コンテンツです

[講演] LBJ2017で位置情報に関するスポーツとビジネスの講演

2017年06月22日

千葉・幕張メッセで6月7~9日に開催された「ロケーションビジネスジャパン2017」。その展示会場に設置されたオープンステージでは、位置情報の関連したさまざまな企業による事例発表が行われました。今回はその中から6月7日にオープンステージで行われた2つのセミナーを紹介します。

1)スポーツ分野での衛星測位技術の活用

── アシックス 坂本賢志氏

アシックス坂本氏の講演の様子

坂本氏の講演の様子

株式会社アシックスの坂本賢志氏(スポーツ工学研究所 IoT担当マネジャー)は、「スポーツ分野における測位技術活用事例」と題して、スポーツへの測位情報の活用方法について講演しました。

▽高精度な衛星測位で効果的なコーチング

アシックスの坂本氏

アシックスの坂本氏

坂本氏がスポーツ分野への活用として挙げたのは、ランニング軌跡の記録や、球技での戦略・パフォーマンス分析、定量的データに基づいたコーチング、オーバーワークの防止による安全性向上などの事例です。また、高精度な衛星測位による定量的データによって、効果的なコーチングや用具の最適設計など、さまざまな効果が期待できると語りました。

さらに、マラソンにおける測位技術の活用事例を紹介しました。現在のマラソンではICタグ(Integrated Circuit tag)によるタイム計測が主流で、最近はより詳細なパフォーマンス計測を求めて、GPSウォッチやスマートフォンを携帯するランナーも登場してきましたが、端末の重量や都市部でのGPS測位精度が課題となっています。

そこでアシックスは、2015、16年の神戸マラソンにおいてウェアラブルデバイスやBLE(Bluetooth Low Energy)タグを用いた実証実験を行うと共に、みちびきによる高精度測位の実証実験も行いました。同実験では、大会当日にトップランナーが走行した軌跡をみちびきで測位し、理想的なコース攻略情報として、スマートウォッチを装着した後続のランナーに対してリアルタイムにコーチングを行いました。

これにより、後続ランナーはスマートフォンを携帯することなく、必要な情報を入手できます。同実験では、電波のマルチパス(建物等での反射)に対するみちびきの効果も確認でき、都市型マラソンにおいて、みちびきを活用する測位精度の高さを証明する結果となりました。

▽スポーツの他に遭難者の救助にも活用

このほか、みちびきを活用したテニスプレーヤーのトラッキング(移動特徴分析)の実証実験も紹介しました。この実験では、テニスプレーヤーがみちびき対応受信機を装着して軌跡を記録しました。その結果、大きな建物の横に併設されたテニスコートにおいても、GPSだけの測位に比べてみちびき対応受信機を活用したほうが誤差が少ないと確認できました。

坂本氏は、高精度測位によって選手の軌跡を記録することでプレースタイルを分析し、それぞれのスタイルに合致したシューズを提案できると語りました。さらに「みちびきは街中だけでなく山岳部にも強いので、今後はトレイルランニングやフリークライミング、クロスカントリーなどのスポーツや、遭難者の救助などにも活用できると思います」と、今後の展開について期待を述べました。

 

2)みちびき連携のソリューションでビジネスを高度化

── 日本電気 神藤英俊氏/古谷聡氏、電通サイエンスジャム 矢作裕一氏

続いて、「準天頂衛星と連携したソリューションによるビジネスの高度化」と題して行われた、みちびきと連携したビジネス面での活用事例をテーマにした講演を紹介します。

左から日本電気の古谷氏、神藤氏、電通サイエンスジャムの矢作氏

左から日本電気の古谷氏、神藤氏、電通サイエンスジャムの矢作氏

▽今後は生活に密着した場面で使える(神藤氏)

日本電気の神藤氏

日本電気の神藤氏

日本電気株式会社の神藤英俊氏(準天頂衛星利用推進室)は、2018年4月からみちびきが4機体制で運用開始することを紹介した上で、測位関連サービスおよびメッセージ通信関連サービスの2つがユーザーに提供されると説明しました。

また、みちびきに対応した受信機や、みちびきの高さ(仰角)を確認できるウェブ・スマートフォン用ツール「GNSS View」などを紹介しました。「みちびきに対応した受信モジュールの価格が安くなってきているので、今後は皆さんの生活に密着した場面で使えるようになると思います」と語りました。

▽みちびきの測位に「正確な避難誘導」を期待(矢作氏)

電通サイエンスジャムの矢作氏

電通サイエンスジャムの矢作氏

株式会社電通サイエンスジャムの矢作裕一氏(テクニカルディレクター)は、電通が開発した防災アプリ・システム「LifeLine(仮称)」とゼンリンデータコムと共同開発した「全国避難所データベース」を紹介しました。

同アプリは、地震速報などの通知によって自動的に起動して速報などを表示するほか、避難所へのルート案内、家族や友人の安否確認などの機能を搭載しています。通信環境がオフラインの場合でも地図を利用することが可能です。

コンテンツ管理システム(CMS)は、PCやタブレットで避難所を設定・管理できます。アプリとの連動により、ユーザーの年齢層や居住地などの情報を把握することも可能で、避難所ごとにチェックインした人の属性を分析し、その後の支援活動に役立てることができます。

「全国避難所データベース」の解説スライド

ゼンリンデータコムと共同開発した「全国避難所データベース」

避難所情報はゼンリンの住宅地図を用いて、独自の座標補正をかけた全国避難所情報で、約15万件を収録しており、情報更新も定期的に行われます。データ項目は、名称や種別、緯度・経度、高度などのほか、災害別の利用条件や「地域住民向け」「帰宅困難者向け」の区分など計17項目を用意しています。

このほか、アプリから投稿されたハザード情報をもとに、管理者端末からジオフェンス(地理的な境界線)を張って、エリア内にいるユーザーやエリアに入ってきたユーザーに対して、待避メッセージなどを自動的に配信する機能や、SNSと連携して、ユーザーが送信するメッセージのキーワードと位置情報を把握することで、特定のレスポンスを送信する機能なども検討しています。

矢作氏は、同アプリを使って行った避難訓練の行動履歴を紹介し、「都市部の狭い路地ではGPSの軌跡に誤差が大きくなりますが、こうした状況で今後、みちびきが役立ってくると思います」と語り、みちびきの測位に「正確な避難誘導」と「正確な位置情報に基づいた適切な投稿と伝達」の2点を期待するとしました。

▽誤差2m以内の精度で位置推定(古谷氏)

日本電気の古谷氏

日本電気の古谷氏

日本電気株式会社の古谷聡氏は、AI(Artificial Intelligence、人工知能)を活用した地磁気による屋内位置推定技術を紹介しました。古谷氏はこの技術について、専用デバイスが不要で、「遮蔽空間でも位置測定が可能」「誤差2m以内の精度で位置推定が可能」といった特徴があると解説しました。

最後に神藤氏がまとめとして、山間部や都市部における衛星測位がみちびきによって安定し、高精度になることを改めて紹介し、スポーツや観光、災害時の避難などさまざまな分野に活用できると語りました。「屋内外シームレスな測位はとても重要で、これをビジネスにするためにも、みちびきというキーワードは外せないと考えています」と期待を述べました。

参照サイト

関連記事