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第2回準天頂衛星利用拡大アイデアソン開催レポート

2014年09月10日

宙(そら)から暮らしを良くするアイデアソン── 大阪発! みんなで創る準天頂衛星イノベーション

2014年8月1日、大阪ビジネスパーク内のNEC関西ビル38階多目的ホールにて、第二回準天頂衛星利用拡大アイデアソンを開催しました。大阪平野が一望できる見晴らしの良いスペースは、自由なアイデアの発想にぴったりの場となりました。その様子の一端をお伝えしましょう。

ストーリーテリング

ストーリーテリングの様子

慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科の神武直彦准教授がファシリテーターを務めた今回のアイデアソン。最初のセッションは「ストーリーテリング」。ペアでの対話、グループでの対話を通して、自分のアイデアを言葉にすることで明確化し、他者のアイデアを聞くことでさらに発想を膨らませます。

時間が来たら、全体でアイデアを共有。この時、「自分のアイデア」ではなく、「自分が面白いと思った他者のアイデア」を紹介していきます。どこが面白いかを第三者の言葉で説明することで、伝わりやすく、また新たな気づきが得られます。

【ここで出てきたアイデア】
・自分のアクティビティを測定することで自分の行動の変化がわかる
・街を使った鬼ごっこを、GPSを使ってやれば面白い
・正確な位置がわかるといっても常につながっているのは嫌
・未来の特定の時間に「いなくてはいけない場所」を登録しておくと、現在の位置に応じて「どの経路でどのタイミングで行動を起こさなくてはいけないかを知らせてくれる」

インスピレーショントーク

ここで、2人のゲストによるインスピレーショントークが行われました。

アジア防災センター 名執潔所長

アジア防災センターの名執 潔所長は、防災分野における衛星の活用を紹介。アジア防災センターは2006年からJAXAなども参加する宇宙・防災連携機関「センチネル・アジア」に参加しています。活動内容は大規模災害発生時に被災国からのリクエストに応えて衛星写真を始めとするその地域の観測情報を共有することです。東日本大震災時にはがれきの広がりや浸水エリアの把握を空から行いました。「被災地の三陸地方は陸からのアプローチが悪かったので、衛星写真を利用した状況把握には切迫性がありました」(名執氏)

立命館大学 西尾信彦教授

立命館大学の西尾信彦教授の研究テーマは、Wi-Fiや屋内測位技術を利用して人の流れを把握する「人流解析」。2020年の東京オリンピック開催に向け、人の動きを把握することはますます重要になるが、その下にはかならず「地図」が必要であることを指摘しました。「準天頂衛星の測位でもわかるのは座標だけなので、“その座標をどうするか”まで突っ込んで考えてほしい。地図や音声と組み合わせて社会インフラになるようなものを期待したい」(西尾氏)

アイデアを形にするためのヒントが詰まったプレゼンテーションを、参加者は興味深く聞いていました

マグネットテーブル

インスピレーショントーク終了後は、いよいよチームづくりです。ここまでのプロセスで自分が「これがやりたい!」と思ったアイデアを1つだけ選んで紙に大きく書き、その紙を胸のところに掲げて全員で輪になって立ち、他の人のアイデアを見ながら、チームをつくります。

チームができたところで、チームごとに話し合い、大きな方向性を決め全体に共有しました。

ブレインストーミング

まずはチーム内で、テーマに沿った準天頂衛星を活用したサービスのアイデアを20分間出します。この時は、自分のアイデアにも他人のアイデアにも「ダメ出し」をせず、とにかく数をだすことを優先して、付箋紙1枚に1つのアイデアを書いていきます。続いて、そのアイデアを整理するための「軸」は何かを話し合います。軸が決まったところで、いったん、チームごとにどのような軸を設定したかを発表しました。

(チーム1)「道」についての情報共有

・プッシュ←→プル(情報を教えて欲しいのか、自分が知りたいことがあるのか)
・道そのもの←→お店やトイレなど道の周辺

(チーム2)救急救命

・個人←→社会
・日常←→非日常

それぞれがどこまでの範囲を指すのかを検討中。

(チーム3)人と人のつながり

・生活に近い←→日常
・コミュニケーションの距離が近い←→遠い

(チーム4)移動情報

・B2B←→B2C
・都市で役立つ←→自然の中で役立つ

(チーム5)“スケルトン”

・社会←→個人
・自分の位置情報を使う←→使わない

それぞれのチームで軸を決めたあと、アイデアをマッピングして、「空いているところにプロットできるアイデアは無いか?」をさらに考えることでアイデアをふくらませます。

投票

ブレインストーミングの時間が終わったら、次は投票。全員が同じ枚数のシールを持ち、良いと思ったアイデアにはっていきます。投票結果を参考にしてチームで話し合い、最終的に次の「クイックプロトタイピング」の工程に進めるアイデアを1つ選びます。

クイックプロトタイピング

投票の後、話し合いをしているテーブルに、大きな紙が配られました。1枚の紙にアイデアをひと言で表すタイトル、キャッチフレーズ、ターゲット、特徴をまとめた「サービス企画書」を作成します。どのチームも真剣に、時には議論を戦わせながら1つのアイデアを企画書につくり上げていきます。

NEC 曽我広志プロジェクトディレクター

中間発表の時間には、準天頂衛星システムの開発担当者であるNECの曽我広志プロジェクトディレクターが、各チームのアイデアに対して、エンジニアの立場でアドバイスしました。

