アニメの中で毎年10月に行われるという設定の「ぼんぼり祭り」を模した「湯涌ぼんぼり祭り」を2011年から実際に開催しており、第6回となる今年は一般観光客も含めて1万4000人が訪れる地元の祭りとしてすっかり定着しています。

2015年の「ぼんぼり祭り」では、みちびきの実証実験として、アニメ内のキャラクターと一緒に舞台モデルの土地を旅することができる「花いろ旅アプリ」のARコンテンツの精度補完にみちびきの測位信号を利用しました。駅の上り線ホームと下り線ホームで異なるARを出し分けることに成功するなど、位置情報の精度が上がることで、物語の世界に浸れる豊かなAR体験が可能となりました。

「ARコンテンツを楽しんでいる人には、この場所が私たちのいる世界とは別の場所に見えています。『少しでもずれた場所にコンテンツが表示されると、その時点で現実に引き戻されてしまうので、精度は重要』という声が利用者からもありました。みちびきによる高精度な測位は、旅の新たな楽しみ方につながる可能性があるのではないでしょうか」と菊池氏は述べました。

会場風景

また、菊池氏は、みちびきが4機体制で常時利用可能になれば、観光分野での利活用が進むことに期待を寄せました。「位置情報によって、観光地を紹介するだけでなく、物語の中に観光地が入り込むことが可能になります。物語は導入で、そこから位置情報で場所と結びつくことで、その場所の楽しみや喜びを得ていただくきっかけになればうれしいです」と述べました。また、インバウンド(=海外から日本を訪れる観光客)向けにも、日本文化の持つ物語性を外国人に伝える技術として、高精度な位置情報とARを使うアプローチは有効であるとしました。

初号機をJAXAから内閣府に移管へ

── 準天頂衛星システムサービス株式会社
日本電気株式会社 神藤英俊氏

進捗状況のトピックとして、2017年に予定される初号機のJAXAから内閣府への移管について、日本電気株式会社の神藤英俊氏が説明しました。

これまでみちびき初号機はJAXAの地上システムが運用していましたが、来年から、内閣府が新たに整備した地上システムに運用を切り替えます。1カ月程度の調整期間内にシステムの適合性や性能確認を行います。この期間中はみちびきの利用はできません。その後「試験サービス」を開始し、2017年度中にみちびき2、3、4号機の3機を打ち上げます。

試験サービス開始後は、衛星測位、サブメータ級測位補強、センチメータ級測位補強の3サービスを提供します。信号は常時配信するので、実証実施日程の調整は不要になります。また、サービス提供状況はウェブサイトから確認できるようになります。

最後に内閣府の守山室長が、改めて「2017年度に4号機までの打ち上げを完了する」スケジュールは変更なく進んでいることを報告。「産業界、アカデミズムの皆さまと利活用について幅広く議論しており、新たなビジネスの検討などがあれば、準天頂衛星システムサービスやS-NETの窓口を通してぜひ相談をお願いします」と呼びかけ、講演を締めくくりました。

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