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[報告] トランジスタ技術とみちびきコミュニティの共同オフ会を開催

2025年03月03日

2025年1月20日、エレクトロニクス技術の専門月刊誌「トランジスタ技術」(CQ出版社)とみちびきコミュニティの共同オフ会「自律走行ロボット×準天頂衛星システム『みちびき』」(主催:準天頂衛星システムサービス株式会社、共催:トランジスタ技術(CQ出版社)、事務局:一般社団法人クロスユー)を、東京・日本橋のX-NIHONBASHI BASEでハイブリッド形式により開催しました。このイベントは、「トランジスタ技術」が2025年1月号で行ったロボット特集をもとに、ロボットが自律移動するための重要な位置推定技術である「みちびき」を利用した測位技術の研究会(連携オフ会)として企画されたもので、当日は内閣府(宇宙開発戦略推進事務局 準天頂衛星システム戦略室)による講演や「トランジスタ技術」編集部の司会によるセッションなどが行われました。その概要を紹介します。

会場となったX-NIHONBASHI BASE

三上参事官

冒頭、内閣府宇宙開発戦略推進事務局の三上建治参事官(準天頂衛星システム戦略室長)が挨拶に立ち、昨年「トランジスタ技術」が衛星測位の特集を行ったことから、取材やイベント参加などの交流が始まった経緯を紹介し、「このイベントも両者の“掛け算”の一つの成果であり、これをきっかけに今まで会わなかった方々が出会い、新しい技術が生まれることを楽しみにしています」と期待を語りました。

齊田技術参与

内閣府の齊田技術参与

続いて準天頂衛星システム戦略室の齊田優一技術参与が登壇し、6号機が打上げ間近となっている「みちびき」について説明しました。齊田技術参与は、みちびきが7機体制になるメリットとして、1)みちびきのみを用いた測位が可能になること、2)受信範囲が広がり測位精度が安定すること、3)衛星間測距、地上/衛星間測距によりユーザー精度が向上することなどを挙げました。また、衛星測位について、最近は専門家向け以外に一般向けの技術解説書も見られるようになり、「トランジスタ技術」も2024年7月号~11月号まで5号連続でみちびき企画を連載したことを紹介しました。その上で、良いビジネスアイデアがあれば、内閣府が毎年実施している「みちびきを利用した実証事業」に応募してほしいと呼びかけました。

その後のセッションでは「トランジスタ技術」編集部の及川 健氏が司会を行い、産学の様々な立場から興味深い講演や報告を行いました。

司会を担当した「トランジスタ技術」編集部の及川氏

久保教授

オンラインで参加した久保教授

立命館大学の久保幸弘教授(理工学部 電気電子工学科)は、「トランジスタ技術」2024年2月号に「1日スタートアップ! cm級GPS自律走行ロボットの製作」を執筆し、記事のためにテスト開発用の電動クローラユニット「CuGo V3」とドローン用フライトコントローラー「Pixhawk」を搭載したGNSS測位検証用ロボットを製作しました。2025年1月号では新たなロボットを製作して「自動運転ロボットのおとも! みちびきcm級GPS測位が進化中!」を執筆しました。2024年に作った検証用ロボにセプテントリオのCLAS(センチメータ級測位補強サービス)対応受信機「mosaic-CLAS」を搭載したロボットと、CLAS非対応の「mosaic-X5」を搭載したロボットの2種類を製作し、走行実験を行ってCLASと単独測位の精度を比較しました。この走行実験では、約50mの直線コース上にウェイポイントを4つ設定して走行させ、単独測位では軌跡に左右のふらつきが見られたのに対し、CLAS測位ではほぼ直線となることを確認できました。実験を行った学生たちも「CLASの測位精度の良さを改めて実感した」と話したといいます。久保教授はドローンの飛行制御の研究も行っており、今後はCLASやMADOCA-PPP(高精度測位補強サービス)を活用した自動飛行にも取り組む方針です。


セプテントリオ 井上氏/瀬石氏
井上氏と瀬石氏

井上氏(左)と瀬石氏(右)