プレゼンテーション

最終的に発表されたアイデアは、7つになりました

(チーム1)「クールロード」

(チーム1)「クールロード」

キャッチフレーズは「快適、最適な道を自動選択」。ターゲットは美白を目指す、日焼けを気にする女性です。あらかじめ利用者の属性として「日影を通りたい」「タバコの煙を避けたい」を登録しておき、属性情報と一緒に歩く道の情報を収集します。

(チーム2)「SOGシステム」

(チーム2)「SOGシステム」

「SOG」は「Search Old "G" 」の略。"G"はじいちゃんの「ジー」であり「Girl」のG。特徴は、高齢者がどこにいるのかを把握し、倒れた時には病院と家族に連絡するところから病院での受け入れまでをノンストップに行います。システムで保有する情報は最低限受け入れに必要となる年齢、血液型、病歴、住所、家族情報だけにとどめ、準天頂衛星システムを使って目的地までの最短ルートを救急車に提供します。

(チーム3)「おもろい人ナビ」

(チーム3)「おもろい人ナビ」

面白い人がいたらその人にバーチャルアイテム「あめちゃん」を渡すことで、どの地域に面白い人がたくさんいるかがわかります。おもろい人が多い街や商店街が可視化されるので、街の活性化ができる。イベントとして、100人の自薦・他薦による「おもろい人」を集め、その人が発信する位置情報を頼りに会いに行くといったゲーム性も付加できます。

「会員制ヒッチハイク」

「会員制ヒッチハイク」

「ちょっとだけ車に乗りたい」人と、「ついでだから一緒に乗せてもいいよ」という人が出会うサービス。車に乗りたい人は「どこからどこまで乗りたい」、車の運転者は「どこからどこまで移動する」という情報を登録しておきます。マッチングすると双方に通知されます。トラブル防止のために、車に乗せる人も乗る人も会員制のサービスとします。

(チーム4)「地雷くん」

(チーム4)「地雷くん」

駐車禁止箇所の地面に準天頂衛星システムの電波を受信する受信機「地雷くん」を埋め込んでおきます。地雷くんの上に車が駐車すると電波がさえぎられるため、車が止まったことがリアルタイムで把握できます。一定時間電波がさえぎられたままであれば、駐車していることを警察が感知し、即座に違反切符が発行されます。

「はずれんじゃー」

「はずれんじゃー」

リアルタイムで最高精度の天気情報を収集するのが目的のシステムで、傘に送信機をつけて開いたときに「開いた」というメッセージを準天頂衛星システムに送信します。傘が開いた=「雨が降っている」ということですから、どこで雨が降っているかが正確にわかります。ゲリラ豪雨など、予報が難しいものもリアルタイムで把握できます。

(チーム5)「タイムスリップビュー」

(チーム5)「タイムスリップビュー」

スマートフォンやタブレットのカメラを今の街並みにかざすと、その場所の昔の風景が見えるというもの。2020年、オリンピックの年に観光に来る人たちに、昔の日本の良いところも見てもらえるアプリです。建物や風景だけではなく、歩いている人にかざすと昔の人の服装になるような遊びがあってもいいかもしれません。

チェックアウト

最後に、参加者全員が順番に「準天頂衛星システムがある2018年、どんな社会になっているか、自分は何をしているか」をひと言ずつ発表し、それぞれが「準天頂衛星システムがある2018年」に向けて思いをはせ、半日間のアイデアソンは終了しました。

講師のコメント

慶應義塾大学大学院 神武直彦准教授

神武准教授

今回のアイデアソンの参加者の方は元々宇宙が好きで、もっと宇宙の仕事をしたいというエンジニアの方と、地域活性化やイノベーションに興味があるという方が融合して、アイデアが生まれました。大阪ならではの、「役立つことを考えながら面白さも大切にする」という視点が、前回に比べて、また、斬新なアイデアがいろいろと創出されたと思います。また、女性の参加者が多く、「普段の生活のちょっとした課題を解決する」アイデアが多かったのはそれも反映されていたのかもしれません。

アジア防災センター 名執潔所長

名執先生

私の専門分野の防災で重要な課題となっているのは、「人が近づけないところをどのように監視できるか」ということで、日本でも人口が減ってきたので、山の中の誰もいないところで地滑りが起きていたりするようなことも発生しています。準天頂衛星システムのような測位精度が高い衛星で、植生や生態系まで含めて見守るようなサービスができれば、国土の管理水準を下げなくても良くなるのではないかと期待しています。

立命館大学 西尾信彦教授

西尾先生

アイデアソンは、いろいろな参加者の方が議論しているので、面白いと思いました、私はついビジネスよりに、「これは商売になるのか」という目線で考えてしまうのですが、参加者の中には「楽しい」を突き詰めて考えている人もおり、われわれが思いつかないような可能性がありそうです。

参加者のコメント

・東京のアイデアソンに参加した上司に勧められて参加しました。違う職種の方が集まって、一緒にアイデアをまとめるプロセスは楽しかったです。

・エンジニアの方は現実的な視点の方が多いので、学生の自分はあえてクリエイティブなアイデアを出した。話をしていくうちにアイデアが生まれたのは楽しかった。

・アイデアはたくさん出せたが、準天頂衛星システムを使った時ならではのメリットをもう少し強く出せなかったのは反省点。

以上

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