セプテントリオ株式会社の井上雅永氏は、自社のGNSS受信機について解説しました。同社はGNSS受信モジュール「mosaic」シリーズを始め、ボードや筐体型など多種多様な受信機やアンテナを提供しており、これらをRaspberry Piなどの小型シングルボードコンピュータと組み合わせれば簡単にロボットを製作できます。同社のGNSS受信機は、ソーラーパネルに囲まれたマルチパスが起きやすい場所で使用する芝刈機に採用されるなど測位精度の高さと信頼性が評価されており、CLAS対応受信機はニンジンの自動運搬ロボットなど農業の現場にも採用されています。また、測位航法学会が毎年開催している「GPS・GNSSロボットカーコンテスト」では、同社のGNSS受信機を搭載する機体が数多く参加しています。続いて瀬石博之氏が、セプテントリオのロボットに対する取り組みを紹介しました。同社はオープンソースのハードウェアやソフトウェアに積極的に取り組んでおり、ハードとソフトのいずれも幅広くサポートしています。使いやすく購入しやすいプラットフォームへのGNSSの統合を目指しており、様々なオープンソースのリソースを使うことで高精度・高信頼性のGNSS測位を複数のロボティクスプラットフォーム上にすばやく実装できます。また、電離層遅延やマルチパスの低減技術や高いリフレッシュレート、セキュリティの高さなども同社の特徴です。


アークエッジ・スペース 坂本氏
坂本氏

株式会社アークエッジ・スペースの坂本伸広氏(経営企画室)が、高度900~1,200kmの低軌道を周回する小型衛星コンステレーションにより高精度・高強度の測位情報をグローバルに提供できるシステム「LEO(Low Earth Orbit)-PNT」を紹介しました。LEO-PNTは従来のGNSSに比べて地球に近い位置にあるため、高強度の測位信号を配信可能であり、信号の減衰や妨害に強いという特徴があります。また、地球上の受信機から衛星を見た視線方向ベクトルの変化が大きく、測位情報の収束時間を短縮することができて、マルチパスの影響緩和も期待できます。さらに、従来のGNSSより短い収束時間で高い測位精度を実現できる可能性もあります。衛星をグローバルに展開することができ、みちびきと連携すれば、MADOCA-PPPなどの測位サービスの提供エリア拡大にも寄与すると期待されています。LEO-PNTは、基本的に既存のGNSS測位信号を補完・補強することを目的としており、既存GNSSとは別のシステムが併存することにより、単一システムへの依存度を引き下げてリスクを分散できます。これを実現するには様々な技術的課題がありますが、今後は自動車や通信などのユーザーやパートナー企業と連携しながらサービス開発とデモ実証を進めていく方針です。


ソニーグループ/JAXA 江塚氏

江塚氏

ソニーグループ株式会社 リサーチプラットフォーム/国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の江塚風也氏が、ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社が開発・販売するIoT用ボードコンピュータ「SPRESENSE(TM)」及びL1/L5信号に対応したGNSSアドオンボード、そしてJAXAが公開したMADOCA-PPPのユーザー測位ソフトウェア「MALIB」などを紹介しました。MALIBは、JAXAが2024年10月にGitHubでオープンソースとして公開したプログラムパッケージで、みちびきから発信されるL6信号を受け取って高精度単独測位を行うことができます。このソフトウェアはリアルタイム測位が可能で、様々な受信機フォーマットに対応しており、IoT用ボードコンピュータをはじめとする多様な領域での活用が期待されています。

中須賀教授

閉会にあたって東京大学大学院 工学系研究科の中須賀真一教授(一般社団法人クロスユー代表理事)が挨拶に立ち、「とにかく非宇宙産業の方々に入ってきていただきたい。日本にはSLAS(サブメータ級測位補強サービス)やCLAS、MADOCA-PPPなど海外のGNSSにない高精度の測位情報や認証サービスがあり、GNSSにより正確な時間も得ることができる。これらを使ってどのようなビジネスができるのか、ぜひ皆様に考えていただきたいと思います」とみちびきの利活用を呼びかけました。セッション後はネットワーキングの時間となり、参加者同士の活発な交流が行われ、盛況のうちにイベントは終了しました。

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